022 バブちゃん

 傭兵団"虹の剣"は念願ねんがんだった2人目のG・Sパイロットを手に入れた。


 しかし、クレインはいきなりアイリスにキスした後、ゆっくりと倒れ込んで高熱を出して寝込んでしまった。


 医療いりょう心得こころえもあるケレスが言うには、急にことによる肉体的疲労と精神的疲労による貧血らしい


 点滴てんてきとバランスのいい食事と休息を取れば治ると言うので、大事なくて良かった。


 だが何故急にクレインはキスをして来たんだろうか……。


 ベスタの時もそうだが、この世界でのキスは挨拶や握手みたいなものなのかな


 ホワイトポーンも先の戦いで右腕をぶん投げちゃったり、無茶な動きをしたせいでガタガタらしく虹の剣はしばらくの間、傭兵活動が出来ないみたいだ。


 惑星同盟領のコロニーへと戻るとケレスはクレインの看病、ベスタはG・Sの修理や整備、コリンとカイリは食料の買い出し、そして俺とテレイアはクレインの衣服や他のクルーの生活用品などの買い出しへと繁華街はんかがいに向かうことになった。


 母艦ピーターワンから下船する時にケレスが近づいてきて耳元でささやいた。


「アイリス、お嬢様テレイアには決してやそれが入った物を口に入れさせないでくださいね……」


『アルコール?それはお酒類ですね、何か事情があるのですか?』


「肉体的にも精神的にもちょっとダメなの……」


 なんだろう、アレルギーでも出ちゃうのかな?


『分かりました、お酒は勿論もちろん飲ませず、入ってそうな菓子なんかも気を付けておきます』


「お願いね……」


『オ゛フッ!?』


 そうして、去り際になぜか俺の股間をポンポンと触った痴女ケレスは母艦へと戻って行った。


「アイリス~!早く行くわよ~!」


 コロニーの繁華街へと向かう道でテレイアが手を振っているので、小走りで歩み寄った。


 繁華街のショッピングモールへ向かうと2人で買い出しを始める。


 テレイアは商品をじっくりと見ずにパッパッとカートに入れて行く、せっかちなのかな?江戸っ子みたいな性格だ……。


「べぇきぃしゅん!!!!」


 くしゃみもおじさんみたいだ。


「惑星同盟のコロニーは暖房が低くて冷えるわね……もっと厚着してくれば良かったわ!」


『上着でも買いますか?』


「大丈夫よ!とっとと買って帰ればいいのよ、そうだ!二手に分かれて備品の補充しましょう!」


 ほんとにせっかちな性格だ……服とか小物とかゆっくり見て行ってもいいのに、そういう事なので、テレイアは他のクルーの衣服を、俺は医療品の買いだめを頼まれたのであった。


「じゃあ終わったらモールの公園でね、何かあったら渡した通信機スマホで連絡して頂戴!じゃあね!」


 テレイアはそう言うと背を向けてスタスタと衣料品が立ち並ぶ店舗方面へと歩いて行った。


 俺も薬局へと向かう事にする。


 だが俺は薬局へと向かう途中の立ち並ぶ店舗の中で店を見つけてしまう。


 店から鳴り響く数々の電子音……"ゲームセンター"この世界にもあったんだ。


『………………』


 ちょっと見て行くだけなら……。


 俺はゲームセンターの中に入ると中を見渡す。


 にあったゲームは1つも無い、あるのは単純なパズルゲーや20年ぐらい前にありそうなアクションゲームばかりだ。


 たぶんこの世界ではゲームはあまり流行ってなくて、開発の進化も遅いのだろう。


 そんなゲーム達の中で目に留まったのがG・Sを操作するゲーム、当然『ギガント・スケアクロウ』では無くデモ画面を見る限りグラフィックも荒くフレームレートコマ数も少なくて動きがカクカクだ。


 ……1回だけ、1回だけやろう。


 俺はおこづかいとして貰ったマネーカードを筐体きょうたいに刺し込んでゲームを始める。


 うわぁ、なんだこのゲームは……BGMも単調だし、ビームも錦糸卵きんしたまごみたいなグラだし、なんてクオリティが低いんだ!


