第180話
「あれ? ミカリンは?」
さおりたちと話をしていたネネさんが俺に尋ねてくる。
「ミカリン?」
「そうそう。私の後輩でもあるのよ、ミカリンは」
そうか、香織とネネさんが同級生だから新山先生がネネさんの後輩であってもおかしくなかったね。
おっと、花音ちゃん本格的に寝てしまったな……
「香織とあっちに。先輩後輩だから積もる話でもあるのかなと思ったけどネネさんもだったね……ってごめんネネさん。花音ちゃんぐっすり寝ちゃってるからベッドに連れて行くよ」
「あ、うん。パパっちありがとうね」
——パパっちって、なんですか……
「パパ」
「パパだって」
「パパなんだ」
「パパちゃん」
さおりたちもパパという言葉に反応してうれしそうな顔をしない。
まあ、ネネさん気分で俺の呼び方をコロコロ変えるから気にしてはダメなんだよ。
さて、俺は今のうちに眠ってしまった花音ちