第6話
名もなき荒野という場所は、名前以外にも様々なものが無い。ゴツゴツした岩場が見渡す限りずぅっと広がり、まばらに生えた低木や雑草の隙間をネズミのような小動物が走るだけの、うら寂しい場所である。例外として、今回の俺たちの目的地である地脈露出点のような、オアシスとも言うべき地点がいくつか存在する。が、それらは大抵強力無比な生物たちの縄張りと化しているので、おこぼれに与るには大きな危険が伴う。
逆に言えば強敵らしい強敵はそこにしかいないので、白昼堂々大手を振って愉快な仲間たちとパレードを繰り広げることができるのだ。
「……本当に何にもないんだな、ここって」
「ある意味身を隠すには最適、ともいえるのぅ」
「物は言い様だな。……見ろよあの小汚ねぇネズミをよ。最初は嫌悪感しかなかったアイツが、今じゃすっかり貴重なタンパク質にしか見えなくなっちまった」
「すっかり食糧調達係が板についたようじゃの」
「あーあ、ガチャ引いたら無限に食糧を出してくれるキャラとか出てきたりしねーかなあ!」
いつかはネズミ肉と雑草の味無しスープ生活から脱却したいものだ。
雑談しながらテクテク歩くこと2時間ほど、ようやく俺たちは作戦ポイントに到着した。ここからは一切の失敗が許されない。改めて気を引き締める。
「頼んだぞ、ベロちゃん」
「ガウッ」
ベロスが大きく息を吸う。胸が膨らむほど大量の空気を飲み込み、
「ガアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
一気に解放する!
魔力が込められたベロスの咆哮が大気を揺らし、地面を打つ。耳栓をしていなかったら鼓膜が破裂したかもしれない凄まじい衝撃は、しっかりと地中まで伝わったようだ。
岩だらけの地面のあちこちからドカンと土塊が吹き上がる。ゆっくりと鎌首をもたげるのは荒れ地の大蚯蚓。人一人など一口で嚙み砕いてしまいそうな巨体が、ざっと数えるだけで10体は現れた。自分たちを叩き起こした”何か”の下手人を探しているのか、牙をガチガチ鳴らしながら辺りをキョロキョロ見渡している。地中生活者だからなのか、目はそれ程良くないようだ。
「総員、撃てーっ!」
次の瞬間、号令に合わせて
「散開!出来るだけ距離を取れ!」
「……すげぇな、面白いくらい食いついたぞ」
「わらわもビックリじゃ。まさかここまでうまくいくとは……さ、ボケっとしとる暇はないぞ!キサマはあっちの方に杭を刺してくるのじゃ!」
「おうよ!」
弾幕を貼りながら離脱する
……はっ、いかんいかん。捕らぬ狸の皮算用は後だ。今は作業に集中せねば。地面に突き立てる角度が悪いと抽出の効率が悪くなってしまうので、慎重かつ大胆に杭を刺して回る。
「中身がどんどん溜まっていくな。庭にぶっ刺してあるやつとは大違いだ」
「本当はわらわだってここを拠点にしたかったんじゃぞ。蚯蚓共さえいなければ、あんな中途半端な立地に住む羽目にならずに済んだと言うに……」
ぐぬぬと唸るリリアンに適当に相槌を打ちながら、杭をしっかり地面に固定する。10分ほど待てば容器は全部満タンになるはずだ。
今のところ
「ん?今地面が揺れたような……?」
「そうか?気のせいだと思うが……!?」
次の瞬間、俺にもわかる程地面が大きく揺れた、と同時に辺りを警戒していたメーダが俺とリリアンを抱えて思い切り飛び退いた。ズドンッ、と爆弾が爆発したような音と共に先ほどまで俺たちがいた場所から巨大な何かが飛び出してくる。
目の前に現れたそれは大蚯蚓だった。ただし、他の個体よりも一際大きな個体だ。岩のような皮膚に刻まれた数々の古傷が赤黒い雷のように見える。口から大量の水蒸気を吐き出しながら、ほとんど見えないはずの両の目で俺たちを”見た”。
「ギュリリリリリアアア!!!」
悍ましい声で雄叫びを上げる超巨大蚯蚓。全身に力を漲らせながら、濃い敵意が籠った視線を向けてくる。コイツには生半可な小細工は通用しない。俺は本能的にそう悟った。
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