第3話 魔王軍の実力者達

「案外お前達が食べるものは我々と変わらんものなのだな」

「ゲテモノばかり食べているとでも思ってたのかな?」


勇者カリアとゼッドの決闘が行われたその日の夜、カリアは魔王軍と食事を共にする事になった。いくら強かろうが空腹というものがある、そこも人間や魔の者に変わりは無かった。

王族が使用するのではないかと思われる煌びやかな内装の広い食堂、大きなシャンデリアが眩く見える。

魔の者は光が苦手だと誰かが言って噂になったりもしたがそれは嘘だろう、その証拠に彼らは煌びやかな部屋に平然と食事をしているのだから。


決闘を見ていた多くの魔物達の姿は無い、此処に居るのは魔王であるシュウ。参謀であるミナ。招待されたカリア。そして魔王軍選りすぐりの精鋭の面々。

カリアと先程まで決闘を行っていたゼッドの姿もある、彼も精鋭の一人だ。



そんな彼らの前、テーブルに並べられているのはパンにスープ、ステーキといった人間の食事でも馴染みの物ばかり。カリアは意外だった、魔物達は人間とは別の、人間には馴染みの無い物を口にしているのかと思っていた。

「敵であっても良い物は良い、否定する必要が全く無い。僕としては人間の食べ物は非常に好みだ」

そう言ってシュウはパンを口にする。魔王も普通にこうして食事をする、世間からすればこれが魔王とは見られないだろう。どう見ても食事する子供、少年だ。


彼らは人間と敵対関係ではある、だが全部を否定してはいない。人間の食事を取り入れておりエネルギーとしている。

その中でもゼッドは特に食欲旺盛であり多めの肉を次々と平らげていた。



カリアは食事前にそれぞれの精鋭たちの紹介をシュウからされている、改めてこの場に言う面々を見てみる。

ゼッドは先程まで共に戦った魔王軍随一のパワーを誇る竜人の戦士。竜の軍団を束ねる長だ。その巨体から繰り出される斧の一撃を喰らえば大抵の相手はひとたまりも無いだろう。


そのゼッドの対面の席に座り食事する長身の鳥人族、バルバという男で飛行軍団の長だ。カリアは決闘に集中して知らないだろうがバルバは上空から二人の決闘を誰よりも高い場所から見ていた。

魔王軍の中でも機動力に優れており電撃作戦に関して彼の右に出る者はいない。



奥の方の席で暗い雰囲気を纏う、シュウと同年代を思わせる少年。彼は石人形、更にアンデッドを束ねる長で名はクレイ。多くの魔王軍の中でも石人形やアンデッドを作り出し魂を宿させ操れるのは彼ぐらいであり同じ魔王軍からも彼の団は不死身の軍団と恐れられている。


クレイの対面に座る妖艶な女性、世の男を虜にしそうな魅力を持つ女魔族のサキュバス。名はマリアン、彼女は魔道兵団を束ねる長であり滅多に戦場に出ないが魔力はシュウにも匹敵する程に強大であり多くの魔法を使いこなす。



魔王軍でそれぞれの軍団を率いる長達。いずれも個性的な実力者揃い。

カリアがもしあのまま手を切らずに魔王軍と戦い続けていたらいずれは彼らと戦場で相対していたかもしれない。

それが今こうして共に食事をしている。勇者が魔王軍と食事、世間からすれば大問題は間違い無いだろう。


「それで魔王様ぁ?そこの勇者ちゃんは私たちと共に魔王軍で人間と戦うって事でいいのかしら?」

赤ワインに満ちたワイングラスを掲げながらマリアンはそのグラス越しからカリアの姿を見ていた。

「……断っておくが私は人間を滅ぼそうとは考えていない、真の平和を目指して剣を振るう。それだけの事だ」

マリアンの言葉に対して答えたのはカリアの方だった。魔王軍を滅ぼす事が平和へと繋がると考えていたが国からの裏切り、シュウの考えによってそれは変わった。人間と魔の者が共存出来る世界。それこそが真の平和なのであればカリアはその為に剣を握り戦う。

