第15話
「興味ないか?」
「いえ、とても興味深いですわ。ぜひ紹介してください」
「とりあえず試しに一晩泊まってみるといい。よし、今から行こう」
天使が案内したフラットはお化け屋敷のようだった。青黒い蔦が静脈のように外壁を覆っている。廊下の床板は腐っていて、歩くとギーギーと鳴く。窓ガラスは蜘蛛の巣状にヒビが入っている。公爵邸の馬小屋のほうがずっと住みやすそうだ。
(ひるんではいられないわ。だって、ほら、実際に住んでいる人がいるじゃないの)
サラたちの横を通って、階段を上がっていく男。釣り竿と魚が入ったバケツをぶら下げている。生臭い匂いがぷんと鼻をついた。
「今のは三階に住んでる住人だよ。無口で物静かだから幽霊だとでも思ってくれていい。空いてるのは二階だ。ガイの知り合いだから特別に一泊でも許してやるけど、本当は週払いの先払いだよ」
だみ声がチャーミングな小柄な老爺。大家さんである。唇をまげて横目で人を見る態度が身に沁みついているようすだ。
「ガイ……?」
それが天使の本名なのか、通称なのかはわからないが。『天使』や『便利屋』よりは人前で呼びやすい。
「……それでいいよ」
天使はぽそりと呟く。ガイと呼ぶことを天使は許可したのだ。サラはそう理解した。
「ガイね、ガイ……ふふ。私のことはサラと呼んでちょうだいね」
ガイはふんと鼻息を吐くと、大家に家賃の確認をしてくれた。予想していたよりもはるかに安い。二階の部屋を見てみた。二部屋のうち、空いているのはひとつだけとのことで、覗いてみると、物置部屋のように狭い。埃っぽいベッドが1つ。壁の隙間から蔦が内装を侵食している。見方によっては観葉植物と言えそうだ。
格安ホテルの十分の一の価格だ、文句を言ってはいられない。
「週払いで100ジェニー、日払いで16ジェニーでしたね。わかりました。とりあえず今夜一晩の分として、先払いで16ジェニーを支払いますね」
サラが小銭を数えていると、大家は首を振った。
「違うよ。32ジェニーだ」
「あら、どうして? あ、もしかして一人当たり16ジェニーなのかしら」
ガイと一緒に泊まると勘違いされたのだろうか。ボッと頬が火照る。
(親子ほど年の差があるのに、ちょっと恥かしいわね。ガイのほうがもっと困っているんじゃないかしら)
そっとガイの様子をうかがうと、眉を寄せて険しい顔をしている。サラは苦笑した。
「泊まるのは私一人だけですの」
「何人泊まろうと部屋代は変わらないよ。だがペットがいるだろ。うちはペットがいるときは割増料金になるんだよ」
大家はサラの背後にいたダチョウを顎で示した。
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