第10話 ロザリア様のご来店
すっかり体調が戻った私はお見舞いのお礼と返事を返して、お店にも顔を出せるようになった。
そんなある日、店の奥の部屋で帳簿を見ているとマックスさんが「高位貴族様です」と助けを求めてきた。買い上げて頂いた商品を包んでいる間、貴族のお客様には応接室でお茶とお菓子を出して待って頂いている。
応接室の前には護衛騎士が2人立っており私は武者震いした。
扉をノックすると「どうぞ」と女性の声がして開けるとメイドを控えた美しい少女が座っていて、その顔には嫌悪感が滲んでいる。
挨拶をするとソファーを薦められて私は腰を下ろした。
アッシュゴールドヘアーの少女はローラング侯爵家のロザリア様でした。
「
顎を上げて、全然申し訳なさそうに
「とんでもございません。アスラン様にはお手紙で訂正させて頂きました。単に私の不注意で風邪を引いてしまったのです」
「兄はそう思っていませんわ。それに何か私も誤解していると仰ったわ」
「義妹との噂ですね。虐めてなどいませんし、そもそも妹などと思ったこともございません。いずれは縁を切るつもりです」
「まぁ追い出すのかしら」
「いいえ、私が出ていくのです」
「まさか兄の妻の座を狙っていらっしゃるのでは!」
「ありえませんわ。身分差は心得ております。広い世界に目を向けようと思っているだけです。アスラン様にはこのお店を救って頂きました。それについては深く感謝致しております」
「貴方は
「いいえ、きっと義妹がご迷惑をお掛けしているのでしょう。大変申し訳ございません」私は立ち上がって深く頭を下げた。
扉がノックされて準備ができたと告げられ、バーンズ商店の馬車にも包装した商品がどんどん運び込まれ侯爵家までお届けすることになった。
ローラング侯爵家の馬車に入りきらないほどロザリア様は高級品を購入してくれた。
「本日はお買い上げ頂いて誠に有難うございました」
マックスさんと再び深くお辞儀をしてロザリア様を見送ったのだった。
多額購入は好意ではない、アスラン様に近づくなという牽制だわ。
風邪が兄のせいならばこれで許しなさい──と。
「ブラコンね、可愛いわ。ふふふ」
馬車が見えなくなるとカイトが飛んで来た。
「ローラング侯爵家の馬車じゃん!」
「ええ、いろいろお買い上げ下さったの、有難いことだわ」
「セシリーの事で文句でも言いに来たと思ったぜ」
「まさか、うちなんか睨まれたら即日潰されるわよ」
まぁ、ロザリア様には歯牙にも掛けられていないだろうけど。
「あ、婚約の話だけど俺は諦めない。暖かくなったらデートしよう」
「カイト、私は店を継ぐ気は無いのよ」
「いいよ、店は関係ないから。じゃぁな」
やだ、カイトにちょっぴり
そして傍でショックを受けているマックスさん。
「お嬢さん、お店を継がないって本気ですか!」
「ええ、父だってまだ若いのだから頑張って頂くわ」
「正直、奥様がいる限り私は期待していませんよ」
「私はもう搾取されるのは真っ平なの」
父と義母の贅沢生活費。
セシリーの結婚式の費用、支度金 持参金 三男を養子にした時のお礼金。
ミリアも同じ、更に離婚慰謝料まで払わされたわ。
「お嬢さんが継がないのなら、考えさせてもらいますよ」
「マックスさんの自由にしてくれて良いのよ」
「本気なんですね?」
「父にはまだ内緒でお願いね」
翌日にはナタリーが飛んで来た。
「ロザリア様が何故?」と質問の嵐だったが答える義理は無い。
「お店の事を口外出来ないしロザリア様のプライベートなお話なんて出来るはず無いわ。うちの店を潰す気なの?」
なんでも馬鹿正直にナタリーに情報を流していた自分を呪いたい。
どこかのお茶会で自慢げに話すナタリーの姿が目に浮かぶわ。
「クレアったらどうしちゃったのよ。親友でしょう!」
「お店の信用に関わるの、ごめんなさいね」
真っ赤な顔でプンプン怒ってナタリーは帰って行った。
「塩を撒いておいて!」
確かに私はお店を愛してたけど、クロードの事だって愛していたのよ!
私は馬鹿だ、嫉妬して憎んでも今のナタリーには関係ないのに。
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