第3話

「チクショウっ……初めてのガチャで……爆死……!大爆死……っ!」

「わっ、生き返った」


 俺の能力はランダムで様々な物品を召喚すること。要はガチャだ。ソーシャルゲームのガチャ機能が現実になった、という認識で間違いないだろう。ここまではいい。

 問題はそのガチャだ。あまりにもツッコミ所が多い。レアリティは統一されてないし、出てくるものの世界観はバラバラだし、武器アイテムとキャラがごった煮の闇鍋だし。どう考えてもマトモにガチャを引かせる気がないぼったくりである。もし運営がいたら100件は問い合わせメールを爆撃してやる。


「ゴゴゴ」

「さっきはすごかったのう人間!まさか悪魔を召喚してみせるとは。それもわらわが知らない悪魔じゃ。うふふ、これは研究のし甲斐があるのう!」

「悪魔以外も召喚出来るっぽいけどな……例えばこういうガラクタとか」


 俺は【C+ 火の魔導書】を拾い上げる。魔導書と銘打っている割には文庫本程度の大きさしかない。表紙の装飾も必要最低限といった感じである。所詮はC+ということだろうか?ちなみに中身は全く知らない言語で書かれており、俺は早々に理解することを放棄した。


「ア゛ー」

「お、なんだ?これが欲しいのか?どうせ俺には使えんだろうしあげるよ」

「ゲゴッゴ!」


 魔導書はメダカの悪魔くんの物になりました。……初めて引いたキャラには愛着が沸くと言うが、メダカかぁ。同じ魚でもせめてカジキとかオコゼとかだったらもうちょっと強そうだったのになぁ。

 ガチャによって召喚されたメダカの悪魔。その見た目は魚の怪人としか言いようがない。身長は俺より低く、リリアンより高いくらい。服装は男性物の派手な柄の水着を一枚身に着けているのみ。体つきはほっそりしているが筋肉質であり、性格は意外と真面目であるようだ。隅の方に行儀よく腰掛けながら、さっきあげた魔導書を熱心に読みふけっている。

 ゲームではないのでステータスなどの確認は出来ないが、失礼ながら正直そんなに強くなさそうというのが俺の第一印象だ。言葉は喋れないが意思疎通は出来るので、召使い第二号としてよろしくやっていくのがいい所だろう。


「なあ、そういえば悪魔くん。お前に名前はあるのか?」

「ゲゲ?」

「無さそうだな。デフォルト名のメダカの悪魔じゃ味気ないだろうし、俺がニックネームを付けてやろう」

「オ゛ー」


 ククク、数多のゲームで培った名付けスキルが火を噴くぜ。


「メダカ、メダカだから……よし、今日からお前は『メーダ』だ!」

「ア゛ァイ」


 呼びやすさと親しみやすさを兼ね備えた完璧な名前だぁ……。なに、悪魔的に親しみやすさが高いのは如何なものか、だって?うるさいやい。

 俺がメダカの悪魔改めメーダと親交を深めていると、肉人形たちに命じて召喚されたガラクタを片付けさせていたリリアンがホクホク顔で戻って来た。


「むふふ、面白そうな実験材料がいっぱいでわらわは満足じゃ」

「俺的にはそんなに価値のあるものには見えなかったが……気に入ったんならまぁ、いいか」


 ふと、気になったことを一つ聞いてみることにした。


「そういえばさ、どうして俺にこんな力があるってわかったんだ?途中のグダグダっぷりはともかく、結構事情を知ってるっぽいけど」

「ああ、それはな。わらわもキサマと同じく超常なる力を持っているからじゃ」

「なんと」

「キサマもちょくちょくあのデクノボーどもを見たであろう?彼奴らを生み出すのがわらわの力じゃ」


 なるほど、この自称魔王の一族ちゃんは超能力者仲間だったわけか。誰に能力の才があるとか、どうすれば能力を使えるようにできるとか、そういうノウハウがあるんだろうな。

 聞けば彼女の一族は皆、眷属と呼ばれるモンスターを作り出す能力を持っているらしい。例の白い肉人形も彼女が作った眷属である。人によって眷属は異なり、例えば彼女の父親の眷属は悪魔(メーダみたいなのではなく、一般的に悪魔と聞いてすぐ思いつくようなオーソドックスなタイプである)であるそうだ。

 ここからは余談だが、リリアンの家系は代々『魔王家』として大きな権力を握っていたという。ところが数十年ほど前から一部の者が離反、新たに『旧き龍の約定派』、略して『約定派』という組織を設立。首魁の”龍を従える男”はその圧倒的な手腕で以て瞬く間に約定派の勢力を拡大する。その勢いは今なお衰えを見せないらしい。それだけでなく、魔王家の内部分裂による求心力の低下、それに伴う『大いなる智慧の教団』というカルトをはじめとした大小さまざまな組織の台頭により、魔王家は以前ほどの力を失い、窮地に立たされているという。

 そんな家をなんとか立て直すべく、俺という藁までをも掴んで研究に勤しんでいる……という訳ではどうもないらしい。


「はん、あんな頭でっかちの老害共の巣窟なんぞとっととブッ潰れればいいのじゃ。糞食み虫よりも価値のない塵芥めが」

「おおぅ、どうかその怒りを鎮めたまへリリアンお嬢様。主に俺の命が危ない」

「ギュゥ……」

「血統なんぞにこだわって威張り腐ってからに。貴様らに我が父上の何が分かるというんじゃ!何が穢れた血統だ、何が魔王家の面汚しだ!貴様らの所為で、家族は……っ!」

「ちょ、落ち着けって!はいどうどう!どうどう!」

「ギョムギョム」


 荒れるリリアンをなんとか宥めすかしつつ、俺は何となく彼女の境遇に同情してしまった。自分ではどうしようもない何かによって自分を定義される。内面と向き合うことをせず、表面に貼られたラベルで価値を測量する。否定され続けた自我は歪み、崩れ落ちる。……それは最早、殺人と変わらない。

 なし崩し的に異世界へ飛ばされ、なし崩し的に彼女と出会い、なし崩し的に召使いになった。でも、少しだけ、ちょっぴりワガママなお嬢様の召使いという役割を全うしてみるのも良いかなと、そう思った。はは、我ながらチョロいな。昔からこういう話には滅法弱い。……何事も見てくれだけで判断してはいけません、その本質を見抜きなさい。いつかの先生の言葉が蘇った。

 ……よーし!いつまでも湿っぽくしてはいけない。ここは気分を変える為に追いガチャだ!ガチャはいいぞ、悩みも金もみんな吹き飛ぶからな!


「よし!気分転換にもう一回ガチャを引こう!さあお嬢様、さっきの青いやつをもう一個出してくれよ。次こそはイイのが引ける気がするから!」

「無いぞ」

「……えっ?」

「液化魔力はさっき渡したので全部じゃったぞ」

「…………腹を切ってお詫びいたしますぅぅぅぅ!!!」

「何故そうなる!?わーっやめろーっ、早まるなーっ!」


 止めないでくれ!他人のなけなしの全財産で引いたガチャで大爆死をかましたとあってはガチャラーの恥さらし。こんなザマでは大いなるガチャ神様に顔向け出来ない!このまま生きてはおれん、故に自らの命で以て償いいたす!

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