008 ブレードグリップカウンター

 轟音と共に前方の道が爆破され、トラックは急ブレーキをかけて停車する。


 同時に3機のG・Sが現れ、トラックの後方と側面を囲み、さらに前方に破壊された道路の瓦礫を踏みしめながらもう1機のG・Sが現れてトラックは四方をG・Sに囲まれてしまった。


《敵機4……いえ、前方奥地に実弾ライフルを持ったG・Sが居ます》


 おいおい、コロニー内は実弾兵器禁止じゃなかったのか?


《他の4機も中距離ピストル装備、機体は惑星同盟で運用されていたG・S"ラスター2"と思われます》


 旧型機、こっちは1機のナイフ一本だが性能では圧倒してるな


【テレイア】「正面の敵機から光音声発信が来てるわ!そっちにも繋げるわね」


【ゲストA】「……繋がったか?おい!てめぇら死にたくなければその積荷を全部よこしやがれ!!!」


 分かりやすく"ヤクザA"という表示にしとくか


【テレイア】「あんた達ね!この辺で悪さを繰り返してる"ムジナファミリー"って!」


【ヤクザA】「だったら話が早ぇなお嬢ちゃん!積荷とトラックを置いて失せなよ!それともおじちゃんと遊んで欲しいか?げっへへへ」


【テレイア】「典型的な悪党め!我が傭兵団の養分となりなさい!ベスタ、ハッチを開いてホワイト・ポーンを起動!」


 トラックのハッチが開き、俺が乗るホワイト・ポーンが起き上がる。


《システムチェック完了、セーフティ解除開始、残り120秒です》


 やれやれ、テレイア艦長には起動してから啖呵たんかをきって時間稼ぎして欲しかったんだがな……まぁ仕方ない、俺が引き延ばすか。


【ヤクザA】「げっ!てめぇG・S持ちかよ!……だがこっちは機だ!たった一機に負けるかよ!」


 なるほど、ライフル持ちを隠した数値、こちらの"センサー有効範囲"を低く見積もってのブラフだな、しかし、確かに数の有利が向こうにある。


 正直俺一人なら問題無いだろうが、こっちは3人が乗ったトラックを守りながら戦わなきゃならない……最低でもライフル持ちは無効化させたいな


【ヤクザA】「どうした?向かって来ねぇのか!えぇ?ビビっちまったんじゃねぇのか!?オイオイ」


《セーフティ解除まで 残り90秒》


『はいビビりました、積荷を明け渡します!』


【ヤクザA】「え!?」


【テレイア】「え゛!?」


 俺は黒兎に指示して機体を動かすと、トラックの1両目のハッチをこじ開ける。


『積荷はあなた方が欲しがる貴重な"オリハルコン原石"です、コンテナ1つで300㎏、そちらに投げるので中身を確認してください』


 トラックに積み込まれたコンテナの一つを摘み上げると正面の敵機G・Sの足元に向かって投げ込む……前に


 黒兎、投げたコンテナの"重力加速度"を測定して教えてくれ……と言って投げた。


《了解 残り60秒》


【テレイア】「ちょっ……ちょっと!アイリス何やってるのよ!」


【ヤクザA】「へへっ、おたくのG・S乗りの嬢ちゃんは物分かりがいいなぁ!」


 正面の敵機が足元のコンテナ内部を確認する。


【ヤクザA】「確かに"オリハルコン原石"だ!おい、G・S乗りお嬢ちゃん!」


『はい、なんでしょうか?』


【ヤクザA】「降参するなら武装解除してG・Sの出力を止めるんだな!それで命は助けてやるぜ!、フッヘヘヘヘ」


《残り20秒》


『武装ですか?そちらと違ってナイフしか無いのですが』


【ヤクザA】「クッククク、こいつら生真面目に実弾兵器持ち込み禁止を守ってたのか!こいつは傑作だぜ、そりゃ降伏もするわなぁ!」


『ですよね~、武装解除の証としてそちらにナイフを渡します』


【テレイア】「アイリス貴方ッ!」


《残り10秒 8……7……》


 俺は自機の腰に帯剣されているナイフを取り出し、敵意が無い事を示す為、刀身の部分を逆手に持って両手を上げた。


《3……2……1》


《0、セーフティ解除》


『では、ナイフをそちらの足元に投げます…』


 俺の機体は振りかぶって前面敵機の斜め頭上方面にナイフをぶん投げた。


【ヤクザA】「おいおい、どこに遠投してんだ下手くそ!」


『あ、ごめんなさい……G・Sの操縦にまだものでして』


【ヤクザA】「ヒッヒヒヒ!とんだ傭兵団様だぜぇ!」



 ドン!



 喋っている敵機の遥か後方で爆発音が上がった。


【ヤクザA】「え!?」


【テレイア】「え!?」


 《敵機1、撃破を確認 見事な"投てき"です》


 爆発音で他の全員がそちらへ気がそれた瞬間――


 俺はアクセルとスラストレバーを素早く操作して、全面の敵機に向かってレスリングの様なタックルをかました。


 ガン!


【ヤクザA】「ぐえ゛!?」


 重心を崩した敵機の右手を掴みながら後方に回り込むと、そのまま羽交い絞めにして敵機を盾にする。


 他の3機が動きに気づいて機体をこちらに向ける、それと同時に俺は羽交い絞めにしている敵機の右腕の関節を反対方向に捻じり切ると持っていた中距離ピストルを奪った。


【ヤクザA】「なんだ!?何が起きたんだ!狙撃手はどうした!?オイ!」


 俺は直ぐにピストルを換装させると、今だ呆気に取られているトラックの両隣と後方に居る機体のコクピットへ向けて撃った。


 パン!パン!パン!


 ピストルを持ってから1.2秒、横に弧を描くような腕の動きで放たれた3発全てが、3機の胸部に大穴を開けたのであった。


《敵機3、撃破》


 俺は手に持ったピストルを放ると羽交い絞めにしている敵機の頭を掴んで"河津掛かわずがけ"の様に地面に叩きつけた。


 ゴゴオォォォォン!!!!


【ヤクザA】「うげっ!!……ザザザ……助け!……ザーーー…………」


 叩きつけられた敵機のスラスターや排気口からは黒い煙がモクモクと立ち込める。 


《敵機1、行動不能》


 黒兎、セーフティデータの復旧を


《了解、アイリス アメイジングでした》


【テレイア】「す……凄い!これが¨黒兎¨の戦闘……」


 俺は唖然としているテレイアにこう答えた。


『申し訳ございませんテレイア艦長、大切な積荷の1つを投げてしまいました』


【テレイア】「べ、別にいいわよ!最初の降伏は演技だったのね?びっくりしたわよ!」


『はい、どうしても狙撃手を倒しておきたかったので』


【テレイア】「私達を守る為にやったのね!……アイリス」


『はい、テレイア艦長』


【テレイア】「ありがとう!貴方は頼りになるわ!」


『……ありがとうございます』


 何時ぶりだろうか、こんな感謝の言葉と人に頼られたことは……


 俺は血の通っていないアンドロイドの身体の中で、何か"暖かい心地"になったのであった。

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