3 鳳凰暦2020年4月20日 月曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所4階第13ミーティングルーム


 朝のHRの後、岡山さんから昼休みに時間が取れると聞いたあたし――高千穂美舞は、ギルドのミーティングルームを2時間目と3時間目の間に予約して押さえ、3時間目と4時間目の間に、その部屋番号を岡山さんへ伝えた。


 そして昼休みの今、酒田さんと共にこのミーティングルームで待っている。


「……こんなに早く、会う時間が取れるってことは、本当に一緒にダンジョンへ行っている人、なのかなぁ?」


 ぽつり、と酒田さんがそう言った。それはあたしも感じていた。

 岡山さんがあたしに気を遣って、嘘をついているのだとしたら、もう少し、身代わりや演技をしてくれる人を探す時間が必要だと思う。嘘じゃないとしたら、一緒にダンジョンに行ってる人は存在する。しかし、それは、この学校での常識から考えると、稀有な存在、ということになる。


 他のクラスの岡山さんと組める、という時点で、その人は自分のクラスでは少なくとも3人パーティーか、それ以下の人数であること。3組のようなパーティー編成でない場合、3人パーティーはクラスにひとつ。それ自体が珍しい。

 あたしたちのようなペアや1組にいるソロをやりたいと言い出したという人は、ほとんどいないはず。それに、ソロをやりたいと言った人が組んでくれる訳がない。


 さらには、退学RTAとまで噂されてしまった岡山さんと組もうとする、奇特な人物であること。

 なんとかダンジョンから稼がなければならないのは、岡山さんに限らず、誰にとっても同じことで、他人を助けている場合ではない、というのがこの学校の実態だろう。


 そんなことを考えていると、こんこんこん、と優しいノックの音がした。


「どうぞ!」


 あたしは思わず立ち上がった。それに釣られて酒田さんも立ち上がる。


 ドアを開けて、岡山さんが入ってくる。岡山さんはどちらかといえば背が低い方なので、その後ろに続けて入ってきた男子生徒の顔ははっきりと見えた。


「え……」


 それは、知らない人ではあるけど、よく知っている人でもあった。

 ある意味では学年一の有名人で、あたしも、ゴブイチ実習でRTAして、小鬼ダンから一番に出てきたのを小鬼ダン前の広場で見ている。

 その時に、学年主任の佐原先生がはっきりその男子生徒の名前と現在の順位を言ってた。学級代表として列の前方、佐原先生に近かったあたしは、はっきりと聞いた――。


 なんで岡山さんが学年首席の鈴木くんと一緒にいるの⁉ いや、そういう変な噂は流れてたけど、佐原先生が完全に否定してたのに⁉ これじゃ噂通りだけど⁉


 それは、補欠合格で学年最下位の岡山さんと一緒にダンジョンに入るにしては、もっとも縁遠いはずの人だった。





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