浪費家の貯金箱

呪わしい皺の色

彼女は栞★★★

 心を本のように開いてみると、一葉の栞が迷い込んでくる。彼女は平たく横たわって、明け方すっと寝床を抜ける。二度と戻らないこともあるし、平坦な声でただいまを告げることもある。都合上全てのページと知り合いにはなれないが、彼女のバスト=ウエスト=ヒップは瞬く間に周知される。彼女は本来自由の身なので、気紛れに姿を眩ませることも容易い。14ページ6行9文字目にて終身刑に処されている「栞」の字とは大違いだ。

 しかし、彼女の願いは最後まで叶わなかった。文脈を共有する、地に足をつける、軽薄なページ達と同じ不自由を享受するという願いのことだ。身体のどこにも刺青ノンブルはない。落丁や乱丁といった問題はいつも他人事。

「私が自由なのはあなたが自足しているから」

 これが栞の口癖。恨み言。僕お気に入りの空耳。

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