第2話 学校での彼ら
秀人は、クラスに入るや否や、渡辺さんに謝罪をした。
「ごめん、忘れ物しちゃって」
「いいよ、進路相談のプリントでしょ。加賀屋先生提出物に厳しいからね」
渡辺さんは苦笑いしながら言った。そして申し訳なさそうに続けた。
「あ、あのさ。無理は承知で聞くんだけど、玲花さんの連絡先教えてくれたりしないかな...」
「ごめん、それはできない。誰か男に聞いてみてって言われた?」
「そうなの、うちの部活の男子がしつこくて、仕方ないから一回だけ聞いてくるからダメだったら諦めてって感じ」
玲花はこの学校で「天使」と呼ばれていた。入学初日から、全校の注目の的で、歩けば皆振り返る花であった。芸能人レベル、いやそれ以上の何かを感じさせる美少女がうちの学校来た、と噂になったらしい。確かに玲香は惑う事なき美少女だ。
「でも大変だね、白光の美少女の兄は。玲花さんの話題が絶えないでしょう。」
「そうだねえ、周りにいる男たちはみんな玲花のことばかり聞いてくる。まあ、とにかく羨ましがられるね」
秀人は微笑みながら応えて続けた。
「それでも、俺は玲花に助けられて生きてるし、自慢の妹だよ、本当。」
今まで玲花がしてくれたことを思い出しながら言った。思い出すだけで胸が痛くなって、実は自分が我儘な兄なのでは無いかと記憶を辿り確認していた。
「でも、黒田くんも結構かっこいいってクラスで話題になってたよ。兄妹揃って大変だ。」
「そんな事初めてきいた、玲香の話を聴いてるとモテてもいい事あんまなさそうだなあ」
秀人は歪んだ微笑みを浮かべて言った。自分がモテていることに対して興味はなく、ただ人に注目され続ける大変さを感じ取っていた。
日直の仕事がひと段落して、朝のホームルームが始まるのを自席で待っていた。始まるのに時間がありそうなので、携帯で玲香のプレゼントを調べていた。
「なになに、彼女にプレゼント?このイヤリング可愛い!いいなあ。」
藪から棒に顔を秀人の画面の前に突き出した女生徒がいた。クラスメイトの里佳だ。彼女はクラスのムードメーカーで体育祭実行委員をやったり、バスケ部と軽音学部を掛け持ちするほどアクティブ性格の持ち主であった。
「違うよ、玲香の誕生日プレゼントを考えてたんだ。」
「へー、優しいね。高校生の妹の誕生日に2、3万円するイヤリングなんて買うんだ。」
彼女は、急に真顔で、クラス中に聞こえるような声で言った。その声はどこか白々しく、棘があるようであった。
「おい、そんな大きい声で言わなくていいだろ。」
幸いクラスにはまだ数人ほどしかいなかった。
「だってさあ、あんな美人な妹にかまけてばっかじゃ彼女なんてできないよ。気づいたら40歳くらいになってるよきっと。」
「それは俺の勝手、いくら美人でも恋愛感情はないから、何度もいってるけどね。家族として、そして日頃の感謝を込めて選んでるだけだよ。」
秀人は力強くクラスに聞こえるようにいった。
「はいはい、そうですよねえ」
里佳は不機嫌そうにため息まじりで言った。
一方、玲香はクラスの席に座って、読書をしていた。玲香のクラスである1年5組は、閑散としてまるで人がいないようであった。クラスの半分以上はすでに登校しているにも関わらず。なぜならば、皆、玲香が読書している姿を息を呑んで見ていたからである。当然他のクラスの生徒も廊下からその姿を覗いている。ただ一人の女生徒が登校するまでのことであるが。
「玲香、おはよう。」
「おはよう、華澄。」
華澄はその長い眉毛を上下させることなく、ただ玲香のことを見ていた。
「何、そんなに凝視されると困るんだけど。顔に何かついてる。」
「玲香は、今日も可愛いね。お兄さんが羨ましいよ。」
「ありがとう。華澄、少し髪の毛切ったね。似合ってるよ。」
玲香が華澄の髪をさらりと優しく触れると、華澄は嬉しそうな顔で答えた。
「玲香は本当に人のことよく見てるよな。容姿だけじゃなくて、性格もいいなんて好きになっちゃうよ。」
「私、人を見る目があると自負してるの。」
玲香は不敵の笑みで言った。
この光景を見ていた男子生徒二人組は、小声で話した。
「うちのクラスは、ラッキーだよな。」
「本当にラッキーだよ、学校いや、全国レベルで見てもあの二人は可愛い。しかものその二人が同じでクラスで友達だぜ。」
「玲香さんが輝きすぎて掠れてるけど、華澄さんのあのクールビューティーな感じも最高だ。」
「だなあ。背が高くてスレンダー、そしてあの冷たくも引き込まれるに魅惑の眼。あの切れ長な目に撃ち抜かれたい。」
言わずもがな、玲香は学校中、ましてや他校からも注目の的であった。しかし、華澄も一目置かれるルックスをしていた。生徒たちは皆、華澄は身長が高く170cmほどあるそうだ。髪はもともと胸の辺りまで伸ばされていたが、切って鎖骨のあたりまでの長さになっていた。
「そういえば、さっき読書しながらニヤけてなかった。何か面白い文でもあったの。」
「うん、ちょっと可笑しな話があったの。今度この本貸すね。」
玲香は左手を耳に当てる仕草をして、そのままその手をカバンに突っ込んだ。
「ありがとう、楽しみにしてる。そういえばさ、今日の放課後空いてる。新宿の方に気になる白玉ぜんざいのお店があってさ、一緒に行きたいんだけど。」
「ごめんね、今日は用事があるの。また今度行こ。相変わらず和菓子が好きなのね。」
「そっか、残念だ。また誘うね。」
担任の教師が扉を開く音がして、みな席に座った。
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