第57話、アリス、外に出る。①
部屋に帰って子供のように布団に入り、こもっていきたいなんて言う希望を捨てた方が良いのであろうとこの時思ったのである。
あの後、クロードと別れ、部屋に戻ったアリスは着ていた服を脱ぎ捨てようとしたのだが、いつもと違う服装をしていたのだかうまく脱げる事が出来ず、諦めたアリスは片付けてもらっていた調べ物の資料を一冊手に取った。
取ったものは魔導書であり、『闇』と呼ばれる属性を持つ魔導書だ。
初版だという事もあり、何とか手にする事が出来た嬉しさとこれからこの中身の解読が出来るのだと気持ちを高らかにさせながら、アリスは本をめくろうと手にかけた。
「それ、俺と初めて出会った時に見せてきたモノだな、アリス」
――邪魔が入らなければ、の話なのだが。
目を輝かせていたアリスの表情が一瞬にして終わりを告げたかのような顔をしながら、死んだ目で何故か部屋に居るアーノルドに視線を向ける。
その表情が何処か面白かったのか、アーノルドの表情はとても楽しそうに笑っていたのである。
「ぷ、なんだその顔は……邪魔されて機嫌を損ねたか?」
「……いえ、出来たらもう少し後に来ていただきたかったかなーと思いまして」
多分、もう少し後の時間に来てもらえれば、アリスは集中してアーノルドなど視界に入らないようになっていたのではないだろうかと考えたのである。
深くため息を吐きながら、アリスはアーノルドに視線を向けた。
「で、アリス。お前はこの本を手に取ってどうするつもりか教えてくれないか?」
「…………し、調べようと、思って……ごたごたしてて、そう言えばまだ解読とかしていないなーと思いまして……」
「部屋に入ってこもる予定だったのか……第三王子から聞いている。研究、解読をし始めると、全く人の話を聞かなくなり、食事も水分もとらなくなる、とな」
「うっ……」
アーノルドの言う通り、アリスは、全てのモノに集中し始めてしまうと、まず水分を取らない、食事を取らない、睡眠もとろうとしない、終わるまで最後までがっちりするタイプだ。
同時に授業にも出ないとリアムは言っていたらしく、アリスは目線をそらすようにしながら一歩後ろに下がったのだが、アーノルドは逃がすつもりはないらしい。
アリスの前に立ち、彼女の腕を取る。
「その魔導書の解読をし始めるのであれば、暇なのだろうアリス?」
「ひ、暇と言うなら、ひ、暇です……はい」
「なら、俺と一緒に外に出るのは構わないな?」
「え、アーノルド様と一緒に?」
「ああ」
一人で外出はたまにするのだが、それはアルバイトとかお金を稼ぐ為だ。
遊びに行く、と言う感じに外に出る事はない。
驚いた顔をしているアリスに対し、アーノルドはニヤっと笑いながらアリスを部屋から出す。
外に出ると同時に、近くにどうやらシファが居たらしく、驚いた顔をしたシファがアーノルドに声をかけた。
「あ、アーノルド様!?」
「シファ、アリスを外に連れていくから一緒に来い。カルロスも一緒だ」
「は、はぁ……もしかして、旦那様から何か言われましたか?」
「……ああ、父上の奴、俺の仕事を奪い取って、金を渡してきた」
「流石抜かりがありませんね……余程、お嬢様の事が気に入ったのでしょうね」
「なんか、腹立つから散財してやるつもりだ」
そのように言いながら悪魔のような笑みを見せるアーノルドの姿に、少しだけ身震いしてしまったアリスだったのだが、アーノルドの手にはジャラっと言う音と共に袋を見せている。
アーノルドの言葉に、シファが頭を抑えながら深くため息を吐いている。
まるで、呆れているような顔に見えたのは気のせいだと思いたい。
「……仕方ありませんね、お供いたしましょう。旦那様から他には何か聞いておりますか?」
「ああ。『アリス嬢の家の事はこちらが調べるからお前は彼女に楽しい思いをさせてあげろ』と……どこまで知っているんだ、あの親父は」
「旦那様ですからね……お嬢様、少々準備してきますので、アーノルド様とお待ちになっていただけないでしょうか?」
「あ、は、はい……」
シファは軽く挨拶を交わした後、急いで背を向けて歩いていき、残されたアリスは腕を掴んでいるアーノルドに視線を向ける。
彼は何処か不服そうな顔をした後、舌打ちをしてアリスに視線を向ける。
「……そう言えば、父にあったそうだな、アリス」
「はい、一緒にお茶を……その、させていただきました」
「……アリスから見て、うちの父親はどう思う?」
「……そう、ですね」
あまりクロードの顔を見る事が出来なかった、なんて死んでも言えない。
汗を流しながらアリスが感じた事を一言。
「……子供思いの方で、優しい人だと、思いました」
へらっと笑うアリスの姿を見たクロードは一瞬驚いた顔をした後、アリスの頭に手を伸ばし、そのまま何もせずに置いた。
突然頭に手を置かれた事に驚いたアリスだったが、アーノルドは何も言わない。
数十秒黙った後、アーノルドが嫌そうな顔をしてアリスに告げる。
「アリス、絶対にそれ、だまされているからな」
「ええー……」
アーノルドの言葉に、アリスはそのような返事しかする事が出来なかったのである。
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