第60話、アリス、外に出る。④



 数分後、死亡フラグを回避したアスモデウスは軽く乱れた衣類を簡単に直しながら、涙目になりながらアスモデウスから離れようとしないアリスをなんとか振り払おうとしたのだが、それでもアスモデウスから離れないアリス。

 一体彼女に何を言って、何をしたのだろうかと思わず先ほどまで殺気を出していた男に視線を向けるのだが、アーノルドは視線を逸らす素振りを見せ、話をしようとしない。


「……泣かせたら、コロスって言っていてよかったかなー」


 と、ぼそっと呟くようにしながら、アスモデウスはアリスの頭を優しく撫でた後、要件を彼女に伝える。


「そうそうご主人様、魔導書忘れてますけど」

「……あ、そう言えば、もってきてない」

「私たちは魔導書に触れる事は禁止されているので、持ってくる事は出来ないんですけど……その代わり先ほどシファさんに頼みましたからもう少しでもってきてくれると思いますよー……ご主人様がもっていかないから、ちょっと色々あったので……」

「色々、あった?」

「とりあえず、クロとルシファーが勝手に出てきて二人で色々と何か話しているし……あ、不安そうな顔をしていたので、ケルベロスが出てきてくれましたよ」


 そのように言いながらアスモデウスの肩から姿を見せたのは、いつもより子犬のような姿で現れた、ちっちゃなケルベロス達。

 頭は相変わらず三つで、身体は一つ。

 迷惑をかけないようにと、手乗りサイズでどうやら姿を見せてきてくれたらしく、ケルベロスの小さき姿の登場に、アリスは思わず目を輝かせてしまった。


「うわ、めっちゃ可愛い……」

「元々ケルベロスは姿を自由自在に変えられますからねー。護衛として連れて行ってください、とルシファーが言ってました……本来なら自分でついていきたかったみたいなんですけどね」

「え?」

「いや、なんでもないですー」


 フフっと笑いながら何処か楽しんでいるアスモデウスに対し、アリスは首をかしげることしかできなかった。

 ケルベロスはアスモデウスの肩からアリスの手のひらに乗り、三匹とももふもふ感と、笑顔でアリスに目を向けている。


「アンシンシロアルジ、オレタチ、カナラズマモッテミセルカラ」

「そうそう!ご主人様!頼りにしてね!」

「ボクたち、姫様を頑張って守って見せるからねー!あの男からも!!」


 三匹目のケルベロスの頭がギっと睨みつけるように視線を向けた先に居たのはもちろんアーノルドだった。

 どうやらケルベロスはアーノルドの事はまだ認めていないらしい。

 三匹目がそのように睨みつけると同時に、他のケルベロスの頭達もアーノルドに視線を向けており、明らかに好意の視線ではなく、敵意の視線だ。

 アリスはハハっと笑いながら涙目でアーノルドに視線を向け、アーノルドは引きつった笑みを見せた後、深くため息を吐く。

 そんなやり取りを見た後、アスモデウスは立ち上がる。


「私の方はちょっと魔導書で休みます……流石にケルベロス、ルシファーそんでmってクロの三人が出てきたことでかなり魔力消耗しちゃってるんで……ごめんなさい……」

「あ、ううん、いつもありがとうございますアスモデウスさん」

「……もし何かあればケルベロスが必ず役に立ちますから……ね?よろしくね、ケルベロス」

「アア、マカセロシキヨク」

「大丈夫だから早く休んで―!」

「って言うかアスモデウス!姿がちょっと元に戻ってるよ!?」

「……あ、マジだ……本当、魔力使いすぎたんだなーボク」


 笑いながら答えているが、顔色が明らかにおかしい。

 女性の姿だったはずなのに、いつの間にか少年のような姿になっているように見えるのは気のせいだろうか?

 アスモデウスは元々男性だという事は知っていたのだが、どうやら魔力の消失が本当に激しいようで、よろしくない姿になってしまっていた。

 アリスも慌てる素振りを見せながらアスモデウスに向かって叫ぶ。


「や、休んでくださいアスモデウスさん!も、もう私は大丈夫ですから!」

「そう?それなら良いんだけど……あ、本当、マジで何かあったら絶対にボクを呼んでねご主人様……」


 疲れた表情で、弱々しい声と共に、アスモデウスは消えていき、魔導書の中に戻っていったのだろうと理解した。

 静かに息を吐きつつ、アリスは小さくなったケルベロス達の頭を指先で撫でるようにしながら、アーノルドに視線を向ける。


「と言う事なので、連れてってだ、大丈夫ですか?」

「……まぁ、護衛と言うものは必要だしな。マスコットと思えば大丈夫だろう」

「あ、ありがとうございます!」

「……ホントウハフタリッキリデデカケタカッタノダロウ、ソウハイカナイカラナ」

「……ッ」


 小さな声でケルベロスの一匹がそのように呟いていたなんて、アリスは知らない。

 同時にその言葉を聞いたアーノルドは何とか心の中で怒りを押し殺したのだった。

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