9ENDS(ナインエンズ)  ~コンビニエンスストアから始まる、九つの物語~

柿月籠野(カキヅキコモノ)

始まり

始まり

 ぱらぽらぴろりん。

 聞き慣れた、呑気のんきな入店音がして、ガラスの自動扉が開く。

 ほ、あったかい。

 秋も深まったこの日、駅から十分ほど歩いた体には、コンビニエンスストアの暖房がありがたい。

「らっしゃあせー」

 入店音を聞き、反射的に出たような声。

 レジに人はいないから、声の主は、どこかで品出しでもしているのだろう。

 疲れた日の帰りには、こうしてコンビニに寄るのが私の習慣である。

 頑張った自分へのご褒美ほうび。今日は、何にしようかなあ。

 やっぱり、甘い物かな。

 無人のレジの前を通り過ぎて、白くライトアップされたスイーツコーナーへ向かう。

「らっしゃせー」

 やっぱり、いた。

 眩しいくらいのオレンジ色の制服は、よく目立つ。

 隣のスナックコーナーで、青いプラスチックの箱の脇にしゃがみ、ポテトチップスを陳列ちんれつしているのは、いつもの彼だ。

 綺麗きれいな顔立ちに、明らかに、美容院びよういんへ行くのが面倒です、と言っている髪型。

 顔なじみの彼に会釈えしゃくし、きらきら光るスイーツを物色ぶっしょくする。

 この時期は、美味しい新作が沢山出る。

 今日きょうは、何があるかな。

 お、なめらかチーズケーキがある。

 でも、いつもの濃厚プリンもいいし。

 ぶとうのゼリータルトも美味しそう。

 あ。

 見つけちゃった。

 ほっくり栗のモンブラン。

 すごく人気で、日によって、あったり無かったりなんだよね。

 これに決まり。

 綺麗きれいな栗色のまきまきクリームにうきうきしながら、ドーム型のプラスチックパッケージを手に取る。

 買い物は多くないし、カゴは使わないのだ。

 あとは、飲み物。

 ぐにカップドリンクのコーナーへ向かい、また物色。

 お気に入りの、抹茶まっちゃラテ?

 でも、ラッシーも飲みたい気分。

 王道のカフェモカもいいし……。

 うーん、やっぱり、抹茶ラテ!

 そして――。

 寒い時のおやつといったら、あれ。肉まんでしょ。

 それを、あったかいうちに、はふはふしながら食べるの。最高。

 私が歩き出すと、彼が小走りでレジに入る。

 常連として、買い物のパターンを覚えられているのかもしれない。

「らっしゃっせー」

 言いつつ彼は、カウンターに置いたモンブランと抹茶ラテのバーコードを、手際よくスキャンしていく。

「ええと……チーズカレーまん、ひとつください」

 たぶん彼は、私がよくホットスナックを購入することも知っているだろうが、会計を確定されてしまう前に、急いで言う。

 急いだからか、ぱっと目に入った、肉まんより二十円高い、チーズカレーまんにしてしまった。

 でも、ご褒美だからいいのだ。

「チーズカレーまん、おひとつですねー」

 台本を読むかのようにスムーズに言った彼が、トングを取って、ホットスナックのショーケースを開け、ターメリック色のチーズカレーまんを紙袋に入れてくれる。

「以上でよろしかったでしょうか」

 彼が、紙袋の口を、コンビニのロゴ入りのテープでめながら言う。

「はい」

 私がそう言うと、彼はまた、すらすらと喋り出す。

「では三点で、六一三ろっぴゃくじゅうさん円になります」

 五百円、だいぶ超えちゃったな。

 でも、ご褒美だからいいのだ。

CASHICAカシカで」

「CASHICAですねー」

 彼が、レジのキーボードをカタカタッと叩くと、カウンターに置いてあるカードリーダーのタッチ面が、エメラルド色に光る。

「ではタッチお願いしますありがとうございます」

 言われる前にカードをタッチしていたので、彼の声と、ぺりょん、という決済完了音が、渋滞を起こす。

「袋はいかがいたしますかー」

「あっ、大丈夫……じゃない、お願いしますっ」

 自前のトートバッグは、昨日の雨で濡れてしまったので、家で乾燥中なのであった。

「かしこまりましたー」

 言いつつ彼は、モンブランと抹茶ラテとチーズカレーまんを、冷たいものと温かいもので分けて、白いビニール袋に入れている。

「こちら商品ですこちらレシートですありゃしたー」

「ありがとうございます」

 私は、彼の手に触れないよう注意しながら、二つの袋とレシートを受け取り、また会釈をして、店を出る。

 あ……。

 雨……。

 朝から曇ってはいたが、今日もるとは思わなかったから、かさは持っていない。

 おでこにぽつぽつと当たる冷たい感覚は、まだ小さいが――。

 どうしよう。




 A コンビニの軒下のきしたで、雨がむのを待つ


 B 走って帰る


 C もう一度店に入って、傘を買って帰る



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 もちろん、そのまま通して読み進めていただいても構いません。

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