19 鳳凰暦2020年4月22日 水曜日昼休み 学生食堂


 最近、親友の高千穂美舞のようすが、おかしい。あたし――伊勢五十鈴はそう思ってる。


 今日、美舞はささみあげ定食を食べていた。昨日は野菜炒め定食だった。先週はあたしと同じで毎日素うどんだったのに。


 素うどんは150円で、この学生食堂では一番安いメニューだ。この学校は月末に支払いができなくなったら退学という、普通の高校から考えたら信じられないような仕組みがあるため、あたしはもちろん、美舞もお昼は素うどんで、少しでも退学にならないようにしていたはず。

 昨日の野菜炒め定食は250円だ。これはまだ、気持ちはわかる。たまには食べたくなるだろうし、野菜は大事だし、まだ値段もお手頃だと思う。

 だけど、今日のささみあげ定食はちょっとどうかと思う。ささみあげ定食は350円なんだから。素うどんよりも200円も高い!


 塵も積もれば山となる。百円単位のお金を甘く見たら、退学が待ってるかもしれないのがヨモ大附属。


 まさか、美舞は……ダンジョンアタックがうまくいってるとか? でも、あたしと同じペアの状態で、先週も厳しいと愚痴をこぼし合ったのに?

 だとしたら、これってやけ食い? 4組の転科最下位の子と組んでるから、あたしよりも苦しい可能性は高いし、やっぱり、やけ食いなのかな?


 美味しそうでうらやましいけど、寮の朝食と夕食は、しっかりと栄養のある物を食べられるから、昼だけの我慢だ。その我慢ができずにやけ食いだとすると、ここは親友として注意した方がいいのかもしれ……。


「おー、おまえら、相変わらず、仲いいのな」

「高校入ってもまだ一緒かー」

「新しい友達、いねーの?」

「……いや、それ、アンタらにだけは言われたくないんだけど?」


 食事中に話しかけてきたのは3組の三馬鹿トリオ……学級代表の大津と、その友達の彦根と比叡だ。三人とも附中出身で、中3の時は2組でクラスメイトだった。


「いや、3組の最下位とはいえ、おまえらは3組と4組でクラスが別れたんだからよー、縁切りのタイミングだろ? おれら3人は、今年も同じクラスだしよ」

「ああ。初期の育成パーティーが終わったら、おれら、3人で組むつもりだしな」

「そうそう。ま、その時、他の希望者がいなかったら、伊勢、入れてやってもいいぜ?」

「は? ウザいんですけど?」


 3組と4組に別れたら美舞と縁を切れ? おまえらのパーティーの入れてやってもいい? ふざけんな三馬鹿が!


「誰がアンタらなんかと組むか、バーカ。邪魔だからどっか行け三馬鹿」

「ま、いつまでそんなことが言えるか……」

「ペアで、なぁ?」

「しかも3組の転科最下位だろ?」

「はぁ? 宮島さん、めっちゃいい子だからな? アンタらみたいな馬鹿とは違うから? そもそもあたしがペアなのはアンタがそう決めたからだろーに!」

「バーカ。おまえ、『陵竜也の軌跡~栄光のトップランカー~』を読んでないの? あの班分けは日本ランク1位が高校の時にやったのと同じだっての」

「アンタと陵竜也が同じワケないじゃん。バカなの? あ、バカだったわ」

「おーおー。5月のテスト明けになっても、その強気が出せると思ってんのか? つまり、育成期間が終わっても、このまま転科最下位と組むってか?」

「……」


 確かに、3組の附中の女子からも、育成期間が過ぎたら一緒にやろう、とは言われてるけど……。


「答えらんねぇんじゃん。ま、伊勢の席くらいは空けといてやってもいいぜ?」

「そん時が楽しみだな」

「ははっ」


 そう言い捨てて、三馬鹿はどこかへ行った。


「……あの三馬鹿、ムカツク。ねー、美舞。そう思うでしょ?」

「え……あー、どうかな……」

「え? ムカつかない?」

「いやぁ……なんか、ね。一度、本物ってのを見ちゃうと、あーゆーのって、ただの小物でしかないんだなぁって。それがわかったら、たかが3組首席で威張ってるとか、ホント、相手にする価値もないし、全然、これっぽっちも、腹も立たないっていうか……」


 あたしとクラスが違うから縁を切れって言われたんだから、美舞も怒ってると思ったんだけど。


 ……相手にする価値、なし? それはそうなんだけど、え? どうしたの、美舞⁉ 何があったの⁉





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