第一章 白銀の狼と逃亡者
第一話「地下牢から始める異世界生活」
気づくと俺は地下牢のような場所に横たわっていた。暗いしカビ臭いし、地面は硬い。
お世辞にも過ごしやすいところではない。
「いてて」
うつ伏せに倒れていたおかげで鼻やら肋骨(ろっこつ)の辺りが痛い。
口の中にイガイガとした感覚があるので結構な時間、気絶したまま横になっていたようだ。
周りを見渡すと石造りの床にはいくつもの白骨が転がっている。壁掛けの松明の火は青白く、天井は非常に高くがらんどうとしている。空間全体が居るものの不安を掻き立てるものだった。
俺は体を起こして深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けようとするが自分の現状を理解出来ない混乱から、心臓は早鐘(はやがね)のように鳴り、頭に血がドクドクと周るのを感じる。
このあまりにもリアル過ぎる感覚。絶対に夢ではない。ここがどこかも分からないが、さきほどの神との邂逅(かいこう)も夢ではないのではないか......。
そうだ、もしあれが夢でないのならば、神様を自称するあの老人に要求したチート能力の1つであるステータスを見るためのスキル"能力透視"が使えるのではないか。
(俺は自分の能力が見たい。俺は自分の能力が見たい。俺は自分の能力が見たい。俺は自分の能力が見たい。)
俺がそう念じていると頭の中にステータスを表すボードが浮かび上がってきた。
ー能力透視ー
ーーーーーーーーーー
名前 :クロダ
性別 :男
種族 :人間 [普人族(ふじんぞく)]
レベル:1
HP:25
MP:4,000
STR(ちから):8
VIT(みのまもり):7
AGI(すばやさ):6
DEX(きようさ):5
INT(かしこさ):12
CHA(みりょく):350,000
-パッシブスキル-
超速再生
痛覚遮断
成長加速
MP自動回復
言語理解
身体強化
-アクティブスキル-
スキルポイント:15
ーーーーーーーーーー
やはり、先程のあれは……夢ではなかったようだ。
〜〜〜〜
あれから30分ほど。
「気持ちを切り替えよう。」
そう切り替えよう。ここがどこだがわからないが自分はとてつもない幸運に恵まれたのだ。
なろう小説であるようなテンプレな神との 邂逅(かいこう)を果たしテンプレなチートを 貰(もら)い、テンプレの異世界転移を起こした。
後は俺がテンプレなろう小説よろしくチートな活躍をして可愛い女の子たちとハーレムを築き上げればミッションコンプリート。
よし。気持ちの整理がついてきた。落ち着いたところで再度ステータスをチェックしてみよう。
よしよし。概ねお願い通りの能力設定だ。パッシブスキルは仕様要求通りの能力が揃っている。
それにスキルポイントはおまけでいきなり15ポイントもある状態でスタート。
CHA(みりょく)の数値だけバグっているのは「ブッとんだイケメンにして」という俺の要望を反映してのことだろう。
これだけ魅力値があるってことはこれは大変だぞ。
道行く女たちは俺を一眼見ただけでもう俺に夢中だ。一声かければ即ベットイン。
出会って5秒でってAVを地で行くような人生を歩める。
「うふふ、ゲヘヘヘ」
嬉しくて思わず涎(よだれ)が出てしまう。
「ふひひ、だははははっ......っほげ!!!」
俺がそんなスケベな妄想を爆走させてひとしきり笑っていると、突如として出現した、牛の頭を持つ異形のモンスターが俺を意識の底から引き戻した。振りかざしたその金棒がに容赦なく炸裂し、あっという間に俺を空中へと放り投げてしまった。
ー超速再生ー
ー痛覚遮断ー
弾き飛ばされた勢いで何度も壁や床をバウンドしてしまう。その衝撃で体中の骨という骨がバラバラになって軟体生物にようになった俺だが、パッシブスキルがその効果を発揮しおかげですぐに痛みもなく崩壊した身体が回復していく。
ー能力透視ー
ーーーーーーーーーー
名前 :なし
性別 :オス
種族 :牛頭鬼(ミノタウロス)
レベル:45
HP:2750
MP:4
-パッシブスキル-
獲物探索
-アクティブスキル-
憤怒撃鉄
ーーーーーーーーーー
これはゲームなら負けイベント確定じゃないか。