 あ、やられた……なんで?敵の弾に当たってないじゃん!


 なんなんだこのゲーム!つまんない……


 もう一回だ!


 それから俺はこのゲームをひたすらやり続けた――


 ………………


 …………


 ……


 よっしゃ!クリアしたぞ、どうだ!


「こら!アイリス!!!!」


『わっ!』


 後ろからテレイアに両耳をままれて、怒鳴られた。


 しまった、時間を忘れてずっとこのゲームをやってしまってた……テレイアの足元には幾つもの衣類が入った紙袋、対する俺は手ぶらだ。


「買い物もせずに何遊んでるのかしら?」


 笑顔だが、瞳の奥が笑ってない顔で詰め寄られる。


『ご、ごめんなさーい!すぐ買ってきます!』


 俺は慌ててゲーム筐体から立ち、小走りでゲーセンから出ようとすると、背後で「喉乾いたからなんか飲み物も買って来て!」と聞こえたので『買ってきまーす』と返して薬局へと向かうのであった――。


 パパっとメモに記載された物を買い込んで、ついでに売っていたエナジードリンクっぽい缶ジュースを買うと、走ってゲーセンに戻った。


 すると、テレイアは俺が先ほどまでやっていたG.Sを操作するゲームを熱中してやっている。


「おかえりアイリス、これかなり難しいわね!」


『そうですね、フレ弱でガバ半だからデカ避けしながら置きエイで一確取ったら直ぐスプってレザアタをガメたらコロ芋って強ポジから……』


「は?意味分かんないし……すっごい早口!」


『ジュ、ジュース買ってきました』


 俺はなんか恥ずかしくなって、飲み物をテレイアに渡す事でお茶をにごした。


「ありがとう!はりきったから喉乾いちゃって……んっゴク……ゴク……おいしい!」


 相当熱中してやったのか、額に汗をにじませながら俺が渡したジュースをガブガブと飲んだテレイア、すると俺にマネーカードを差し出すと、こう言った。


「このカードにまだ3万senセン残ってるから、アイリスが欲しい物があったら買って来ていいわよ!」


『え!?』


「いつも頑張ってるからね、たまには自分が好きな物でも買ってきなさい、じゃあ私はゲームの続きするから……」


 そう言うとテレイアは直ぐにゲームの筐体に座ってプレイを始めた。

 

 もしかして、テレイアはそのゲームにハマってしまったのでは……?そういう事なら俺もどこかで時間を潰して彼女を遊ばせてあげよう。


 俺は再びゲーセンから出ると、ショッピングモール内を見て回る。


 ロボットアンドロイドだから食べ物は買えないし、ゲームもいい物が無さそうだしな……衣料品でも見るとするか。


 服屋に入り色々見て回る。


 しかし、自分が女性の身体になったからなのか、何を着ていいのか分からず結局いつも履いてる半ズボンの替えを手に持っただけであった。


 まだ全然お金senが余ってるな……俺は店にあったに目が行った。


 そういえばテレイアが寒がっていたな、よしっ、買って渡そう。


 俺は会計を済ませると、いつの間にか待ち合わせ場所となってしまったゲーセンへと戻る。


 するとテレイアはG・Sゲームの筐体に座りながら前のめりになって突っしっていた。


 ね、寝てる……?


『テレイア、どうしましたか?起きてください』


「う……ううう……」


 むくりと起き上がって俺の方を見た。


 な、泣いてる!?


 テレイアが……瞳をうるわせ、顔を赤らめて泣いている――。


 俺はいつものギャップと、その可愛らしさに思わずドキっとしてしまう。


「ママあぁぁ!!どこ行ってたの!?さびしかったよぉ……ひん……ひん」


『えぇぇぇ!?』


 そう叫んだテレイアは俺に抱き着いて来て、ワンワン泣き始めた。


 これはただ事じゃない――


 俺はしがみついて来たテレイアを連れて、"何事か?"とざわつき始めた周りの人達に頭を下げながらゲーセンから出ると、公園の人気のない場所にあったベンチへとテレイアを座らせた。


