21 鳳凰暦2020年4月22日 水曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室


「それで、伊集院先生、変わったようすは?」

「岡山と酒田の仲が、かなり良くなったという印象はあります。名前で呼び合ってますね。ヒロちゃんとあぶみさん、でした。ま、それだけです。高千穂は、相変わらず、真面目な感じで、附中の頃からそのままだと思います」


 4組担任の伊集院先生にギルドから報告書が届いた生徒に関する話を尋ねながら、わし――佐原秀樹は頭の中でかつての教え子を思い浮かべていた。

 ギルドから届いた新しい報告書は接待戦闘の疑いだった。報告者は去年卒業した釘崎だったが、わしはまた宝蔵院がやらせたと考えている。

 いや、もちろん、ギルド出張所としては必要な業務だ。これまでも生徒指導面でこういった情報提供には何度も助けられてきた。その結果として救われた生徒も多いだろう。


「……呼び出し、ますか?」

「こういう疑いで呼び出すのは、確かにごく普通の対応だが、今回、また、あいつの名前が入ってるからな……」

「鈴木……」

「あいつが小鬼ダンのボスを倒せるのは間違いないし、接待戦闘の可能性は高い。何しろ、1組をすっとばして、ボス魔石の納品順の2番目、3番目、4番目が3人とも4組というのはこれまでのことから考えたら確かに異常だ。2番目の岡山は鈴木がべったりで助けたから、仕方がないが……。だが、あの真面目な高千穂が自分から接待戦闘を望むとも思えん。そもそも、接待戦闘は望ましくはないが、禁止事項でもない。ゴブイチなんぞ、ひとつの接待戦闘の形だろう?」

「それは、まあ、そうです。ですが、放置、という訳にも、いかないのでは?」

「結果として、接待戦闘で高めた身体能力に見合った実力がなくて困るのは自分自身だ。関わって支えられるのなら、そうしてやりたいが、自己責任の範疇とも言える。それに、あの鈴木なら……」

「鈴木なら?」

「……それも含めて、きっちり鍛えちまうかもしれんな」

「まさか、学年首席とはいえ、高校生ですよ?」

「ま、わしらがギルドからの報告にふらふらと踊らされるのはおもしろくない。伊集院先生は引き続き情報を集めて、この接待戦闘が明らかにマイナスになってると判明したら、その時は指導を入れようか」

「わかりました」


 少し不服そうだが、伊集院先生はしっかりと情報を集めるタイプだ。任せておけばいい。

 それにこれは、いろいろと拗らせた宝蔵院の仕業だろう。宝蔵院をなんとかするには、いつか、あの大馬鹿もんを呼び出して、叱ってやらにゃならんのかもな……。





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