018 ベスタとねんね

 ムジナ一家を壊滅させ、アルクトス第一コロニーへ戻ってから2週間が過ぎた――


(チャガマは廃工場地区で放り出される様に解放された)


 傭兵ギルドに一連のムジナ一家との戦いを説明をして、懸賞金を貰おうと思ったテレイア艦長であったが、最初は全く信じて貰えずに事務的にあしらわれるだけであったが……。


 ケレスが戦闘データと動画を保存していたので、それを提出するとギルドは数日の確認期間を取った後……正式に"虹の剣"がムジナ一家を壊滅させた事実を認めた。


 すると、一介の弱小傭兵団だった虹の剣はたちまちギルド内外で話題となり、ニュースにも取り上げられアルクトス政府や、テレラ惑星同盟政府から賞与授与の話まで来るようになった。


 だがテレイア団長は


「私達は何色にも限定されない、惑星同盟軍や帝国軍、そのどちらにも属した交流は持たないわ!」


 と言う理由で辞退した。


 しかし、アルクトス、テレラ惑星同盟、レベリオ帝国の3国から危険分子とされていたムジナ一家はこれら各国から懸賞金が懸けられていて、虹の剣は総額"130億senセン"の懸賞金を手に入れたのであった。


 莫大な資金を手に入れた傭兵団だがテレイア団長はに関して不満の声を上げていた。


「なんであんなに頑張ったのに傭兵ランクが"Dランク"止まりなのよ!?」


 地団駄じだんだを踏むテレイアにケレスが冷静な分析を説明する。


「お嬢様、やはり人数の問題があるのではないでしょうか……今の人数では"小隊"にもなってません」


「そうなの?ケレス、う~ん……やっぱあと2人はG・Sパイロットが欲しいわ!」


 と言うことなので、ネットや求人誌でフリーのG・Sパイロットを団員総出で探すことになった。


「ここまで来たらにしましょう!」


 団長のつるの一声で一気に採用条件が狭まってしまった……。


 数時間後――


 全員で色々なサイトや求人誌を探しても、やはり若い女性のG・Sパイロットなど一人も見つからなからない……。


 ほとんどが老年男性、しかも工事作業用G・Sや航路警備G・S希望のエントリーばかりだ。


 そんな中、テレイアはとあるゴシップ新聞の記事に興味を示していた。


「みんな!これを見て!」


 テレイアが指示したのは仕事斡旋あっせんのエントリー記事では無く、"元研究施設の廃棄コロニーに住み着くスナイパーの少女とは!?"と言うような、まるで都市伝説の様な見出しだ……。


「元々マッドサイエンティストの夫婦が研究施設として使っていたコロニー……しかし、その夫婦はコロニー外へ補給に行く途中で連合軍の誤射により死亡する……」


 テレイアが記事の内容を読み上げる。


「その夫婦には一人娘が居て、その娘は夫婦の死を聞き入れずにで4年もの間G・Sに乗って、コロニーへ近づくものを狙撃して守っている。」


「我々記者は危険を承知でそのコロニーへと小型船で近づくが、とても既存のレーダー範囲とは思えないような距離からスラスターを狙撃された!?」


「その後音声通信が入り、十代と思われる様な若い少女の声で"これ以上近づいたらブリッジを狙い撃つ"という言葉だけを残して音声を切った……我々は止む無く退避をしたが引き続き調査を進めていこうと思う。」


 レーダー範囲外からの狙撃手スナイプ……記事は胡散臭いが中々興味をそそられるな


 記事を一通り朗読し終えたテレイアがフフンと鼻息を荒げて答える。


「この子を捕まえてうち虹の剣のパイロットにするわよ!」


 そんな鶴ので我ら虹の剣は、その廃棄コロニーのあるテレラ惑星同盟領へと旅立つことになったのであった。


………………


…………


……


 母艦ピーターワンはアルクトスのコロニーであらかたの補給を済ませ、テレラ惑星同盟の本拠地、"惑星テレラ"への針路を進んでいる。


 高速の揚陸艦である母艦ピーターワンでも2日はかかる様だ。


 俺はブリッジで行われていた軍議ブリーフィングと言う名のオヤツ試食会に付き合わされた後(もちろんアンドロイドなので食べれない)、自身の充電をしようと格納庫へと向かった。