「ママ~、マ~マ♪どこにも行っちゃやぁよ……」


 笑顔で身体を揺らしながら俺の右手を握りしめて離さないテレイア、俺は左手で通信機スマホを取り出すと、ケレスに連絡をする。


「はい……アイリスどうしました?」


『ケレス突然すみません……あのテレイアが急に泣き出して、お……、私のことを"ママ"、"ママ"って呼び始めたんです!』


「あぁ……アルコールを口に入れてしまったんですね」


 え……アルコールなんて飲ませたかな?……思い当たるのは俺が渡した"エナジードリンク"


『私があげた缶にアルコールが入っていたのかもしれません……』


「ちなみに何てジュースですか?」


『"エール"って書いてありました、"ジンジャーエール"的な物かと』


「あぁ~……ね」


『ごめんなさい……でも、一体何故にこの様な状態に?』


 ふぅ、と一息を入れたケレスが答える。


お嬢様テレイアはアルコールが極度に弱く、口に入ろうものなら普段"気丈に振る舞っている仮面"ががれ、心の奥に秘められた"亡くなった母君"に甘えたいと言う思いがき出しになってしまうのです……」


 亡くなった?……テレイアには母親が居ないのか。


「精神的な"幼児退行ようじたいこう"をしてしまい、通称"バブちゃん"となって身近な女性に甘えだすのです!」


『ばっ!……"バブちゃん!?"』


 なんだそれは、二重人格にじゅうじんかくみたいな物なのか?


「大丈夫よ……時間が経てば治るわ、それまで付き合ってあげて頂戴……船に戻って艦長としての面子メンツ的にもクルーには見せない方がいいからね」


『分かりした、責任は取ります』


「お願いね……でも"エールビール"をジュースだと思うなんて、アイリスは意外とドジなのね……」


『う゛っ!』


「まぁ、そういう所ものだけど……」


 ピッ!


 俺は通話を切った。


「ママぁ……ママぁ……」


 幼児退行したテレイアバブちゃんが上目遣いで、俺の服を引っ張りながら呟く。


『ど、どうしましたか?』


「おしっこぉ……」


 お、おしっこ!?……幸い公園にあるトイレ近くのベンチだった。


『あそこにおトイレありますよ』


「やあぁ~……怖いのっ!一緒にいくのおっ!」


『え、それは……』


れちゃうよぉ……ひっく……」


『わっ!分かったから行くから!』


 俺は手を握られたテレイアに引っ張り込まれる様に公園のトイレへと入って行く


 するとトイレの個室にまで引っ張り込まれそうになり、俺はドアの隙間から何とか握られた手を限界まで伸ばしてギリギリ個室に入ることから逃れた。


 音を聞くな……遠くの青を想像するんだ――。


「ママぁ……」


『終わった?』


いてぇ」


『ふっ!?』


 それだけは踏み込んではいけないラインだ……。


『もうお姉さんなんだから、自分でフキフキしようね!』


「ん~ん……わかったぁ!」


 ふぅ……。


「拭けたよぉ~ホラホラ見て見て~」


『わっ!分かったからパンツ履こう、ね!』


 なんとか御手洗を済ませ、元の公園にあるベンチへと戻って来た。


「自分で出来たよ~、偉いでしょ?偉いでしょぉ?」


『えらいねぇ~』


 頭をでると「えへへ」と喜び、純粋な笑顔を見せるテレイア、俺の心の奥底でも"母性"の様な感情が芽生えて来る。


「ママ~、おっぱい!」


『え!?』


 テレイアは俺に抱き着いて胸に顔を埋めると、なんと服の上から俺のおっぱいを口にふくみ始めた!?


『ちょっと!おっぱい出ないから、吸わないでぇ~!』


 でもなんだろう……この感じ……あらあら、これが……がママになるということなの?――


「んちゅ……んちゅ……ぷは!ママからはおっぱい出ないねぇ」


 俺が着ているのはノーブラのボディースーツなので、ほぼ直に乳頭にゅうとうを吸われている感覚を味わい、徐々に自身も正気を失い始める。


『ごめんなさいバブちゃん……私、ママ失格かもしれないわ』


「ママはママだよ!……あれれ?ママはお股(また)にもがあるよぉ!?」


 え?……あっ!ガッツリとテントが張った俺のズボン――


 母性じゃなくて父性ふせい(?)の方も出て来てしまった。


ならおっぱい出るかな?」


 テレイアが俺の股に顔を埋めておっぱいを吸おうとする。


 俺は正気を取り戻し、このだけは超えては不味いと必死にテレイアを引き離そうとする。


『出ないから!そっちは"パパ的な"だから!おっぱい出ないからぁ!』


《アイリス、からは"人工タンパク液"が出る機能が付いております》


 うわ、なんて高機能なんだ!


