49 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日午前 小鬼ダンジョン


 私――矢崎絵美は今までとは違う、人が多いと言われている時間にダンジョンに行くことにした。

 どうせ一人なら、少しくらい混雑していても関係ないだろう。


 ……見通しが甘かった。


 ロッカー棟は本当に人だらけで、まともに着替えられないくらい狭くなっていた。

 小鬼ダンジョン前広場も、人だらけだった。

 それでも、人がたくさんいるお陰で、私が一人でいてもそれほど目立たないのはありがたかった。私を見ている人などいないだろうと、ダンジョンへと入った。


 他の人が進むルートではなく、人がいない方へと進む。どうせ3体で引き返すつもりだ。

 戦闘については、矢を2本放ち、接近してきたらショートソードを振るう。図書室で調べて良かったと心から思う。きちんと勝てる。

 折り返して、さらに1体と戦って、魔石は4個。

 もう出口は目の前で、今日もなんとか生き延びた。


 そう思って歩いていると、前から来た4人パーティーとすれ違った。


「あれー? 矢崎さん?」


 声をかけてきたのは同じクラスの確か外村という女子生徒だ。代表で宣誓した浦上もいる。どうやら同じパーティーらしい。ガイダンスブックだと会釈で通り過ぎると書いてあったはず。私は会釈をして通り過ぎようとした。


「……まさか、一人、なの?」


 それは、本当に心配するかのような、そういう音を感じる言葉だった。


 私は思わず足を止めて、外村を見た。真剣な表情でこっちを見ている。私はこくりとうなずいて、そのままそこから歩き去った。


「……あいつら、ホント、ろくでもない……」


 後ろから聞こえてきた外村の声は、さっき私に向けたものとは異なる、穏やかではない熱を放っていた。


 私はダンジョンを出て、ギルドへ換金のために向かう。ところが、まだギルドは開いてなかった……。10分くらい待って、魔石を換金して、明日はもう少し時間を遅らせよう、そう思った。


 時間を早めようが、遅らせようが、誰に気を遣うこともない、たった一人での気楽なダンジョンアタック。楽なはずなのに、それは、私の心をじりじりと削っていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る