第09話、魔導書、『七つの大罪』②
一応少しだけ身支度を自分自身で行ったアリスはメリッサと一緒に屋敷の外に出て、街に繰り出す事に成功した。
今日は楽しみにしていた小説の新刊が読めると言う事で、数日我慢し、物音を立てずに過ごしていた。
どれだけ彼女はこの時間を待ったことか――そのように思いながら、アリスは笑いながらメリッサの手を握りしめ、歩いている。
歩いていく際に、アリスに声をかける人々が何人か居る。
「ようアリスちゃん、今日はメリッサちゃんと買い物かい?」
「はい、新作の小説を買いに行くので!」
「そうか、気を付けるんだよ!」
「はい!」
「あら、アリスちゃん。今日はお出かけなんだね?」
「本を買いに行くんです!」
「そう、また今度お店によって頂戴。アリスちゃんがお手伝いしてくれると、楽しく仕事が出来るからねぇ」
「今度行かせていただきます!」
アリスは声をかけられ、挨拶をする――彼女にとって、これが日常なのだ。
この街では例え魔力がほぼなくても、交流が出来る。魔力なしと言うレッテルを張られていても、彼女は街の住人たちに恵まれていた。
家族には無視されているが。住人たちはアリスに声をかけ、存在を否定しない。優しい人たちばかりだからこそ、アリスは別に家族がいなくても、彼らが居てくれればいいと毎日思っていた。
たまにお金を稼ぎたい時などは、お店の手伝いをしながらお金を稼いでいる。服や食べ物など、ある意味で自分で用意しないといけない時もあるからだ。
メリッサの手を引いて、アリスはいつもの本屋の中に入る。
「いらっしゃい……おや、アリスちゃんじゃないか。新作の小説かね?」
「はい、買いに来ました!あと、何冊か欲しいなぁって……」
「そうかい、見て行ってくれ」
「店主さん、ありがとうございます」
「……ではアリス様、私は食材など買いに行ってきますので、終わり次第迎えに来ます」
「うん、メリッサもありがとう」
大好きな本に囲まれ嬉しそうにしながら、アリスはメリッサにお礼を言い、お店の中に入る。
メリッサは店主の人に軽くお辞儀をすると、そのままお店の外に行き、買い出しを始める。
残されたアリスはいつものようにまず新作の本を一冊手に取り、数ページめくった後、そのまま残り数冊、何か読みたいものがあるだろうかと思いながら、店の中を歩き始める。
どうやら今客はアリス一人だけのようで、アリスはのんびりと、メリッサが来るまで本を探してみようと張り切りながら、ゆっくりと歩いていた時だった。
「一人でお買い物ですか、お嬢さん」
突然、聞き覚えのない声がアリスの耳から聞こえてきた。
気配を感じる事が出来なかったアリスは驚き、後ろを振り向くと、先ほどまで居なかったはずなのに、いつの間にか背後で、笑顔で立っている一人の青年が姿を見せた。
あまりにも胡散臭い青年のように見えたアリスは警戒を怠らないようにしながらゆっくりと後ろに下がり、新作の本を抱きしめるようにしながら店主が居るカウンターに視線を向けるが、目の前の男が邪魔で見えない。
アリスは青年を睨みつける。
「な、何か、ご、御用、ですか」
「……やっぱり、あなたは僕が見えているんですね、いやぁ、関心関心。久しぶりに見ました。魔力がほぼない人間なんて」
「……え?」
何故、この青年は自分に魔力がほぼないと言う事が分かるのだろうか?
魔力と言うものは肉眼でわかる存在ではない。鑑定する魔眼を持っているならば別なのだが、魔力を計るには、魔力装置と言うものが存在する。それで計らなければ魔力があるかないかだという事はわからないはずだ。
なのに、何故この青年はわかったのだろうか?
「……あの、鑑定持ちなのですか?」
「ああ、魔眼と言う事ですよね。大変申し訳ございませんが、僕はそのような便利道具は持っておりません。まぁ、そもそも人間ではないですけどね」
「え……?」
人間ではない
人間でなければ、目の前の青年は何者なのだろうか?
確かに見えるし、触れる事だって出来る。もしかして幽霊なのだろうかと現実的な事を考えず、アリスは許可なく目の前の青年の服に軽く触れる。間違いなく感触はあった。
頭がおかしい人なのか、何が何だかわからないアリスは頭が既に混乱状態になっており、とにかく今、この場で逃げたい衝動に駆られている。
そんな事など知らず、青年は話を続ける。
「そんなあなたにプレゼントをしたいのですが、本は大好きなんですよね?」
「は、はい……すき、ですけど……」
「では、あなたにこの本をプレゼントいたしましょう」
アリスは本は大好きだ。
本があるから今でも生きていける――魔導書だったり小説だったり、本の中では色々な世界が広がっているから好きなのだ。
本好きだという事は自分でもわかっているが、そんな彼女に本をプレゼントしてくれると言うのはちょっと嬉しい気持ちになってしまった為、アリスは思わず目を輝かせてしまった。
青年は持っていたカバンから一冊の分厚い本を取り出した。
同時に、あ、これは絶対に持ってはいけないやつだとアリスは認識するのだった。
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