「アイリス~ちょっといいかのう?」


 充電コードを付けようとした時、格納庫にベスタがやって来た。


『どうしました?ベスタ』


 なんだかモジモジとしながら、ゆっくりと話かけてくるベスタ


「え~とじゃのう……あっ!、そろそろおぬしのシステムチェックや整備もしようと思ってのう、ほら整備士としてのう!」


『分かりました、ではお願いします。』


「端末を忘れてしまったのう……そうじゃわしの部屋でやらんかの?だ、ダメか?」


 なんだか不自然な振る舞いを見せるベスタ、俺はもしかしたら2人きりでしか話せない相談事でもあるのかもと、その誘いに乗る。


『はい、ではベスタの部屋に行きましょう』


 2人で母艦ピーターワンにあるベスタの個室へと向かった。


 ベスタの部屋は机に色々な工具や機材が散らかってはいるが、ベットには兎のぬいぐるみや流し台には化粧水などが置いてあって……なんだかとてもいい匂いのする、女の子の部屋であった。


 しまった……安請け合いだった。


 なんだか俺は初めて入る女の子の部屋にドキドキしてしまい、急に借りて来た猫みたいな緊張した状態になる。


「じゃ……じゃあシステムチェックするかのう」


 ベスタもなんだか余所余所しい態度で、気まずい雰囲気だ。


 うなじのプラグにコードを刺されシステムチェックを行われる俺、暫く沈黙が続いた後、後ろからベスタが呟く


「お主は、怖くは無いのかえ?G・Sで戦うことは……」


『……う~ん、私はアンドロイドで感情が無く、どこか"現実感"が無いのか……戦闘をゲーム感覚に捉えて恐怖心と言う感覚が欠如してるのかもしれません』


 俺はほぼ正直に答えた。


「そ、そうなのか……そういうもんなのかのう」


『ベスタは怖いのですか?』


 ベスタは暫しの沈黙の後、システムチェックを終えたのか、プラグのコードを抜き取るとゆっくりと語り始めた。


「そうじゃのう、わしは怖いんじゃ……だからこそ整備士をやって逃げているのかもしれぬ……わしはズルいのう」


 うな垂れるベスタに俺は


『そんなことありません!整備士はとても大切な人ですよ、それに……戦いが怖いのは普通なのです』


「そ、そうかのう?」


『戦いが苦手なベスタはなぜ傭兵団に入ったのですか?』


「わしは家族が祖母しか居なくてのう……そんな祖母も亡くなって孤独になってしまい、学校でもふさぎ込んでる時にずっと声をかけて仲良くしてくれたのがテレイアだったんじゃ……」


