第222話
『盛り上がったところで、参加選手に登場してもらいましょう。まずはぽっちゃり男子チームの皆さんです。どうぞ』
ウタコさんがチーム名を読み上げ、選手たちがステージに上がっていく。
逆に演奏を終えた俺たちは、しばらく控室で待機することになる。
「私たちいい感じに演奏できていたよね?」
「うん。いい感じだったと思う」
「サイコロ、ブジンの演出はやっぱり凄かったね。私一瞬目を奪われそうになったよ」
「うん。何度も見ても、ハートの吹雪は感動しちゃう」
リハーサルは数度もやっていたけど、いつもと勝手の違うステージ(本番)を終えたみんなのテンションはかなり高い。
でも分かるよ。俺自身も幻想的な空間で歌いきった達成感ときたら……言葉ではなんて表現したらいいのか分からないけど、嬉しさでいまだに胸の高鳴りを感じているよ。念能力(リラクセーション)ですぐに落ち着くんだけど……この感覚がたまらなく好きなんだよね。いや、いつの間にか好きになっていた、かな。
『グルメ番組で活躍されているぽっちゃり男子のみなさんがサイコロバトル参加しようとしたきっかけは何かあるんですか?』
『カッコいいからでござる』
『サイコロしか勝たんですぞ』
『優勝はオイラたちんご』
『負ける気がしないんだが』
『いい事言ってると思うけど、君たちいっぺんに話さないでくれよ』
ウタコさんとシャイニングボーイズがぽっちゃり男子から一言もらっている姿をステージ近くに設けられた控室のモニター越しに見る。
このステージ、液晶モニターに覆われているけど、拡大されるのはサイコロのみで参加者は普通に見えるんだ。
そうでないと玩具サイズのサイコロが巨大ロボットのように映るから、それが人のサイズだと、とんでもない大きさで……足くらいしか映らないかも。
ウタコさんに紹介されたぽっちゃり男子がかるく右手を挙げてからリハーサル通りに並んでいく姿を眺めていると、
「遅い! 僕をいつまで待たせる。司会進行くらいちゃんとやれっつーの」
「カズヤ様、皆さまの前です、言動にはご留意いただきたく存じます」
「はあ? なんで僕があでで……ギブ、ギブッ。ぉ、おいリン子! 僕に逆らう、いでで、腕を捻り上げなっ、おい、お前らは見てないで僕を助けろ」
騒いでいる沢風くんを発見。周りにいるのは誰だ? 保護官っぽい人が4人にマネージャーっぽい人、それに……ボディービルダー並みに筋肉のすごい女性がいるけど、あの人、筋肉すごいな。
周りの迷惑を顧みず悪態をついていた沢風くんが、1人の保護官? から腕を捻り上げられ諌められている珍しい光景を見てしまった。
「すごいの見たね」
「見た」
「あの保護官すごい」
「ないす」
さおりたちも俺と同じように驚いていたけど……ちょっと、ななこさんや。親指は立てない方がいいと思うよ。
「どうやら彼の妻が戻ってきたようだね」
「?」
彼らの様子を窺っていると、不意に背後から声をかけられたので振り向けば、そこにはスーツ姿のマリさん(南野マネージャー)が笑顔を向けていた。
「マリさん。おはようございます」
そんなマリさんは、いつものように俺の首元や胸元に視線を向けてくるので少し首を傾げてみせる。
これはたぶん俺が受け取ったペンダントの事を気にしているからだと思うんだよね。
現に首元からチェーンが見えるとホッとしたような顔をするからね。
俺は女性から贈られたモノはなるべく身につけるようにしてるけど、このペンダントもそう。
それに、このペンダントを身につけてから南条グループ関係者から無視(男性は無視される)されるような事はなくなり、仕事もやり易くなったから感謝しているんだよね。
でも、何度もお礼を伝えたところで気を使わせてしまうだけだから、気づかないフリをするんだ。
「ふふ。タケトきゅ……こほん。タケトくんおはよう。君たちの演奏は観せてもらったよ。ほんと素晴らしいわ」
さおりたちとも挨拶を交わしたマリさんはシャイニングボーイズの後輩にあたるプリンススターを送り出した後(ステージに)俺たちに気づいて声をかけてくれたらしいが、沢風くんの事もよく知っていた。
