第4話 同居は延期になった
「電話をしないでほしい」という要望に同意した覚えはないが、とても気楽に電話できる空気ではなくなったので、その後こちらから電話をしなくなった。
当然ではあるが、向こうからも電話はこない。
――この状況で向こうから婚約破棄されたら、引越しの費用と家賃の何か月かは補償してもらえるかもしれない――
と、経済的な心配はあまりしなかったが、だからといってありがたい話でもない。
数日して実家から電話が来た。母親が向こうの母親の話を伝えてきたが、それによると、「結婚式の前に同居させると、花嫁が世帯じみてしまうから、同居は式の後にしてほしい」とのこと。
10月に同居するつもりで家を探し、引っ越したというのに、一週間で花嫁が怒り出し、電話もするなという話になった。
続いて、向こうの親も含めた正式な話として、挙式まで同居しませんよという話になった。
「電話しないで」と言われたのはかなり意外だったが、その後こうなるのは意外性が何もなかった。それにしても「花嫁が世帯じみてしまう」はすごい理由だ。式前に妊娠すると困る、の言い換えにしても感心しない。
多分だが、向こうの母親が彼女氏に「同居はいつからするのか?」「同居したくない」というやりとりがあって、それに対して母親が「花嫁が世帯じみてしまう」という理由を思いついてこちらに伝えて来たようだ。
披露宴で新郎新婦が仲悪そうにしていたら、そっちが問題だろう。だとしたら、「同居したくない」という娘の意思と向き合って、なぜかを聞いてみるのが先ではなかったのか。
こちらから「早く同居してほしい」と要求するのもどうかと思うので、不承不承受け入れるしかなかった。受け入れないと向こうの言い分が「同居は式後」から「婚約解消」にクラスチェンジするかもしれない。
ついでに、「ウエディングエステをさせたいがどうか」とも聞かれたとという。
世帯じみた花嫁は嫌で、エステをさせたい。花嫁を美しく飾りたいのは分かった。
だけど、今の互いに連絡がとれない状態はどうか。まずは新郎と新婦が普通に話ができるようにするのが優先ではないのか?
この話については、「そんなことはしなくていい」と答えた。
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