あの子は魔女で社会人?!

かなた

第1話 香澄はカスミ

 上原うえはら香澄かすみ、28歳。職業はいわゆるOL。どこにでもいる、冴えない会社員だ。


 しかし、彼女には秘密があった。


 最近少し増えた残業に疲れた足で、とぼとぼと歩く先にあるのは、家ではなく。


«ヒーリングと占いの店 カスミソウ»


 小さな店の小さな看板を見ながら、裏口にまわりこむと、店に入った。


 用意してあるいつものローブに袖を通すと、たとえどんなに疲れていてもスイッチが入る。


 現代に生きる魔女、カスミ。そう名乗っている。ここにいる間は。


 悩める現代人を、占いやヒーリング、時には魔法薬を調合することで癒やしてきた。


「さ、今日も始めますか!!」


 こちらの仕事前に必ず飲む魔法薬を飲み干し、独り言で気合を入れると、店を開けた。


 閑古鳥が鳴く寸前ではあるが、それでもやってくる客はいる。


 もの好きか、よほど追い詰められているか、のどちらかだが、依頼されれば全力で解決する。それがカスミの流儀。


 ――チリリン。


 おもむろに来客を告げるドアベルが狭い店内に鳴り響く。


 !!


 よたよたと歩くのもやっとのその女性客を見て、カスミの顔から血の気が引く。


 ――魂食みソウルイーターか!!


 普通の人が見たらただの酔っ払いにしか見えないだろう。が、カスミには見える。彼女の魂が食い荒らされ、極端に減少したオーラが。


「た、すけて……。」


 ギリギリの声で絞り出した女性客を椅子に座らせ、慌てて魂を癒す魔法薬の調合に入る。


「よく頑張りましたね!! もう大丈夫です!!」


 励ましながら手早く魔法薬を調合し終えると、テキパキと煎じて女性にすすめた。


「さあ、これを召し上がってください! 疲れの取れるお茶です。熱いのでゆっくりでいいですよ。」


 おずおずと女性客は熱い魔法薬の入ったカップを受け取ると、少しずつ口に運ぶ。


 体に良いお茶、というていで出しているのは、ダイレクトに魔法薬というと、うさんくさがられるからだ。


 一口、また一口。


 女性客が魔法薬を口に運ぶごとに回復してゆくのが分かる。オーラも大分輝きを取り戻してきたところで。


「お客様のお名前を伺ってもよろしいですか?」


「あ、はい……! 私、篠田しのだ慶子けいこと言います」


 魔女の優しい問いかけに、おずおずと慶子は答えた。


 ぽつりぽつり、彼女は話し始める。


 篠田慶子、23歳。職業はアパレルショップ店員。

 最近、不気味で奇妙な夢を見るようになり、それ以来どんどん体力も精神力も削られていったという。


 どこだかわからない、まるで巨大生物の体内のような場所で、人型のおぞましい何かに襲われる夢。


 間違いなく彼女は魂食みに狙われている。


 そう確信すると、カスミは2つの小さな水晶球を取り出し、慶子に差し出した。


「この2つの球の両方に息を吹きかけてください」


「は、はあ」


 困惑しつつも言う通りにする慶子に、水晶球の片方を渡し。


「肌身離さずその球を持っていてください。お守りのようなものだと思ってもらえれば大丈夫です」


「わかりました」


「全てが解決しましたら、音を立ててこの球が消滅しますのですぐ分かるはずです。ですので必ず身につけていてください。間違っても捨てたりしないでくださいね?」


「はい」


「では今日のところはこれで。お気をつけてお帰りください」


 余分に調合しておいた魔法薬をティーバッグにして渡し、慶子を無事に見送ると。カスミは店の二階の私室で香澄に戻り、眠りについた。


 明日はOLの仕事を終えたら、行動開始だ。依頼主慶子を付け狙う魂食みを滅するために。

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