第27話 死神の祝福

ふわふわとした足取りで私はホテルに戻って来た。


「クレア大丈夫か? 強引だったが君を守るにはこの方法がいいと思ったんだ」

「アスラン様もご存じだったのですよね」


「殿下とロザリアも交えて何度か話し合った」

「私は抜きですか、平民ですものね」


「クレア、悪かった。君を煩わせたくなかった」

「ええ、分かっています。 疲れたので一人にして下さいませんか」


「ホテルを出よう。もう一人にさせられない」

「どこへ行くのですか?」


「実家に連れて行く。俺も戻るから」

「考えさせてください」


『連れて戻りたい』と懇願するアスラン様を断って帰ってもらった。

やっと一息ついてベッドに倒れ込む。

「考える事なんか何も無いわ。私はアスラン様を愛している」



今私は夢と現実の狭間にいる。


私は誰なんだろう────────




傍で気配がした・・・男が迎えに来たんだわ。


恐れていた時がやって来た。



「戻りますか?」


「あ・・・アスラン様の傍にいたい」


「あなたはクレアバーンズ夫人 夫はクロード」

「違う、私はただのクレア・・・アスラン様を愛してるの」


死神はじりじりと私との距離を縮めていく。


「夫の介護を受けて静かに死を待つだけのバーンズ夫人」

「やめて、もう少し・・・死にたくない。ここに居させてお願い!」


「ここに残れば前回以上に苦しい生活になるかもしれませんよ」

「でも誰かの為ではなくて、自分の為に生きていけるわ」


「あなたは誰です?」


死神は私の目を覗き込み瞳の奥を探っている。


「私はクレア ただのクレアよ」


「ふっ、ケリーバーンズの呪縛が解けたようですね。黒い糸に操られたマリオネット、それがクレアバーンズでした」

「お爺様の呪縛?」


「彼は闇に落ちて行きました。彼の怨念の糸に縛られ、貴方も闇に引き込まれていく運命にあった。貴方は善人で罪は無い。なのに闇の世界にお連れするのは私も不本意でした」


お爺様は善人ではなかった。一代で店を大店にしたのはそれなりに悪行も重ねてきたのだろう。

全ては店の為。父が愚かな為。私を縛り付けてバーンズの店を守りたかったのね。


「今は愛情という糸が絡まっていますがね」


「アスラン様の糸ですか」


「それだけでは無い、貴方は多くの人に愛されている」


「まだここにいてもいいの?」


「もうここは貴方の世界です。過去はご自身で消したでしょう?」


「 …神様 」


「あなたに死神の祝福を」そう言って男は私の額に口づけた。


「死神さん、ありがとう」


それからは死神に会うことは無かった。

この世界は夢ではない、現実の世界になったのだ。




     ***




翌日、朝から荷物を片づけていると部屋にアスラン様が訪れた。


真っ赤な薔薇の花束を抱えて、照れ臭そうだ。


「ロザリアに叱られた。花も宝石も用意しないでプロポーズなんて馬鹿だと」

そう言いながら花束を差し出した。


「クレア 結婚して下さい」


「はい喜んで」花束を受け取るとホッとした顔でアスラン様はポケットから小箱を出してきた。


「花はこっちに、手を出して」

差し出した手を取ると指に金の指輪を填めてくれた。


「俺は一生クレアを大切にする。浮気もしないし泣かせることも絶対しない」


「嬉しい。そのお言葉忘れないで下さいね」


「ああ、それでだな、クロードって誰なんだ?」


ええ、今それを聞きますか?


「ディーンの協力って何をするんだ?」


クロードは求婚者でお断りしたと説明しても火事の時に彼の名を呟いたのが納得いかないようだ。

更に寮でディーンと同室と聞いて顔色を変えた。


「男性と同室だって? それはダメだ!」


「他にも2名女性が同室ですよ。バレないように公爵家に協力するだけです」

「同室なんて俺はそんなの聞いてない────」


嫉妬されるなんて、ちょっと嬉しい。

「だめだ」「絶対ダメだ」と言われながら熱いキスを受けていた。


ディーンとの衝撃的な出会いは墓場まで持っていこう。

ちなみに私を抑えた手は清潔な手だったそうだ。

『無かったことにしてくれ』と泣きそうな顔で言われた。


「何を考えている?」

「ふふ 幸せだな~と思って」


「アッシュと呼んで欲しい」

「アッシュ様」

「様はいらない」


キスを繰り返しているうちに「ロザリアに邪魔されたから」

そう言って私を抱き上げる───



 コンコンコン



「嘘だろう」「誰かしら」



  コンコンコン



「クレア嬢 迎えに来た」マルク様の声が。


「え、もう? さっき荷物を片づけておくようにと連絡があったばかりなのに」


「あいつ・・・クレア気を許すな。 ────要注意だ」


アスラン様は少し嫉妬深いと判明した。

彼にプロポーズをされた日に私は公爵家に連れて行かれたのでした。

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