 って言ってる場合じゃない、そのミルクだから!


 テレイアはグイグイと俺のズボンを引っ張り始め、それを拒否する俺、まるで相撲かレスリングの様な争いとなり、テレイアは謎のパワーを発揮して俺は負けそうになる。


「やぁ~!吸うのっ!」


『あっ……』


 俺の半ズボンがズリ降ろされ、ボディースーツで隠されているが、プルルンアンドモッコリと父性が剥きだしになってしまった……。


 終わった――


 しかし、何時までも吸われること無く、下を見てみるとテレイアは足首まで脱がされた俺のズボンに顔を突っ込んでいる。


「う゛っ!すごく動いたから気持ちが……悪く……う゛……う゛っ……」


 テレイアが俺のズボンに顔を埋めながらプルプルと震えだす。


『え!?まさか!』


「おっ……おっ……おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


『あ゛っ――!!!!』


 俺のズボンに流れ込むテレイアのお口から放たれた――


 今日、俺はこのアンドロイドの身体ボディには"涙を流す機能"がそなわってることを初めて知ったのであった――。


………………


…………


……


 俺はトイレの洗面所で半ズボンを洗い、替えのズボンに履き替えてベンチに戻る。


 公園のベンチには出すものを出してスッキリとした顔でスヤスヤと眠るテレイアの姿があった。


 俺はテレイアの口周りを拭くと、ベンチに腰掛け彼女の頭を撫でながら顔を見つめる。


 こうやって見ると普通の可愛らしい十代の女の子だ……。


 この歳で傭兵団を結成し、自らの命と仲間達を指揮する責任を懸けて戦う――


 色々と精神的に溜まって行くものもあるんだろう。


「ん……んんん」


 テレイアが目を覚ました。


「あ、あれ?アイリス、私……寝ちゃってたの?」


 どうやら"バブちゃん"は収まったようだ。


「ははっ……だめね、街中で急に寝ちゃうなんて……」


『いいじゃないですか、たまにはゆっくりと体を休めるのも』


「アイリス……べぇきぃしゅん!!!!」


『そうだ、テレイアこれを』


 俺は紙袋から"マフラー"を取り出すと、テレイアの首に巻き付けた。


『寒そうにしていたので、貰ったカードで買っておきました』


「アイリス!」


 テレイアは俺の両頬を両指で摘まみ上げ、軽くつねる。


『ん!?』


「いい?貴方が貰(もら)った物は貴方自分の為(ため)に使うべきなの!誰かの為に自分が渡されたを与える必要は無いわ!」


 怒られてしまった……。


 でも何故かテレイアは俺にではなく、まるで俺の瞳に映った自分自身テレイアに言い聞かせている様に見えた――。


『ご、ごめんなさい……』


 テレイアはふぅ……と一息付くと、まんでいる俺の頬を少し上に


「でもね、アイリス……それでもね……」


 まるで"バブちゃん"の様な純粋な笑顔で答えた。


「ありがとう――!」


 そんな姿を見た俺は、既に頬を摘ままれていないのに暫くの間、口角が少しだけ上にがりっぱなしになっていたのであった――。




――――――――――――――――――――――――――――――


 母艦ピーターワンのブリッジにはテレイアとケレスが2人だけでブリーフィング打ち合わせをしている。


 そんな中でケレスはテレイアに尋ねた。


「お嬢様、マフラーをしておりますけど……艦内の暖房を高く致しますか?」


「え!?あっ……大丈夫よ、大丈夫!」


 テレイアは首に巻かれたマフラーを手でなぞりながら軽く微笑み


「うん……大丈夫♪」


 そう呟いてブリーフィングに戻ったのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る