この歌にのせて

一ノ瀬 夜月

第一章 過去編

第1話 ざわめき

 (私は、ママと過ごした記憶ないの。パパに聞いた話だと、私が生まれた日に死んじゃったらしいから、写真でしか顔を見た事がないかも。


 それにパパも、お仕事が忙しいからって、ほとんど家に帰って来ないから、パパとの思い出もほとんどないの。


 

 だから、私にとって一番身近な存在は、おばあちゃんだと思うの。今日は、そんなおばあちゃんと一緒に、お出かけをしているよ!)



 「おばあちゃん、今日はどこに行くの?」



 「あれっ、まだ言ってなかったかねぇ?実は、おばあちゃんの遠縁の知り合いに、歌手をやっている子がいて、その子のライブを見に行くんだよ〜。楽しみだねぇ!」


 「ライブって、お歌を聞きにいくの?私、知らない歌を聞いても、楽しくないと思うの!


 だから、動物園とか遊園地に行こうよ。」



 「コラっ!まだ聞いてもいないのに、つまらないって決めつけちゃあいけないよ。


 それに、Mion《みおん》ちゃんは最近テレビでも見かけるから、歌純かすみも知っている曲があると思うよ。


 ほら、もう始まっているみたいだから、急ぐよ!」


  

 (うぅ〜、暑い中外でお歌を聞くだけなんて、大変だよ〜。)



 そんな歌純の思考は、Mionの歌を聞いた瞬間にり替えられた。

  

 彼女は観客全員の注意をきつけるような、鮮烈なハイトーンボイスを会場にとどろかせた。


 その歌声を聞いた瞬間、観客席からあふれんばかりの歓声が響き渡る。  


 曲のサビ部分が近づくにつれ、観客の期待値は跳ね上がる。いよいよサビに差し掛かると...

 

    「うおぉぉぉ!!!」


 観客の咆哮ほうこうにも似た歓声と、その声に負けないくらい、パワフルなMionの歌声がぶつかり合い、高め合う。


 (えっ?こんなに周りがざわついているのに、Mionの歌声だけ、ダイレクトに届いてくるの、すごい!)


 その時、会場中を見渡していたMionと目が合い、歌純は感じとった。


(今、Mionが笑っていたよね?


 もしかして、Mionはこの瞬間、全力で歌う事しか考えていないの?

 

 緊張とか、不安とか、そういうのも全部気にしないで、夢中になってて...すごく、うらやましいよ。)


 

 その後、約三時間にも及ぶライブが終わり、歌純と律子りつこは帰路についていた。


 「Mionちゃんのライブ、楽しかったねぇ。おばあちゃんも年甲斐としがいもなく大声を出して、盛り上がれたよ。


 歌純も、楽しそうだったしねぇ。」


 「あの...おばあちゃん、私も今日から家で、お歌の練習してもいい?」


 「あらっ、歌が好きになったの?それならおばあちゃんが、家でカラオケ出来る機械を買ってあげるよ。


 それを使って、好きなだけ歌っていいからねぇ。」


 「いいの?ありがとう、たくさん練習するね!」

 

       ◆◇◆◇◆

 

 時は流れ、歌純は中学最後の合唱コンクールに向けて、練習を重ねていた。


 

 「おはよう、歌純。今日も、合唱コンクールの練習、頑張っているみたいだねぇ。」


 

 「うん、今日も学校で朝練があるけど、その前に一回歌っておきたかったの。


 中学最後の合唱コンだから、最優秀賞目指そうって、クラスのみんなのやる気がすごいんだよね。


 もちろん、私も頑張っているけど、どちらかと言うと、引っ張ってもらっている感じかな。」



 「うんうん、歌純達は三年生だから、泣いても笑っても最後のチャンスになるよねぇ。結果がどうなるかはわからないけど、全力で頑張りなよ!」


 「そうだね。あっ、そろそろ時間だから,行ってくるね。」


 「いってらっしゃい、気をつけてね。」

 

   

       ◆◇◆◇◆


中学校の音楽室にて



      "パンパン"


 「全員集まったみたいだから、そろそろ始めようと思う。みんな準備は良いかな?」


 『はい!』


 「あの...弦司げんじさん、今日も素晴らしい演奏を期待してるっす。」


 「あたしも、弦司くんが演奏している曲を歌えるなんて、すごく光栄よ。」


 「よしてくれよ、僕達はクラスメイトじゃないか。みんなで一丸となって、最高の合唱を作り上げて行こう!」


 

 『おぉっ!』


 

 (やっぱり、弦司くんが仕切ると、一体感があるよね。 


 確か、ジュニアピアノコンクールで準優勝した事があるって聞いたし、みんなが恐縮するのも分かる気がするよ。


 でも、あくまで歌うのはみんなだから、全力で歌い切らないとね。)


     

      "♪〜♬〜"


 指揮者が合図を送ると、弦司がピアノを弾き始める。繊細で、それでいて鮮やかな音色が音楽室中に広がる。


 少し間を置いてから、クラスメイト達が歌い出す。



  『空高く〜 飛び立つ〜 鳥の様に〜


   なりたい〜』

 

 穏やかな高音をひびかせるソプラノ。ソプラノの影から現れ、存在感を放つアルト。その二つを土台から支える男性パート。


 (すごい、ちゃんと混ざり合って、一体感が出てるよ!入りは完璧だし、サビ部分もこのまま...)


 『自由を〜 求める〜 僕らはっ』


 

     "ジャ〜ンっ!"


 「伴奏を止めてしまって、ごめんね。気になる点があるから、歌純さん、来てくれるかな?みんなは引き続き、練習を続けておいて欲しい。」


 『分かった!』


 (私、何か悪い事したの?心当たりが無いよ。とりあえず、話を聞いてみないとね。)


       ◆◇◆◇◆



音楽室前の廊下にて


 「ここなら人通りも少ないし、ちょうど良いかな。」


       "ハァッ"


 「要約して伝えると、今度の合唱コンで歌うの、辞めてくれない?」


 

                  続く




 






  





 


 


 


 


 









 



 

 



 

 

 

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