第19話それは突然

 朝から2人でご飯の準備をして、優花は洗濯、俺は罠を見に行ったりと色々してからシェルターで休むことに。


 シェルターの中でのんびり2人、休んでいると外で何かが近付いて来る音が…。


“ ジャリッ!ジャリ!ぺキッ! ”


(砂利を歩く音に…枝を踏み、それが折れた様な音…間違いない。何かがこちらへと近付いて来ている…)


「豊…っ…」 「しっ…」


 名前を呼ぼうとした優花の口に右手を添え言葉を塞ぐ。左手で誰かが来たという事を優花に合図して知らせる。


 コクコク…と頷いた優花に念のため木の棒を持たせ、俺は鉄片のナイフを握りしめる。


 そして、シェルターの入り口に身を潜め、出来るだけ音を立てないようにしながら様子を窺う。すると…


「あたしの高校の…制服? 制服だぁー!」


 女性の声。しかも。優花と顔を見合わせ…警戒しながら2人同時にシェルターの外へ。


「「誰(だっ)!?」」


「ひゃう!? び、びっくったぁ~!?心臓に悪いつ~の…」


 姿を確認すると、うちの高校の制服を着用している見た目はギャル風の女性。髪は金髪でセミショート。運動が得意そうな感じで細身だけど引き締まった体型をしている。


 俺は少なくとも彼女を知っている。話した事はない。だが、高校に入ってすぐに彼女の噂が流れた。ビッチだとか男遊びが激しいだとかヤリ◯ンだなんだと悪い噂が流れていたからだ。


 名前は確か…


「「笹島ささじまさん?」」


「そっちは確か歌羽と末広だったよね?まあ、それはとりあえず置いておいて、とにかく最初にあんた達に言って置きたい事があるつ~の」


「…何を?」

(…もしかして、ここを奪うつもりなのか?)


 俺と優花の警戒心が途端に跳ね上がった様な気がした。そうなればどうすればいいだろうかと…。


「……お腹空いた。何か食べさせて…みたいな?」


 とりあえず取り越し苦労だったなと2人して安堵の息を吐く…。


「…ああ…もうすぐ昼を作ろうと思ってたから、とりあえずこのリンゴでも食べて待っててくれる?」


「マジでっ!?リンゴあるのっ!?サンキュー!食べていい?食べていいよねっ!?もう食べるからっ!! あむっ…」


 ─急遽昼ご飯の準備に入る事にした。どうやらお腹がすいてるみたい。何も食べてなかったんだと思う。一心不乱にリンゴにかじりついてるしな。


 昼のメニューは茹でた芋。それから油で細切りにしたジャガイモとサツマイモを揚げた物を準備。それにサワガニも素揚げに。付け合わせはプチトマト。準備出来ると同時に食事を始める事に。


「うまっ!うまっ!何これ!?んぐっ…ゴクッ…凄く美味しい! アタシ昨日から何も食べてなくて…モグモグ…ゴクッ…モグモグ…はぐっ…んぐんぐっ…」


「だ、誰も取らないからゆっくり食べてくれていいよ?」


「そ、そうだよ笹島さん。ゆっくり食べないと喉に詰まらせるよ?」


「…うん。ありがとっ!マジ感謝!」




******


「ぷはっ〜〜〜 はぁ〜 ご馳走様。美味しかったし、凄くお腹が空いてたから助かったよ!ありがとうね? 今朝なんかお腹空きすぎて岩場に居たゴキブリみたいな奴食べれるのかとか本気で考えてたつ~の」


