第14話 春の嵐

 離れのお婆様の二階建ての小宅は、かくれんぼ屋敷と呼んでいた。

 収納場所も多くて子どもが隠れる場所がたくさんあった。


 クローゼットに調理台の下、カーテンの中、掃除用具入れ、屋根裏部屋、ピアノの後ろ、階段の下、書斎の机の下まだまだいっぱい、お婆様に見つかるのをドキドキしながら待っていた。

 

 お金に困った時に見つけたお婆様の隠し金貨。

 私がよく隠れていた場所にお婆様は金貨を少しずつ隠してあった。

 クロードと二人で探検すると隠し部屋まであって驚いたわ。


 亡くなった母と祖父母の遺産で平民になっても特別な贅沢をしない限り生活できる。

 だから私は強気でいられるの。



 離れに移ってから10日後に渋い顔をしたお父様が訪ねてきた。

 暫くは私の謝罪を待っていたが、堪忍袋の緒が切れたようだ。


「除籍は済んだ。以後バーンズは名乗らないように」

「承知いたしました男爵閣下。どうぞお体を大切になさって下さいませ」


 顔を歪めて荒々しく扉を閉め、父は出て行った。


 これでまた一つ絡んだ黒い糸が外れた気がする。


 義母に命を狙われているかもしれないけど、憎い私が忠告してもムダね。

 アスラン様にお任せするしかない。


 前回、強盗団に奪われた物は義母の手に入ったのは間違いない。

 私達が渡す生活費よりも多額のお金を使っていた。

 子爵の遺産だなんて言い訳していたけど、多額の借金を婚前に父が肩代わりしている。


 前回は私達を踏み台にして、義母と幸せに過ごして死んでいった父。

 今回はどうなるかしらね。



 クロードから手紙が来た。 

 自分が縁談を申し込んだせいで除籍されたのではないかと心配していた。

 家庭内の問題でクロードは関係ないと素っ気ない返事を出しておいた。



 春になってカイトが馬車でやって来た。


「寮の受付が始まってると母さんが言ってるぞ」


「そろそろだと思っていたのよ」


「馬車は一日貸し出してやるよ。馭者付きだぜ」


「助かるわ。お礼はするわね」


「今日は行ける? 明日でもいいけど」


「今日でお願い!準備はしてあるの」


 カイトを馭者にして私は銀行に向かった。

 祖母の金貨を預けて、貸金庫に祖母の宝石も入れておいた。


「バーンズ商店が襲われてから、うちも銀行をよく利用するんだ」

「ここの銀行は安定しているから心配ないわよ」

「そっか、クレアのお薦めなら間違いないな」


 同じ年だけどカイトは可愛い。こんな孫だったら良かったのになと思う。


「ん? 俺に見惚れた?」

「あははは そうねカイトは可愛いわね。孫みたい」

「なんだよ孫って・・・」

 だって中身は62歳なんだもの、子どもっぽい可愛い孫よ。


 王都聖女子学園に到着するとカイトは男性なので中に入れなかった。

「ごめんね、すぐ終わらせるわね」

「じゃぁ 帰りにデートな!」


 馭者までさせて、昼食デートくらい奢らないと悪いわね。

 私は校舎内の受付まで急いだ。


「平民になったですって?」

「はい なので只のクレアです」


「除籍なんて何があったの?」

「私が望んだことです」

「信じられないわ、それでいいの?」


 話しているのは1年の担任だったシスターだ。


「はい、いいのです。寮は入れますか?」

「ええ、手続きをこちらで。平民用になるわよ?」

「それでお願いします」


 学園が始まる1週間前から入れるようだ。平民用なので金額も安い。


「お友達のナタリーさんとも教室が離れてしまうわよ?」

「そうですね仕方がありません」


「貴方のお父様は何を考えていらっしゃるのかしら」

「自分の事だけを考えています」


「・・・もう聞かないわ。パンフレットもどうぞ」

 書類にサインして渡すとシスターは小さくため息をついた。



 ***



 カイトとのランチデートで食事も終わり、馬車代を払って領収書を書いて貰っていた。

 商店街のサーレン商店の斜め前にあるお洒落なお店だ。


「別に代金なんかいいのに」

「きっちりしないとサーレン夫人に怒られるわよ」


「・・・なぁクレア、卒業したらうちに来いよな」


「雇ってくれるの?」

「んー まぁそれでいいや。雇ってやる」


「有難う、カイトはいい子だね」


「時々俺を子ども扱いするのはやめろ」


 カイトはミリアと結婚したおバカな幼馴染から可愛い幼馴染に私の中で変化した。

 そういえば、ミリアとの離婚後はどうしたんだっけ?全然覚えてないわねぇ。



 平和な日々が続いていたので父の件は大丈夫かもしれないと思い始めていた。

 義母や義妹と顔を合わせることもなかったし、マックスさんも時折連絡はあったが父に変化はなかった。


 そんな中アスラン様はずっと強盗団の黒幕を追い続けてくれていた。


 間もなくバーンズ家に、春の嵐が吹き荒れる事となる。


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