俺が死んだと勘違いして鼻息荒くのっしのっしと重々しく去っていくミノタウロスを横目に見ながらそんなことを考える。
痛覚遮断のパッシブスキルがなければ痛みのあまり発狂していたな。
俺は牛鬼(ミノタウロス)が確実に遠くに行ったのを確認してからサッと身を起こし、余っているスキルポイントを振り分け、地下牢の廊下に転がっている白骨死体の兵士の持っていた錆(さ)びた剣を手にした。
-アクティブスキル-
剣術Lev3
さてこのLev3の剣術スキルでどの程度戦えるのかはわからないが、兎に角こんなところさっさとおさらばしよう。
俺は今起こったことに対する恐怖から震える気持ちを無理やり誤魔化して、おっかなびっくり地下空間の中、歩みを進めた。
〜〜〜〜
「オラッ!!」
俺が振るった剣はゴブリンの首を綺麗に撥(は)ねる。
何度もこの地下牢に巣食う小鬼(ゴブリン)を切り捨てたせいで、元から刃こぼれの酷かった剣は血と脂でべっとりとしていて切れ味はお世辞にも良いとは言えない。
だが“剣術スキル”の力のおかげで難なく敵を切り裂ける。子鬼の頚椎(けいつい)を砕く独特な感覚が剣の持ち手を通して伝わってくる気持ち悪さから時たま胃から酸っぱいものが逆流しそうになるが、特に肉体的な疲れを感じることもない。(精神的にはかなり疲れたが)
この世界に転移してから、半日ほど経っただろうか。
俺はこの地下牢ダンジョンの階層を少しずつではあるが上がって来ていた。
始めはどんなモンスターが出てくるのか怯えながら進んでいた。
しかし、“超速再生“と”痛覚遮断”のおかげでどんな攻撃を受けても平気であること、あのミノタウロスほどの敵はいないこと、何より剣術スキルで大概の敵が屠(ほふ)れることが分かり、少しだけ気持ちを落ち着かせてこのダンジョン内を脱出する道筋を探すことが出来るようになっていた。
ちなみに、今の俺のスキルのこんなものだ。
ーーーーーーーーーー
名前 :クロダ
性別 :男
種族 :人間 [普人族(ふじんぞく)]
レベル:12
HP:72
MP:6,500
-パッシブスキル-
超速再生
痛覚遮断
成長加速
MP自動回復
言語理解
身体強化
-アクティブスキル-
剣術Lev.4
火魔法Lev.1
ーーーーーーーーーー
成長加速のパッシブスキルのおかげであろうか。異様にレベルが上がるのが早いように思う。
今のレベルのステータスとスキルを活かせば……。
例えばちょうど目の間にいるゴブリンとオークの混成部隊、ざっと20匹ほど。
数時間ほど前であれば2~3度は腕を捥(も)がれ肩を脱臼して、とボロボロになりながら何とかギリギリ勝利することが出来る、というレベルだった。
「火球(ファイアボール)よ」
俺がそう詠唱するとバレーボールほどの火の玉が手の平から発射される。
火球は勢いよく地下牢の壁にぶつかると大きな音と光を撒(ま)き散らしながら爆(は)ぜた。
呆気にとられるゴブリンとオークたち。
奴らの目が逸れた隙に、俺は"身体強化"スキルを活かして垂直な石壁を蹴ると、軽やかに宙を舞いながらもう2~3個火球をモンスターの集団に投げ込んだ。
燃え盛る火炎に混乱する敵のただ中に入り込み、モンスターたちの間を縫(ぬ)うように駆け抜けながら剣を振るう。俺の剣は竜巻が田畑を薙ぎ払うかのようにモンスターたちを容易く破砕(はさい)していった。
そうして5分と経たぬうちに壊滅したモンスターたちの血溜まりの中、俺のレベルはまた一つ上がっていた。血と灰が混じり合った独特の鉄臭さが空気中に充満し、俺の身体のすべての感覚を犯してくるように思えた。
「ウヘェ。気持ち悪い」
返り血でベタベタになった体や剣を止む無くオークの身につけていた腰布で拭う。とんでもなく不潔そうだが、今は気にしては負けだ。
そうして体を拭(ぬぐ)っていると、遠くの方から複数の人の声がすることに気が付いた。
この地下ダンジョンを冒険している人間だろうか。もしかするとここから脱出する道筋を教えて貰えるかも知れない!兎に角(とにかく)行ってみよう。
俺はそう考えると、暗い地下牢の中を声のする方にヨロヨロと足を進めた。
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