第 ニ 項


ワレは一度教団本部に戻るが、お主はどうする?」


 ウェイクの少し先を歩いているルスティが口を開く。

 後を追うように歩いていたウェイクは、少し悩んだ後で口を開いた。


「……さっきのはどういうつもりだ?」

「んー? さっきの、とは?」


 問い返しながらもルスティは振り向かない。歩みも止めない。

 和やかとは言えない雰囲気の中──主にウェイクのせいだが──、二人は歩を進めていく。


「お前がオレを従者だと言った話だ」

「あぁ、その話か。咄嗟とっさに思い付いたにしては、なかなかそれっぽかったじゃろ?」

「……何が目的だ?」

「むむ? どういう事じゃ?」


 首だけをウェイクに向けてルスティが問い掛けてくる。

 黒いベールの隙間から覗く紅い瞳が、ウェイクを真っ直ぐ捉えていた。


「オレとお前はさっき森で会ったばかりの、知り合い以下の関係だ。そんな得体の知れない奴を王都に入れて、何を企んでいる?」


 ウェイクの答えを聞いたルスティは、短く溜め息を吐くと、再び正面に向き直る。

 心底呆れたような声が続く。


「頭がかったいのぅ、お主。吾は何も企んでおらんよ。お主が困っておるように見えたから、助け船を出しただけじゃ」

「困ってたから?」

「そうじゃ。どこか鬼気迫る雰囲気があるお主じゃが『悪人』ではない。そう感じたから助けたんじゃ」

「……」


 ルスティの背中を静かに見つめながら、ウェイクは既視感を覚えた。

 かつて傍にいた『誰か』の背中が脳裏を過る。


「む? 何やら人混みが出来ておるぞ?」


 何かを見つけたルスティが足を止めた。

 ウェイクも少し手前で足を止めて、先を見据える。


 中央広場の真ん中に、人だかりが出来ていた。

 人だかりの面々は主に女性で、中心に立っている人物に対して黄色い声を上げている。


 中心に立っている人物に、ウェイクは見覚えがあった。


「ディエド……」


 燃えるような赤い長髪を靡かせた修道服の青年。

 かつて見た主教ディエドの若き日の姿だった。


 ディエドはウェイク達に気が付くと、人だかりに別れを告げて歩み寄ってくる。


「ディエドではないか。こんなところで何をしておる?」


 知人だったらしく、ルスティが気さくに話しかけた。

 ディエドは軽く挨拶すると、爽やかな笑顔を見せて質問に答える。


「今朝方、天啓を得てね。ここで待っていれば、良い出会いがあるらしいんだ」

「占いの類か? して、良い出会いはあったのか?」

「あぁ、もちろん。……待っていたかいがあったよ」


 ルスティの言葉を聞いたディエドが、答えながらウェイクの方に目線を向けた。


「……」


 ウェイクがディエドを見つめていると、ディエドは陰りのない表情で真っ直ぐウェイクを見据えて口を開く。


、僕はディエド。『クロ:ロス教団』の神父をしている者です」

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