「だからそんな友が"追い詰められて"戦うしか無かった時に何か協力をしてあげたかったんじゃよ」


 "追い詰められて"か……何やら気になるワードが出たがここはそのことを掘り下げるよりもベスタの事柄を優先するべきだろう。


『ベスタは優しいのですね、無茶なG・Sの使い方をしちゃう私にとってもテレイアにとっても貴方は大切な存在ですよ』


「え、えへへ」


『だから、ベスタが怖い気持ちにならない様に、う~ん……貴方を守ります!』


「そ~こ~は~って言って欲しいのぉ~」


 ベスタに笑顔が戻る……俺もそんな彼女を見て笑顔になった。


 きっとベスタは戦闘という緊張状態の中、ブリッジで行動する他のクルーとは違い、たった一人で格納庫での待機状態による疎外感と不安で落ち込んでいたのだろう。


「アイリス」


『はい、ベスタ』


「ありがとうな!」


 ベスタにギュっと後ろから抱きしめられる。


 俺はドキッとはしたが、恋愛的なものよりも"親愛的"な温かさを感じた。


「さて、そろそろ寝るかのう!」


 そう言うと服を脱ぎ始め、下着姿になったベスタ


『あ!…………で、では、私は失礼します』


 立ち上がって部屋を出ようとした時、ベスタに片手をギュっと握られる。


「一緒に寝るのじゃ~」


『えぇ!?』


「ええじゃろ?じゃし、変なことせんわい!」


 俺は戸惑いながらも、ここで断って不安から立ち直りかけたベスタを傷付ける訳にも行かずに、言われるがまま一緒のベットに入った。


 狭いベットの中で横になる2人……ベスタの身体は子供の様な体系で胸も大きくないが、とても肌艶が良く、いい匂いがする。


 やばい、凄くドキドキする……このままだと"親愛"に"情欲"が勝ってしまう。


 ベスタは俺の胸の位置にある顔を見上げて、俺のことをジッと見て来た。


 眼鏡を取ったベスタの瞳はとても優しそうな細目で少し潤んでいる。


「こうやって誰かと寝てると思い出すのう……おばぁちゃん、そして"黒兎"と一緒に寝たことを」


『え!?』


 俺は意外な名前の登場に驚いた。


「知らんかったのか?わしの祖母が黒兎の開発スタッフの1人なんじゃよ」


 灯台下暗し、意外な所にヒントがあったのか


「祖母の研究所に泊った時に、黒兎のβベータデータをウサギ型のペットロボットに入れて一緒に寝てたのじゃ……どうやらその様子じゃとその時のメモリーは消されてしまったのかのう」


 黒兎、覚えているか?


《いえ……恐らくベスタの言う通り消去されたのかと思います》


 "戦闘AI"には無用ってことか……なんだか切ないな


《ζЧё……ザ――……ジー……》


 ん?なんだ? 一瞬変なノイズが頭に響いた様な


「今度は絶対メモリを消させぬからのう……だからずっと一緒にいるのじゃぞ……」


 そう言ったベスタは俺に抱き着いて、そのまま俺の胸を枕にする様にスヤスヤと眠りについた。


 戦闘AI黒兎、そして俺がこの世界に呼ばれた理由――


 小さいながらも1つのピースヒントを見つけた感じだ。


 そのことについてもう少し考えようとした時……急に俺の視界が暗くなって、身体から力が抜けていくのを感じる。


《電源不足によりになります》


 そうだ……充電をしようとして格納庫に向かったんだった――


 俺はゆっくりと眠る様に意識を失った。


 ………………


 …………


 ……


 ――ん?


「お~い、起きるのじゃ~!」


 どうやら数時間意識を失っていたが目覚めた。


「いや~すまぬすまぬ、充電が済んでなかったとは……整備士としてあるまじき失態じゃ~」


 うなじのプラグにはコードが付いてる、ベスタが充電してくれた様だ。


「しかし、お主には少し怒ったぞい!わしらに黙って勝手にそんなつけおってからに」


『え?』


 ベスタの視線の先を見ると……俺の股間が!?


『あ゛……』


 なんでおっ勃ってるんだ!朝勃ち機能!?そんなものまで再現するなあぁぁぁ!!!!


 俺は慌てて両手で抑えて俯く


『こ、これは……そのぅ……』


「まったく……これはお仕置きが必要じゃのう」


 ベスタは近づいてきて両手を俺の顔に近づけた。


 俺はビンタでもされると思って両目をつむる……と――


「ん……」


『ん!?』


 両手で頭を掴まれ、キスされた……


 口に……


 ……


「ふぅ……と言ったのに、してしまったのう……これで嘘のお相子じゃ!」


 そう言って口元に人差し指を置いてウインクをしたベスタは


「し、仕事に戻らぬとの……アイリス、またの~」


 と、パタパタと小走りで部屋から格納庫へと向かって行った。


『……………………』


 残された俺は暫く何が起きたのか理解できずボ~~とする。


 アンドロイドの回路の奥底で、今まで経験したことが無い、なんとしてでもここの仲間達を守りたいという気持ちが芽吹きつつあった。

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