「あくまで平和を目指して戦う勇者ちゃんに変わりはないと、そういう訳ねぇ」

それだけ言うとマリアンは赤ワインをくいっと飲み干す。


「まさか本当に勇者が魔王軍に来るとはなぁ、人間がこれを知ったらひっくり返りそうだぜ」

愉快そうに笑った後にバルバはパンへと齧り付く。人間側に勇者カリアが魔王軍の側についたという事実はまだ知らない、まだ勇者は魔王軍と勇敢に戦っている。それが人々が描く勇者の姿だろう。実際は国から裏切りを受けて手を切って魔王軍と戦う事を辞めているが。

「とりあえず長であるキミ達に反対は無い、そう考えて構わないかな?」

シュウのグラスには果実のジュース。素材の甘味が感じられ、彼はこの飲み物を気に入っている。果実ジュースを一口飲んだ後にシュウは長達へと改めて問う。カリアがこの魔王軍に加わる事は賛成かと。



「俺は賛成です、実力も保証します」

カリアと直に戦ったゼッドは賛成、剣を交えたからこそ分かる。真の平和の為に戦うというカリアの言葉に嘘は無い、それがあの剣の一撃の重みに繋がっているのだろうと。

「旦那が認める程の奴だ、反対は無ぇな」

ゼッドの見る目にかなりの信頼を置いているのかゼッドが認めるのならば自分も認めるとバルバも賛成する。


「同じ女性か可愛い子が増えるのは歓迎するわ♪」

理由がゼッドやバルバと異なる面はあるがマリアンも賛成という事らしい。


「クレイ、キミはどうかな?」

シュウは先程から一言も発していないクレイへと視線を向けて彼へと問いかけた。この問いかけにクレイは視線をシュウの方へと向ける。

「……反対は無いです…」

短く静かに答えた後にシュウと同じ果実のジュースに満たされたグラスを持ってジュースをクレイは飲む。彼もどうやらカリアが共に戦う事は賛成のようだ。


反応が様々ながらカリアは4人の魔王軍の長達に認められた。





「…さて、勇者が加わりその勢いに乗って…という訳じゃないが明日の朝には当初の予定通りプージ王国を攻め落とす」

食事が終わりシュウはその場の者達に明日の予定について伝える。プージ王国とは今シュウ達魔王軍が留まって拠点としている城から最も近い場所にある国でヴァント王国と同じように騎士団を抱えている。攻めればその騎士団が出迎える事は間違い無いと見ていいだろう。

「プージ王国はヴァント王国と強い親交があり、此処を放置すれば後々団結して面倒な事になります。なので今の内に徹底して此処を叩くのが効率的で良いと判断します」

参謀のミナは資料を見ながらプージ王国の概要を説明し、ヴァント王国との親交と団結を考え今の内に攻め落とす。それが最善の策であると。

「なら、私も出るとしよう」

その時カリアが今回のプージ王国との戦い、その戦場に出ると自ら名乗り出た。


「……貴女、本当に戦える?同じ人間相手に」

あまり喋らないクレイが此処で発言、魔王と同盟を結ぶと自ら進んで言っていたがいざ同じ人間と戦うとなると戦場で本当に戦えるのか。カリアに対してクレイはその目をじっと見て問いかけている。

「なんだ、心配してくれているのか?」

「……………」

カリアがクレイへと言葉を返すとクレイは視線を逸した。言葉少なめながら彼なりの心配かもしれないと思うとカリアは笑みが出て来る。



「だったら僕も行くとするか」

「!?」

シュウの発言にカリア以外のその場の者全員が驚き、一斉にシュウへと視線が注がれた。

「お言葉ですが魔王様、プージ王国程度にわざわざ魔王様自らが出陣するまでもないと考えます!この俺の軍団であっという間に制圧してみせます!」

「大将は後ろでドンと構えてもらった方が良いぜ魔王様!」

ゼッド、バルバがそれぞれ発言。シュウが出るまでもない相手、自分達で充分だと止めようとしていた。



「なあに、同盟を結んだ勇者の初陣だ。見逃す手はないと思うけどね?」

「お前も物好きな魔王だな、戦場はそんな呑気な場所じゃない。気をつけろ…は天下の魔王には余計だったか?」

「気持ちは受け取っておくよ」

カリアとシュウ、二人がプージ王国での戦いに出陣、それがカリアの魔王軍と同盟を結んでからの初陣となる。更に魔王自らも戦いに出る。



勇者と魔王が共に戦うとどうなるか、少なくともこの時点でプージ王国の命運は決まったも同然かもしれない…。

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