第15話 父の後悔

 間もなく学園が始まる春の夕暮れに一報が入った。

 仕入れから戻る途中のお父様の馬車が襲撃されたのだ。


 寮に入る準備をしている最中に息を切らせたマックスさんが駆け込んで来た。


「お嬢さん、ゲイリーが襲われて怪我を・・はぁはぁ・・はぁ」


「怪我の具合は酷いの?」


「いえ、警備隊に守られて軽症です」


「良かった~~~~」


「犯人が、その 警備隊でして、それを警備隊が阻止したそうです」


「うん?」


 詳しくは第一警備隊の団員が馬車を襲いアスラン様所属の第二警備隊が父を守ってくれた。

 これは前回では無かった出来事だ。


「アスラン様はずっと見守ってくれていたのね。マックスさんも協力してくれてありがとう」


「いいえ、あの女狐が尻尾を出したんじゃないですかね? お嬢さんが店に来なくなって、アイツら遣りたい放題だったんですよ。いい加減もう戻ってくださいよ」


「あの店はお父様が守らないといけないの。私は戻らない」


「そんなぁ、従業員一同お嬢さんを待ってるんですよぉ──」


「男爵がご無事ならそれでいいわ。私はもう他人なのよ」


 恨めしそうなマックスさんを帰らせて私は荷物の整理を続けた。

 明日はカイトが寮まで送ってくれる。この家とは暫くお別れだ。

 事件の真相は気になるが、後でマックスさんに教えてもらおう。



 ***



 翌朝、遅い朝食をとっているとカイトが来た。


「早すぎない?」


「シャーリーが連行されたぞ!お前んち大騒ぎになってるぞ」


「もう他人なのよ、関係ないの」


 とうとうあの女狐は尻尾を掴まれたのね!


「あ、除籍されたんだったな。戻らないのか?」


「ええ、男爵が招いたのよ。男爵が片づければいいわ」


「クールだな。まぁ、そういうとこ好きだけど」


「ふふ、心配してくれてありがとう。お茶入れるわね」


 男爵が書いた覚えのない遺言書が義母の部屋からみつかった。

 それは代筆屋に書かせたもので、義母は知らないと言い張ったが嘘は通らなかった。


 襲撃犯の第一警備隊の副隊長は長く義母の愛人だったようで、子爵の殺害容疑もかかっている。

 子爵の事件に当たったのは第一警備隊だった事で再調査されたのだ。


 そういえば前回、わたしの部屋の盗難も第一警備隊が調べて迷宮入りにされたんだったわ。

 義母の愛人の副団長の仕業だったのね、本当に許せない。



 バーンズの店に押し入った手下たちは第一警備隊の副隊長に消されるのを恐れて口を割らなかったがボスが捕まったら悪事を自白した。


 父の殺害計画は私が除籍されたので全財産を奪おうとして失敗したのね。

 父がどんな顔をしているか見てやりたい気もしたが、もう他人だ忘れよう。


 プツンとまた黒い糸が一つ切れた気がした。





 +++ゲイリー バーンズ視点


 病院から屋敷に戻ると妻が連行された後だった。

 第二警備隊の隊長は私を救ってくれた恩人だ。

 その彼からの説明は信じがたいものだった。


 最愛のシャーリーが逮捕された? 嘘だ嘘だ、何かの間違いだ。

 愛人がいた? 子爵も殺害しただと? 私を殺そうとした?

 遺言状ってどういうことなんだ。


 隊長が帰った後も私はまだ信じられなかった。


「マックス、嘘だと言ってくれ」

「事実ですよ。今日はもう部屋で休んだ方がいい」


 もう何を信じていいか分からない。



「「お父様!」」 ・・・クレア? 


 セシリー・・・ミリア・・…違うこの娘たちは私の子ではない。


「マックス・・・クレアを連れてきてくれ」


「お嬢さんは学園の寮に入りました」



「お父様、お母様を助けて! きっとクレアの陰謀です」

「そうです、クレアが意地悪をしているんです」


「「騙されないで!」」


 この娘たちは何を言ってるんだ?

 私のクレアを侮辱しているのか?


「お父様、私達はお父様の娘ですよね。家に置いてくれますよね」

「おとうさま、わたしを可愛いと言ってくれましたよね」


「うるさい、うるさい!出ていけ!」


「「お父様!!!」」


「私の娘はクレアだけだ! 出ていけ!」


 メイド達が泣き喚く二人を部屋に連れて行った。



「・・・ゲイリー クレアはもう他人だ。お前に家族はいない」


「クレアは戻る。やさしい子だからな私を心配してるさ」


「どうだかな。会ってくれるといいな」


 クレアは会ってくれなかった。

 愛するシャーリーのために除籍したのは私だ、私がクレアを手放した。


 シャーリーは私を愛してなどいなかったというのに。

 愛するシャーリーのために、私は愛する娘を失った。


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