さみしいおじさん

サルスベリの花を見に行った帰り道、信号待ちをしているバスに追い付いた。マフラーからはしたなく液を垂らし、側方に熱気を吐き出していた。アイスを買った後でなくとも気が萎えてしまいそうな熱を物ともせず車内の様子を観察する。おばあさんがぼんやりと優先席に座り、学生達はスマホをいじっている。さらに視線を動かすと、おじさんがこちらを見ている。じろじろじろじろ。こちらも負けじとじろじろ。目をとじろ。お前がとじろ。窓一枚隔てても伝わる思いなんてものはたぶんない。


誰もいない方向に向かって手を十秒くらい振ってみる。ほとんどの人は気にしない。おじさんは見る。振り返ってでも見る。


水族館の水槽のガラスに魚が近づいて来る時、誰かがコツコツとガラスを叩く場合大抵それはおじさんである。一番熱心に反応をせがむのもおじさんである。


彼らを見かけて、ああはなりたくないと思わない日はないが、ああはならないと思う日もない。ああ。

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