数十年の昔、“春沢P”には婚約者がいた。新居を用意し、3ヶ月後に結婚式を挙げる。そこまで決まっていながら、婚約者は唐突に電話することを拒絶したのだ。そして彼女は彼を拒み続ける。だというのに結婚自体は行うつもりらしく……理不尽ばかりを突きつけられる状況の中で彼は悩み、ついに彼女との婚約を破棄することを決意した!
春沢Pさんは婚約者に向き合うことすら拒絶され、その心情がわからなくて悩みます。だからこそ思い知らされるのですよ。人は恋人に愛情があるからこそ「さまざまなこと」を経なければ思い切れないものなのだと。そうした過程が積まれる中で現在の著者さんによる推察や推論が語られて、一層考えさせられてしまうのです。結婚というものの価値や意義、そこに関わる人の有り様というものを。
まったくもって明るいお話ではありませんが、ここにはなによりリアルな男女の関係性とそれを巡るドラマがあります。未婚の方は備えとして、既婚の方は戒めとしてご一読ください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)