019 ナノエレクト亀甲結界

 アルクトス第1コロニーから出発して、二日後――


 母艦ピーターワンは遂にテレラ惑星同盟領に入る。


 レベリオ帝国との戦争中である惑星同盟領内部は厳重な警備体制となっており、幾ら2国間ので不可侵と決められた民間専用の"セーフロード不可侵航路"を航行していても何度となく同盟軍の駆逐艦に止められては事情聴取をされながら進んでいた。


 そして、この世界での人類始まりの地……惑星テレラが母艦から目視で確認出来る程の位置まで来たのである。


 惑星の大きさは直径約13,000km、地球とほぼ同じ大きさで空気や海、植物も豊富で環境も地球そのものであろう。


 しかし、我々"虹の剣"は惑星テレラへの着陸許可は降りなかった……。


 どやら得体の知れないDランク傭兵団では手続きをして1カ月ぐらい精査をされないと着陸許可は下りないならしい


「ちっ……こんなことなら勲章を貰っときゃよかったわ!」


 テレイアが小言を呟く、虹は何色にも染まら無い云々うんぬんはどこ行ったのやら……。


 仕方なく惑星から一番近い同盟領のコロニーに向かい、母艦ピーターワンはそこで停泊した。


 コロニーへと上陸した虹の剣一行は繁華街へと向かうと、前もって連絡を取り合っていた"廃棄コロニーのスナイパー"の記事を書いた新聞記者と会うことになった。


 指定された喫茶店へ向かうと、既にその人物らしき帽子を被った長髪で天然パーマな中年の男がボックス席でコーヒーを飲んでいた。


 こちらの姿に気づき、立ち上がって声をかけてくる。


「やや!?これはこれは、虹の剣の皆様方、よくぞお越し下さいました」


「貴方が新聞記者の"ハッタ"さんね?」


左様さようでございます。貴方は団長のテレイア様ですね、早速"廃墟スナイパー"の話をしたい所ですが……」


「まずは虹の剣のインタビューね、それと等価交換する約束だったものね!」


「んふふ、お話が早くて助かります、さっさ!こちらにどうぞどうぞ」


 虹の剣の面々はボックス席に座ると、ハッタという記者のインタビューに受け答えた。


 主にムジナ一家との抗争の件をテレイアは当たり障り無く淡々と答える。


 1時間ほど質問に答えた所でテレイアは業を煮やした。


「そろそろいいでしょ!?今度はこっちが知りたいことを教えて頂戴!」


 そんなテレイアの様子を見たハッタはコーヒーを一口飲んで一息入れると、テーブルに置いてあったレコーダーの電源を止めて語った。


「大まかなことは記事の通りでございますが……実は記事にも書けないの情報がございまして」


「裏の情報?まぁそういうのを聞きにここに来たのだけどね」


 ハッタは口元に手を当てて顔を近づけると小声で話す。


「これは惑星同盟軍幹部をやってるから聞いた話です……廃コロニーに住んでいた夫婦は実はでは無く、同盟軍のに殺害されたのです……」


「え!?殺害……!」


「しっ!お静かに……その夫婦は研究コロニーで、軍事兵器の開発をしていたのです、その名も"ナノエレクトワイヤー"」


"ナノエレクトワイヤー"……初めて聞く、俺の世界のゲームにも無かった。


「私も軍事兵器のことはあまり詳しくないですが、なんでもほどの細いワイヤーから荷電粒子かでんりゅうしを発生させ、ワイヤーに電磁を通じさせて既存のレーダーよりも早く正確に探知、さらには相手の熱源を計算して数秒後の行動をするだとか……」


 予知能力……何だか凄い技術だな、回避は不可能となると"パトリオットファイア"かガン盾ビームシールドでの攻略になるか。


「ナノエレクトワイヤーの存在を知った惑星同盟の軍上層部は夫婦に技術協力を依頼しました……しかし軍の圧力が嫌だったのか、資金面での折り合いが付かなかったのか、夫婦はレベリオ帝国との交流を図ろうとしたのです」


「帝国との接触を果たそうと2人で出かけた時に、同盟軍の暗部に消されたのね……」


「その後同盟軍は、夫婦が所有していたコロニーへ軍を派遣して研究データを接収しようとしましたが……コロニーの周囲1万㎞以内に侵入した艦船、G・S全てが撃ち落とされたのです」


「それが娘の狙撃手スナイパーね!」


「左様です、敗走した同盟軍が光学望遠鏡でコロニー周辺を調べた所、コロニーを囲うナノエレクトワイヤーが周囲500㎞に展開されてました」


「船舶係留ロープ並の太さのナノエレクトワイヤーでハニカム構造六角状に編まれた結界網はその形が巨大な亀の甲羅こうらに似てることから"ナノエレクト亀甲きっこう結界"と呼ばれてます」


 "ナノエレクト亀甲結界"……ムジナの次は亀か。


「夫婦が残した"ナノエレクト亀甲結界"から発せられる圧倒的なセンサー能力と行動予知でコロニーを守り、もう戻らない両親を待ち続ける娘……なんとも哀れな話ですねぇ……」


『………………』


 もう戻らない親を戦いながら待ち続ける少女、俺は規模は違えどよく似ている人物を知っている。


 よく遊んでくれて大好きだった父、そんな父とよく遊んでいたゲーム、そして家から父が去り……もう戻らない父と再び一緒にゲームが出来ることを信じてずっとやり続けた一人の男の子――……


 そのゲームで勝ち続けて有名になれば父に再び会えると信じていた、哀れな男の子とよく似ている……。


《……――ヘ√ザ……――》


 ん?なんだ、またノイズが――


「超遠距離砲撃でその、ナノエレクト亀甲結界を破壊はしないのかしら?」


 テレイアの質問にコーヒーを一口飲んでからハッタは答える。


「結界ワイヤーには対ビームコーティングがされていて、例えメガビーム砲でも1万kmからの砲撃で、熱源がワイヤーに到達する頃には閃光が弱くなって破壊することが出来ないのです」


「なるほど、結局ワイヤーセンサー範囲内に侵入するしか亀甲結界は攻略出来ないのね!」


「いえいえ、そうとも言えませぬよテレイアさん」


「どういうこと?」


「同盟軍はナノエレクトワイヤー技術を入手することを諦め、敵に渡る可能性もあるなら全て破壊してしまおうと巨大な廃棄コロニーにスラスターを付けて衝突させることに決めました」


「え!?」


 テレイアが声を荒げて立ち上がる。


「流石にあの質量をビームライフルでは破壊しきれないでしょうね、あの娘はきっと最期までコロニーから出ずに亀甲結界と共に消滅して行くでしょう……」


「ハッタさん、その同盟軍の作戦は何時行われるの!?」


「……既に衝突用コロニーは発進されてます、恐らく明日の正午には作戦は完了しいる……という話を知人から聞きました」


 テレイアは直ぐに自分の軍帽を被りハッタに尋ねる。


「廃棄コロニー……亀甲結界がある位置を教えて頂戴!今すぐに!」


 どうやら廃コロニーのスナイパーをゆっくりと勧誘する猶予は無さそうであった。

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