【三章完結】地味令嬢は家族に無視され、学園で蔑ろにされても、明るく前向きに生きていけます。そして何故か『悪魔』と呼ばれる男性に求婚されました。何故!?
桜塚あお華
第1章、地味令嬢の崩れ始めた日常
第01話、魔力なしの地味令嬢
「――魔力のない娘など、私の娘ではない」
五歳の頃、魔力がないと言う事を言われたと同時に、両親から、家族から全て見放された。
それから、彼女は居ないモノとして扱われることになった。
▽ ▽ ▽
この世界では『魔力』が全てだ。
その世界の中で、少女は生きてきた。
全てをあきらめた顔をしながら、少女は目の前のお客さんに自分の話をする。
「私は、魔力がほぼないんですよー」
ある小さな店の店番をしている一人の少女、眼鏡をかけ、長い髪の毛を後ろで結びながら笑顔で答える地味な少女の真正面には、黒い髪に、赤い瞳をした一人の青年が立っていた。
少女にとって、目の前の少年は先ほど数分前に出会った男性である。そんな青年に対して少女は自分の身の上話を始めてしまった。
きっかけは、何だったのかわからない。
けど、不思議と自分自身でしゃべり始めてしまったのだ――不思議だった。
少女の名は、アリス・リーフィア。
一応このような身なりをしているが、伯爵令嬢である。
彼女の家系は魔術師と言う家系であり、祖父が有名な魔術師である為、一族は必ず強い魔力量を持ったモノが生まれるはずなのだが、アリスはその祖父の血を受け継ぎながらも、魔力がほぼない状態で誕生した。
当然、魔力が少ししかないアリスは名前を付けられただけで、家族は彼女の事をこの世から居ないモノとして扱うようになった。
「小さい頃から父親も母親も、兄も双子の弟や妹も、私の事を存在しないモノだって扱ってきた。食事は何とかメイドの数人が私の事を認知してくれたから、色々とやってくれる事もあったけど、それでも家族に無視されるのって、ちょっと辛いよね……あ、おじいちゃん――祖父はちゃんと私の事を認識してくれたから別にいいやって思うようになっちゃった」
「辛くなかったのか?」
「もう慣れてしまったと、思います……まぁ、こんな感じで生まれてきた自分を憎んだけど、それでもこれが『私』なんだと言う事を理解したから、あとはもう受け入れて生きていくしかないんじゃないかなーって思ったよ」
「そうか」
「最近は、ちょっと兄の方が家族に内緒で声をかけてきてくれたりしてる……愛されていないわけじゃないんだけど、けどやっぱ、両親の愛情は欲しかったかなーなんて思っちゃいましたよ」
「……」
笑いながら答えるアリスだったが、それでも辛い日はあった。泣いた事もあったが、泣いたところで現状は全く変わらず、綺麗なドレスも、家族団らんも、アリスにとっては遠い存在だった。因みに社交界と言うモノもデビューしていない。
因みに彼女は貴族達が入学している学園に登校し、勉学に励んでいる。魔術関連の授業もあるのだが、受けるだけで魔力がほぼない彼女にとっては初級魔法が出来るか出来ないかだ。
リーフィアの性を持つ一族なのに、魔術が出来ない『落ちこぼれ』と周りから呼ばれている彼女にとって、学園でも友人と呼べる存在は少ない。
『魔力なしの地味令嬢』――いつしか学園ではそのように呼ばれるようになった。
確かに地味そうな恰好をしているが、魔力なしではない。魔力がほぼない存在なのだ。
「好きで地味な恰好しているわけじゃないよ。多分、身なりを整えれば綺麗になる……か、わからないけど、まぁこっちの恰好の方が落ち着くんだよね。眼鏡は視力悪いからかけているだけだし、髪の毛は長いと勉強の邪魔だから結んでいるだけで……服装は、こんなのしか用意してないから」
「うむ、今日の服装は黒系か……地味だな」
「ひらひらした服装なんて着られないですよ。それこそ勉強の妨げ!」
「勉学は励んでいるのだな」
「勉強は好きですよ。それだけが取り柄だし」
魔術も初級が出来るかどうかもわからない、『魔力』が全ての世界で、彼女が出来る事は勉学である。片っ端から勉強を始め、成績は上位をキープしている。
しかしそれでも、両親には認めてもらえない――わかっているが、それでも彼女は勉学をあきらめない。最近では古い魔術が描かれている魔導書を読む事が日課となってしまっている。
読んだところで使えないのだが。
「最近見つけたこの闇魔術の魔導書とか結構楽しくて、複雑みたいな感じで面白くて、ついつい読んじゃいましたよ!」
「……リーフィア嬢」
「アリスで良いですよ、お客さん」
「ではアリス……アリスはこの世界は楽しいか?」
「まぁ、普通ですね。楽しいとは言えません。両親も、下の双子の兄妹も、私の事は興味ないのか相変わらず存在がないと言う形になっていますし、学園でも無視され続けてます……けど、それでも、私に声をかけてくれる人はいますから」
「祖父や、兄か?」
「祖父にとって私は孫ですが、有名な魔術師と言われているけれど、私の前では優しいおじいちゃんです。平等に見てくれるから今まで生きてこられました。兄は最近だと学園内で生存確認だけですけど、声をかけてくれるようになりました。あとは……私と同じ、魔力があまりない人たちが数人、学園に在籍しているんですよ。その人たちから声をかけてもらって、友人と言う存在も出来ました。最近は第三王子のリアム様とは読書友達になりましたよ!」
「……あの腹黒め?」
「え?」
この国の第三王子、リアムは入学してきたと同時に図書室で出会い、後輩であるが気軽に声をかけてくれるようになり、最近では本の話をする事で友人関係を結べていると、アリスは笑顔でそのように発言した際、青年は舌打ちをしながら何かを呟いたような気がしたのだが、アリスにはそれが聞こえなかった。
不思議と、何を言っていただのだろうと思いながら。
男性はそのまま目線をそらす。
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