86 鳳凰暦2020年4月30日 木曜日放課後 小鬼ダンジョン ボス部屋前
予想以上にうまくここまでやってきたことに、私――平坂桃花は、喜びを感じました。
「3層、楽に進めたね」
「浦上さんのお陰だねー。やっぱりアーチを抑えられると違うからね」
「そんな、私はまだまだだと思う。すごいのは設楽さんの方だと思うわ」
「うん。設楽さんも、凄かったね。前よりもずっと、凄くなってた」
「えへへ。いつかまた平坂さんと組めるように、平坂さんに組みたいって思ってもらえるように、そう思って頑張ってきたから、そう言ってもらえて嬉しいな」
……まったく、もう、この設楽という人は。本当に、人たらしというか、何というか、もう、表現しようがありません。
3層はまずゴブリンアーチャーがゴブリンソードマンとの戦闘中に射掛けてくる矢が、その戦闘の難易度を跳ね上げています。
それを同じアーチャーである浦上が、先制して、アーチが矢を放てないように妨害し、突進した設楽がほぼ一瞬でソード2体を斬り伏せ、それを追い越すように私が駆けてアーチを殴り倒す。浦上の射線の確保にさえ気をつければ、今までよりもはるかに早く、3層での戦いが済みます。
このメンバーならできると考えていましたけれど、予想以上の連携が可能でした。
やはり、設楽の戦闘力は破格です。ショートソードからバスタードソードに替えて、それがさらに高まったと思います。
「今日はまだ、ボス部屋には入らない予定だったわね?」
「そうなんだ。やってみたいけど」
「明日まで我慢してね、設楽さん。今日はCルートで戻って、3層の裏戦闘をこなして魔石を稼いでおくのが優先だから。アーチが背中を見せてる間に浦上さんはとにかく矢を射掛けて。設楽さんはアーチを抜いて、ソードの相手をしてね」
「わかったわ」
「任せて!」
明日、クランのトップパーティーである私たちのボス戦が成功すれば、GW中は、ダンジョンアタックのスタート時間をずらして、外村のセカンドパーティーと、飯干と宍道のサードパーティーの二パーティーに、私が加わって、ボス戦に挑んでいきます。いわゆる、キャリー、ですね。
できれば夏休み前には私たちトップパーティーはボス魔石50個の納品を終えて、犬ダンへ進みたいところです。
……まあ、明日にはこの二人も、あれを初体験するのです。3層も含めて着実に鍛えてきたので、座り込むぐらいで済むとは思いますけれど、それでも少しだけ、この二人がどうなるのかは、楽しみにしておくとします。
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