最期の贈り物

ワラビノ工房

さいごのひ

や。来たね。


――どうしたんだい?そんなに泣きそうな顔して。

せっかくのかわいい顔が台無しじゃないか。

笑顔だよ?笑顔。

人生笑って生きなきゃ。ね?


で、どうしたんだい?

お医者さんにもう長くないとでも言われたかい?


………あれ、図星か。

君はわかりやすいね。


すぐに顔に出ちゃう。


ま、そういうところがかわいいんだけどね。


え?なんでそんな平然としているのかって?

んー、何て説明したらいいかな。

なんとなくそろそろかなーって思っていたから…かな。


でも死んじゃったらどうなるんだろうね。

君は泣いてくれるのかな?

あれ、もう泣いてる。

気が早いぞー?

そんなのでこれから大丈夫かな。


でも今後の君はどうするのかなー。

私が死んじゃったら君は独りになるわけだからね。

新しいパートナーを見つけちゃったりして。


君はモテるからねー。

高校生の時は君をめぐって裏で争奪戦が起きていたりしたんだよ?

知らなかったでしょ。

そこで私が勝ち抜けて君と付き合うようになったんだから。


この6年で君にはあまり何もしてあげられなかったね。

結婚しようって話してた頃に私が病気しちゃって。


こんな彼女でごめんね?

フフッ、やっぱり君は優しいんだね。


―――あー、ふと君が私以外の誰かと付き合ってるとこ想像したらつらくなってきたな。

いやだよ。君が私以外と恋をして結婚して子供を作って楽しく生活するなんて。

今考えただけでも耐えられないよ。


『あの子もきっとあなたの幸せを願っているよ』とか言って。

そんなわけない。

そんなこと願うわけない。

私は君に私だけを見ていてほしい。

私だけを愛してほしい。

私という思い出を引きずって人生を過ごしてほしい。


ま、君はちょっとのことでもかなり引きずるタイプだから大丈夫だよね。




……でもやっぱり不安だな。

私が死んじゃった後で君がすぐにだれかとくっついちゃうかもって考えただけで不安になる。


やだよ…

やだやだやだ!




――死にたくないよ。

君ともっとたくさん思い出作りたかった。

君ともっとたくさん過ごしたかった。

何にもない日常を

代り映えのしない日常を



それでもかけがえのない日常を

君と私で過ごしたかった。


でも

もうそれもかなわない。


わかるんだ。

私のことだから。


わたしはきっともうすぐ死ぬ。


私の最期が

私の死が

私ができる最後の抵抗

私から君に贈ることのできる最後のもの。

呪いのようにどす黒い私の感情。

ずるい彼女でごめんね?



でも、お願い。


私のことを一生忘れないで。


できることなら私と一緒に死んでついてきてほしいけど

でも君には生きて私のことを愛してほしいから。


だからね。


この先の人生

私のことだけを考えて必死に生きて

そして私のもとに来て。


そしたらあっちで一緒に過ごそう。


誰かと生きようとか考えないでね。

そしたら化けて出ちゃうかもよ?


え、化けて出てくれたらうれしい?

ちょっと君私のこと好きすぎでしょ。


そろそろお迎えが来そう、かな。


え、指輪?

このタイミングで?

私と君をつなぐようにって?

え……そっか。

私も大概だけど君も重いね…

でも、いい考えだね。

私の左手の…そうそう。そこだよ。

私も君に着けてあげるね。



それじゃあ最後にさ、キス…してくれないかな。



うん、ありがと。

これでもう思い残すことはないかな?






おやすみなさい。私の大好きな―――――


「おやすみ。僕の大切な大切な宝物。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最期の贈り物 ワラビノ工房 @Warabi0305

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