47 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日早朝 平坂第5ダンジョン――通称、豚ダンジョン


 今朝も早朝に家を出て、ダンジョンへ。今日は平坂第5ダンジョン――二足歩行の豚頭の魔物、オークがあふれる、通称、豚ダンジョンに行く。


 昨夜は絶対にお見送りをすると宣言していた妹の奈津美が残念ながらすやすやと夢を見ている間に、僕と岡山さんは出発した。

 岡山さんが心苦しそうにしていたけど、起きなかった奈津美が悪い。気持ちよさそうに寝てる奈津美を起こすのは可哀想だから、あえて起こさなかったことは脇へ置いておく。


 ただし、本日はお昼の12時までに帰宅するように母から厳命が下っている。

 これについては、岡山さんのお母さんを平坂駅でお見送りするためなので、僕にも抵抗は難しい。僕にだってダンジョンを我慢すべき場面があることは理解している。その代わり、行ける時にはできるだけ稼いでおきたいのだ。


「どうして今日はまた新しいダンジョンなのでしょうか? 昨日の犬ダンは、鈴木さんから見て、稼げるダンジョンなのですよね?」

「うん。でも、ダンジョンアタックは、稼ぐ、と、鍛える、が交互に必要になるから、かな」

「……どういうことでしょう?」

「高千穂さんと酒田さんの時みたいな? ボス戦をやって、トレーニングをして、また周回して魔石を稼いで、というルーティーンを、もうちょっと大きなスパンで考えると、最高で4層クラスがいて、5層までは戦える力がつく小鬼ダンの中で、稼ぐと鍛えるを繰り返す。5層まで行ける力がついたら、犬ダンで稼ぎつつ、小鬼ダンよりも深い5層、6層の戦闘でより深い階層へ向けて鍛える。今回の豚ダンは、その鍛えるの延長になるかな。入場制限がFランク以上ってのもあるけど、この豚ダンの1層は、実質的にはモンスターの強さが小鬼ダンや犬ダンの7層クラスになる。ここで着実に戦闘経験を積めば、いずれはより稼げるダンジョンへ行って、さらに収入を増やすことができる」

「……鈴木さんは、どれだけ収入を増やそうと考えてらっしゃるのですか?」

「うーん。収入を増やすというか、次のダンジョンアタックへと進むには、その準備としてお金が必要になるから、そもそも生活費を稼ぐためのダンジョンじゃないような?」

「そうすると、生活費はどうなさるおつもりですか?」

「正直、ダンジョンアタックのために準備するお金は巨額だから、そこから少し抜けば、生活費は別に問題ないと思うけど。そもそも、高校卒業までは月収27万円が確定してるし」

「そうでした。それは本当に心から鈴木さんに感謝しています」

「とにかく、今日は、オーク相手に戦闘経験を積んで帰ろう。そもそもここの1層の魔石は1個7000円だから、普通に戦っていくだけで、十分に稼げるし。それと、これまでは人間よりもサイズが小さ目なモンスターだったけど、オークは人間と変わらないか、階層が進めば人間よりも大きいタイプも出てくるから、ここでの経験はこの先、絶対に活きるはずだしな」

「はい。頑張りますね」

「まあ、すぐに、何が足りないかは、理解できるから」

「……ちょっと不安になりました」


 そう言った岡山さんを置いて、僕はさっとダンジョンカードをタッチして、豚ダンへと突入したのだった。





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