第195話 沢風和也視点
「ふざけるんじゃねぇ!」
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「はぁ、はぁ、はぁ……」
怒りに任せて自分が思うままに暴れ回れば、自宅にある仕事部屋が酷い有様になってた。
ババアマネージャーもいつの間にかいない。それは別にどうでもいいが、
「あ゛あ゛ぁ!?……ぼ、僕の一八(イチハチ)がぁぁ……」
サイコロ・一八(イチハチ)の頭部や手脚が折れたり外れていたりと、見るも無残な姿で転がっていた。
「イチハチ……」
転がっているサイコロのパーツを力無く拾い上げていると、
「沢風様」
いなくなっていたはずのババアマネージャーが戻ってきた。今さら……いや、これはちょうどいい。
「ババア仕事だ。これ(壊れたサイコロ)をメーカーに送りつけて、新しいのと交換してもらえ。いいか、絶対だぞ。絶対に新しいモノと替えてもらえ。あと、部屋の片付けもしとけよ、わかったか」
むしゃくしゃしていたので、僕はそれだけ言うと施設『ハッスル』に向かう、いや、向かおうとした。
「んあ? 誰だお前」
部屋の出入り口を塞ぐように見知らぬ女が立っている。スーツ姿の女が3人。顔は僕の好みだが邪魔された感があって、なんかムカつくな。そうだ、別にこいつらでもいいじゃないか。
「僕の邪魔をしたお前たち。今から僕の部屋に来い」
「いえ。それには及びません」
「ああん? なんだお前。この僕の誘いを断るのか! お前僕を誰だと思っている」
「はい、沢風和也様ですよね。よく存じておりますよ。失礼、わたくしマーズアテレビの代表を務めております東野輝美と申します」
「マーズアテレビだあ? ふん、聞いたことないが、そのマーズアテレビが僕になんの用だ。
僕は今から用事があって忙しいんだよ。っていうか、話があるならそれなりのモノを準備しているんだろうな?」
「はて? それなりのモノとは何でしょうか種竹優様。わたくしに教えてくださらないかしら」
「なっ!?」
にこにこと笑みを浮かべているその女が、僕の耳元まで顔を近づけたかと思えば、
「今はお金ですかね?」
小声でそう呟いてくる。
正直、収入は減っているが、以前と変わらない生活を続けている僕の懐事情は厳しい。
マンガやアニメ、ゲームに服や靴、特に食べ物には妥協したくないからしょうがない。
「チッ、お前……何が目的だ」
「ふふ。目的もなにもお仕事の話かしら。一応お伝えしておきますが、ウチは低俗なヒーワイテレビと違いアズマテレビの子会社で健全な番組制作会社ですよ。ただ扱っている番組は成人向けの番組になりますが」
「ほう」
知らなかったが、成人向けの番組もあったらしい。
それにアズマテレビの子会社ならば東条グループ関連の会社ってことか。ということは今の事務所とも繋がりがあるから、ヒーワイテレビの時と違って堂々と仕事を受けることができるってことか……悪くないな。
「種竹優様。どうでしょう。ウチの番組に出てみませんか? もちろん報酬は弾みます。あ、さすがに身バレはイメージダウンに繋がりますので画像処理させていただきますよ。まあ、これ以上イメージが下がることもないでしょうから意味なんてないんですがね」
「おい! 何ぶつぶつ言ってる」
「失礼。ウチの番組に出演していただければ報酬は弾みますと申したのですがすみません。
それに、沢風様と分からないように画像処理もキチンとさせていただきます。どうでしょう?」
「ふん……まあ、いいだろう。しょうがないから受けてやるよ。で、いつからだ」
「すぐにでも、と言いたいところですが今日はご挨拶だけのつもりでしたので、改めてご連絡させていただきます」
ペコリと頭を下げるスーツの女。
「あっそ。じゃあ、あとはババアと話しといてくれ。ババア、あとはよろしく」
すぐすぐの話ではないと分かった僕の意識はすでに施設『ハッスル』に向けられていた。
あとはババアだ。くくく。ハッスルの番組なのに打ち合わせはババアに丸投げ。ヒーワイテレビではできなかったが、マーズアテレビならできる。こういうのがいいんだよ。
まだ何か言いたげのスーツ女を無視して僕は足取り軽く施設『ハッスル』に向かうのだった。
「沢風様っ! はあ。もういない。なんなんですかアイツ。腹立つわ。
と、こ、ろ、で、東条明日香様、彼のマネージャーをいつまで続けるおつもりですか?」
部屋の片付けをしていた彼のマネージャーの肩にぽんっと触れたのはマーズアテレビの東野輝美。
触れられた瞬間、中年女性から若い女性へと姿を変える沢風和也のババアと呼ばれていたマネージャー。
「あら気づいていました? あはは。そろそろ潮時かなぁとは思っていたのよね。
あーあ、彼の性格が少しでも丸くなればと思ったけど彼はダメね。東条家にはふさわしくない。
麗香ちゃん(いとこ)の判断は間違ってなかったってことね。それでアレは手配できそうかしら?」
「東条家でも散々話し合っていたでしょうに、自分の目で確認しないと納得しないのですから」
「そういう性分なのですから、別にいいでしょう。それでアレは?」
「いえ。それがまだ。しばらくは無念導具に頼るしかありませんね」
「そうですか。もういっそのこと、これが今流行りのタトゥーだと言って、無念石の粉末を……」
「明日香様、それはやめましょう、普通に犯罪ですからね。っていうか殺意、殺意すごいですよ。抑えてください」
「ちっ」
「ちっ、て、かなり荒んでいますね。まあ、彼とは先ほど少し話した程度ですけど、わたくしには必要のない方だとすぐに思いましたものね。
仕事でも、2人では絶対に会いたくない方ですわ。
今回の話も、麗香様の元婚約者というだけで彼のために作ったようなものです。お金のない彼を放っておくと何をするか分かりませんからね」
「そう言う話でしたわね。こればかりは麗香ちゃんに新しい婚約者ができるまではしょうがないのでしょうね」
「ええ。他家に付け入る隙を与えてはいけませんものね」
次の日、ババアマネージャーが、後任となるババアマネージャーを突然連れてきた。
「ババアなんていらん。チェンジだ」
「チェンジはありませんので」
新しいババアマネージャーも前のババアと同じような態度だったのでチェンジしてやろうしたが、他に代わりがいないときた。
「チッ」
もっと若いマネージャーを連れて来いよ。かなりムカついたので、昨日の片付けの続きをやらせていたら、サイキックスポーツ協会からお断りのメールが来て、片付いていた部屋をもう一度散らかしていたら、
「あ゛あ゛ぁ……」
壊れていなかったVRゴーグルを踏んで壊してしまい、そっちまでメーカーに送ることになるのだった。
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