「ゴキブリみたいな奴…嗚呼 フナムシの事か?」


「そうそう、確かソレッ!」


「一応食べれはするんだけど味は…保証しない。ただ、釣りのエサなんかには使えるし、今度釣りしてみるかな」


「げぇ~ アレ食べれるんだぁ…」


「そういえば笹島さんはいつからここに?」


「2人共未希みきで良いよ?ウチらタメっしょ?」


「分かったよ、未希ちゃん。私は優花で良いからね?」


「お〜けぇ〜。まさかアイドルの優花とこうやってこんな所で話する事になるとは思ってなかったわ〜」


「だよね。まさか無人島なんてね」


「じゃあ、改めて、未希はいつからここに?」


「そうそう!それね?マジでビックリ!?目が覚めたら砂浜で。場所は大体ここから反対側位じゃね? って所で気がついてさぁ〜」


「島の反対側かぁ。今度行ってみようとは思ってた所なんだけど…」


「結構この島広いんだね」


「んで、食べ物も何も無い状態でしかも薄暗くなってきたからさぁ、近くにあった洞穴で仕方無く休んだんだよねぇ…」


「豊和君居なかったら私もそうなってたなぁ〜…」


「そして、座り込んで膝抱えて朝迄寝てたんだけどさぁ〜 ザワザワとしたっと思ったらフナムシが体に這ってて…」


「うわ~最悪だね…想像するだけで寒気がするよ…」


「それは大変だったな」


「ホント大変大変。お腹は空くし、喉は渇くし、森には入りたくなかったから海岸沿いを歩いて、そしたら煙が見えてさっ!それで何かを煮ている鍋を発見したって訳っ」


「あ~ あそこでひたすら海水を煮て塩を作ってるんだ」


「あの白いの塩だったの!?マジすごっ!塩ってああして作れるんだぁ!?」


「ホントああして塩が作れるなんて知らなかったよねぇ〜」


「そいで、とにかくそれで川の水を飲んでから昇っている煙を便りにここに来たっつ〜訳」


「川の水か…。一応今度からは煮沸したり、ろ過してから飲む様にな?」


「末広、ホント色々と詳しいね?」


「豊和君はホント凄いのっ!!何でも知ってるんだよ!!!」


「何でもじゃないけどな?」


 そんなに褒められると照れてしまう。


「で、一体ここはどこの島な訳ぇ?日本の近く? それとも外国の方が近い?」


 何と言うべきか迷った。本当の事を言うべきかどうか。未希の精神状態を心配しての事だ。優花の方に視線を向けると小さく一度首を縦に振るのが確認出来た…。


 …だよな。本当の事を言わない訳にはいかないよな。


「なぁ…未希、落ち着いて聞いてくれるか?」


「なになにっ? 二人してそんなに真面目な顔して…」


「今から言う事は冗談では無い事なんだ」


「? なんやら分からんけど聞くよ?」


「ここは地球では無いんだ…限りなく近い様だけど…」


「……………はっ!?」


「未希の反応は分かるけど…事実だから…」


「本当なんだよ、未希ちゃん…」


「またまたぁー2人してアタシを騙そうだなんて………………………え〜と…マジ?」


「「うん…」」


「はぁ─────っ!どうしてどうしてそんな事になるのよ!?流行りの異世界モノ!?」


「え〜と…流行ってるのか、異世界モノ?」


「末広!そんな事はどうでもいいつ~の!ちょっとどうするのよ、アタシ達ぃ!?」


「さぁ?ここで暮らして行くしかないとは思ってるけどな。なぁ、優花?」


「だよね。それ以外はどうにもならないしねぇ」


「アンタ達何でそんなに落ち着いていられるのよぉ!?テレビも携帯も、何もないつ~のにっ!?」


「いや…確かに、いつまでも一人だったなら俺もパニクってたかも知れないけど、ここが地球では無いと気付いた時には優花が居たしなぁ」


「私も豊和君が居たし…」


「はあっ!?アンタ達付き合ってるのっ!?まさかアイドルのスキャンダルをこんな所で知ることになるとは思ってなかったっしょっ!?」


「馬鹿だなぁ未希は、そんな訳無いだろ?」


「ま、付き合ってないよ?」


「はぁ~うん。理解した。なんつ〜か、アンタ達の関係性…なんとなく理解出来たわ。とにかくアタシ達はここで暮らして行くか、それとも死ぬか、どちらかしか無いっていう事しょっ?」


「早い話…そうなる。だけど…死ぬのは無しだ。折角こうして生きてるみたいだし、精一杯生きないと勿体ないだろ?」


「はぁ~ ホント、ツイテない。高校に入ってからアタシずっとツイてないわ〜」


「ツイてない?」


「あ〜 うん。先輩から告白されたんだけど何かその人って嫌な感じだったから断ったんよ!そしたら遊んでるだのヤりまくっているだの、好き勝手噂され、挙げ句の果てに気が付いたら無人島よ?しかも地球じゃあないなんて普通は冷静でいられなくない?」


「そ、それは大変だったな?でも…噂はこの島には無いし…」


「そ、そうだよね、豊和君。未希ちゃんを悪く言う人は今は居ないよ?」


 割合させてもらうがこの後、優花と2人、未希の愚痴に付き合わされて、あっという間に夕方になったのは言うまでも無い事だろう。


 とにかく真実を聞いても暴れたりしないでくれただけマシだと思う事にして、俺と優花は未希の話に相槌を打つのだった。

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