願いの叶う鏡

ぴろわんこ

第1話母から鏡の譲渡

リナは高校三年生の時に父親を病気で亡くした。優しい父だったのでショックだった。母も当然、悲しみに包まれていた。しかしどこか安堵しているようにも見えた。いや、そんなわけないじゃないと、変なことを考えた自分をリナは叱りつけた。


葬儀を終えてしばらくすると、リナは母親から願いの叶う鏡という物をもらった。私はもう要らない。あなたもいい歳になったのだから、付き合いを意識した異性ができた時にこの鏡があると便利よとのことだった。


「え、どういうことよ?鏡に向かって両想いになりたいと願えば、両想いになれるってこと?」

「いや、そうじゃなくて。いやある意味そうかもしれないけど、美人になれるのかな」

「えっ?」


リナは思わず声を出して、母の顔を見てしまった。お世辞にも美人とも、かわいいともいえる顔つきではない。リナも母に似たのか不美人だ。

だが父親はハンサムだ。リナは何故、父のようなイケメンが母と結婚したのか疑問に思うことがないわけでもなかった。母の性格の良さに惹かれたのだろうと、自分を納得させてはいたが…


「その、説明が難しいのだけど、好きな人にとっての美人になれるってことよ。例えばあなたが特定の同級生のことを好きになったとして、その子にとっての好きな顔にあなたが願うと変わるわけ」

「顔がそう変形するの?」

「いや変わらないわよ。その子にだけそう見えるようになるだけで、顔そのものは変わらないわよ」


そういえば、とリナは思った。父と母が写っている写真は家にほとんどなかったな。父にそのことを尋ねると、お母さんは病的なまでの写真嫌いなんだよ、あんなに美人なのになと笑いながら答えてくれてリナとしても戸惑った覚えがある。


「その鏡に願って、お父さんをゲットしたの?」

「まあ、そうね」

「写真を撮らなかったのもそのせい?」

「そうね、写真と実際の顔が違い過ぎると不審に思われてしまうから。どうしてもという時はサングラスやマスクを付けて撮ったわ」


半信半疑ながら嘘であったところで失うものがあるわけではないし、丁度クラスメイトで気になる存在でもあったサトシという子の好みの顔にしてくれと、お願いすることにした。

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