第15話海に潜る

「おはよう、豊和君♪」


「おはよう、優花」


 目が覚めると同時に真横から明るい声色でアイドルの優花から朝の挨拶を掛けられる。優花のファンにこんな事バレたら殺されそうだなとふと思いながらも、それに応えてから上半身を起こすと優花も同じ様に上半身を起こした。そして俺はふと気になった事を聞いてみる。


「―そういえば何で優花ってアイドルになったんだ?」


「えっ!?きゅ、急にどうしたの?」


「いや、さっきさぁ〜 人気ナンバーワンと言っても過言ではないアイドルの優花とこんな風に過ごしてる事がバレたらファンに殺されそうだなと思ったら…気になって…」


「わ、私なんかまだまだだったんだけど…え〜と〜 私がアイドルになったのは…自分に自身を持ちたかったからと…」(ちらちら)


 何で優花はちらちらこっちを見てるんだ?言うのが恥ずかしいのかな…。まあ、俺も聞かれたら恥ずいか…。


「わ、私を…み、見て欲しいから…かな…」

(と…豊和君にと言えば良かったかな…)


「そうなんだな…まあ、優花を見ない人は今や居ないだろしなぁ〜」


「うっ…やっぱり伝わってない…。よ、よしっ!と、豊和君に…見てもらえないと…意味ないんだもん…」


「―今、何て?」


「もう…今、私凄く勇気出したんだけどっ!? 豊和君は鈍感系なの!?」


「いや、優花の声が小さすぎなのが…」


「豊和君が悪いもん!もう…ホントにもう〜! ―で、今日は何するの?」


「優花が怒ってる理由は分からんけど…まあ、いいか。今日は銛を作った後、海に潜ろうと思ってる…」


「あ、危なくない!?」


「大丈夫大丈夫!泳ぎは得意だし、無理はしないから…。それこそ過信したら死んでしまうしね…。だから大丈夫だよ。んで、主に海藻や魚を獲ろうかと思ってね…」


「お魚さんに海藻かぁ〜。そういえばこの島で初めて口にしたのも…え〜と…ベラさんだっけ…?」


「妖怪◯間の一人と同じ名前なんだよなぁ〜。まっ、地域によってはクサビとも言うんだけどな」


「ああ、そのアニメ知ってるぅ!再放送であってたもんね?」


「そうそう―」


「「―早く人間になりた〜い!!」」


 2人でセリフがハモってしまいお互い顔を見合わせ笑ってしまう。そんな何気ないやり取りを終えた後、朝御飯に果物を食べて早速銛造りに取り掛かる事に。


 銛造りは簡単なもんだ。丈夫で少し長めの細い木の先端に十字に十五センチ位切り込みを入れる。4つに分かれた各先端を削って尖らせるだけだ。


「よし、銛が出来た!」


「おお〜、凄いね!」


「獲った魚はシメてから細い蔦を魚のエラに通すようにしようかな…」


「ホント頼りになるよね…私も何か役に立てればいいんだけど…」


「優花が居てくれるだけで俺は嬉しいけどね。それに頑張ろうと思えるしさっ!」


「…豊和君」


 なんだか…恥ずかしい事を言ってしまった気がする…。それを誤魔化す様に…


「と、取り敢えず海に向かおうか…」


「う、うん…」


 そう言って海に向かった。



***


 海岸に着くと同時に服を脱ぐ…。


「ちょっ!? 豊和君!?見えてる!?見えてるからっ!?」


「いや…裸の方が泳ぎやすいし、この間も見られたから慣れたかなと思って…」


「な、慣れる訳ないよっ!?何言ってんのっ!?」


「まあ、俺の裸なんて需要ないし…気にしなくていいから」


「少なくとも私には需要あるしっ!?この間も悶々とした時間を過ごす事になったんだよ!?今日もまた悶々しそうなんだけどっ!?」


「んっ? 何か言ったか?」


 準備体操をしていた為によく聞き取れなかった。


「ううっ…平常心平常心…お父さんのと違うけど…平常心平常心…」


 優花は大丈夫か?たまにブツブツ言ってるんだけど…。気になった俺は優花の傍に行き声を掛ける。


「優花、大丈夫か?」


「だだだ大丈夫だからっ!?そんなに間近で見せないでっ!?私耐えられないよっ!?」


 優花が顔を赤く染めながらもそう言うので大丈夫なんだろうと思う…。まあ、何かあったら大声で叫んでくれと伝えてから海へと俺は入っていく…。


 顔を海面に浸けてみると海の中は透き通っていた…。こんなに綺麗な海は見たことが無いほどに…。誰にも穢されていない…そんな感じだ…。


 一度顔を上げ…吸って吐いての呼吸を繰り返した後、大きく息を吸い、空気を肺に取り込んでから俺は海の中へと体を沈めていった…。

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