今彼の周りにいるのは奥さんたちで、子どもを生んで現場に復帰したらしい。
筋肉質の女性とだけが最近結婚したばかりでまだ子どもだそうだ。
沢風くんは所属する芸能事務所とはうまくいっておらず、孤立していたところを元マネージャーの奥さんが色々と話をつけたらしいことも聞いた。
このサイコロバトル大会への参加もその奥さんが上手く話をまとめたらしい。なかなかのやり手だそうだ。
それほどの情報を持っていてもマリさんは終始、沢風くんにはまったく興味がなさそうな顔(無表情)をしていた。
「あーうるせぇ、うるせぇ。リン子あんまり調子に」
「カズヤ様」
「あでででっ!? だ、だからすぐに僕の腕を捻るなってぃでで……ギブ、ギブッ!」
そんな騒がしい沢風くんのチームもウタコさんに呼ばれた後、選手ではない数人を残して、ステージに上がって行った。
しかし、あのチームはなんだ。
「チッ」
たしか男心具だったけ? すぐに呼ばれてステージの方に上がって行ったから気のせいだと思いたいけど、あのチームは初対面なのに、遠くから俺の事を睨んでくるんだよ。俺の勘違いならいいんだけど、変に絡まれても嫌だから近づかないようにしている。
『では大会ルールの方を説明しますね』
ウタコさんが大会ルールの説明を始めたので、もう少ししたら1回戦も始まるだろう。
1回戦はぽっちゃり男子チーム対テレビ女性アナウンサーチーム。
サイコロバトルは1対1の個人戦が4回と4対4のチーム戦が1回の合計5戦する。
チームとしては先に3勝した方が勝ち上がるが試合は必ず5戦あるんだ。
それは勝敗(先に3勝)によって参加できなくなる参加者を出さないためだそうだ。
それでも、勝敗が決して意味のない試合になってはやる気もでないだろうからと、個人の勝ち数を別にカウントするようにして、チームの勝敗とは別に個人の勝ち数に応じて(最高でも6勝、最低では0勝)参加景品が異なるように準備されているらしい。
ちなみに優勝チームにはサイコロS・ビクトリーファースト(非売品サイコロ4体)+賞金。
準優勝チームがサイコロS・アサルトセカンド(非売品4体)+賞金。
参加賞(個人別)はサイコロカスタムパーツ+賞金。賞金は勝ち数で違う。
そして俺たちの応援歌は4対4のチーム戦の時にのみ歌うことになっているんだ。
このサイコロバトル会場にはサイコロ体験コーナーやグッズ商品の販売コーナー、フードコートなんかがあり、ステージを映す巨大モニターがあちこちある。
参加選手は選手用の観戦席が設けられているが、自分たちのチームの出番さえ忘れなければ自由に過ごしていい。だからなのか、
「タケトきゅ……んん。タケトくん、ほ、ほら。みんなも飲みながら観戦でもしようではないか」
仕事でどこかに行ったマリさん。てっきりプリンススターと対戦前のミーティングでもするのかと思っていたら、みんなの分の缶ジュースを持ってきて俺の隣に座り、
「「「「どもです。失礼します」」」
その後に、ステージから戻ってきたプリンススターの皆さんは、俺と目が合うと軽く頭を下げてからマリさんの後ろの席に静かに座っていた。
「んん?」
プリンススターの皆さんだよね?
——「俺はプリンススターの赤星。こっちは白星と黒星と金星。悪いなお前たちの居場所俺が奪っちまうわ」
——「だな。もうデカい顔はさせねぇよ」
——「南野のマネージャーから少し気に入られてるからっていい気になるな」
——「どうせお前も男だからってチヤホヤされてる口だろ。でも俺たちは違うからな実力でここにいる」
リハーサルの時に、たまたま居合わせたマリさんたち。その時にプリンススターである彼らと話した時と、印象がぜんぜん違うんだけど?
キラキラオーラもどこか影がある感じだし、実はシャイニングボーイズのみなさんと違って物静かな人たちだったのかな。
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