第52話、クロード・クライシス侯爵②
近くにある鏡に視線を向けていると、明らかに今の恰好は伯爵令嬢ではない格好になっている事が分かる。
同時に、朝食の時の自分自身、どのような恰好をしていたのだろうかと思いながら青ざめてみるが、片づけをしている最中のアスモデウスに視線を向けると、彼女は軽く息を吐きながら肩を上げるのみ。
きっと、普通だったら見せられない、いや、寧ろ寝巻の恰好ではなかったのではないだろうかと考えていた矢先、突然扉を叩く音が聞こえる。
「はいはい~」
片付けを止め、アスモデウスが笑顔で扉を開けると、そこには見知らぬメイド服を来た女性が静かに立っている。
アスモデウスも、そしてアリスも驚いた顔をしながらそのメイドに視線を向けると、彼女は笑顔を見せる事もなく、無表情の表情のまま、二人に目を向ける。
姿勢がとても綺麗で、美しいと感じてしまう程の人だった。
「おはようございます、アリス・リーフィア様。そして、アスモデウスさん」
「あ、え、えっと、お、おはようございます……あの、どちら様ですか?」
「アーノルド様、アルド様よりご命令を受けまして、本日よりアリス様のお世話をさせていただくと同時に、アスモデウスさんの教育を行わせていただくことになりました、メイド長のシファと申します」
「え、わ、私の教育!?」
「……と、私のお世話を、ですか?」
「はい」
アリスにメイドをつけるなんて思っても居なかったので、彼女は呆然としながら目の前でシファと名乗った人物に目を向ける。
まさかアスモデウスに教育係を付けてくるとは思わなかったので、アリスは驚いてしまったと同時に、アスモデウスもその場に固まり、アリスに視線を向けている。
確かに彼女はそのような教育を受けていないし、アリスを守るにはこのような体制を取った方が良いだろうと本人の考えにより、自分の魔術でメイド服を着ている形になっている。
多分、アーノルドの事だから、アスモデウスの事は目の前のメイド長、シファには言っているはずなのだが。
「あ、あの、シファさん……」
「使用人なので、『シファ』で構いません、お嬢様」
「お、おじょ……で、では、シファ。アスモデウスさんの事は聞いていますか?」
「存じております。彼女が人間ではなく、魔導書から出てきた召喚獣のようなモノ……そして、お嬢様を守りしている方だと」
「はい、そ、そうなのです。ですから、そんでもって、メイド服を着ている護衛みたいなものですから別に教育なんて……そ、それに私、身の回りの事は一応できます」
「ではお嬢様、お嬢様はその恰好をどうするおつもりなのでしょうか?」
「……」
一瞬、目が光ったような気がするのは気のせいではないと、アリスも、そしてアスモデウスも思った。
数分前に話していたことが現実になっただけの事で、アリスは何も言えず軽く笑うしかなかったのである。
アスモデウスも目をそらしながら、笑う事しかできない。
笑っている二人に対し、余計に目を光らせているシファにどのように返事をすればいいのかわからないまま、彼女はゆっくりと息を吐き、前に出る。
「アリスお嬢様」
「ふぇ、は、はい!」
「アスモデウスさん」
「はいぃ!」
「――とりあえず、まずは身なりから整えましょう。それからお掃除をします」
笑顔でそのように言った彼女の姿は、ちょっと怖いと思ってしまったなんて、死んでも口にする事は出来なかった二人だった。
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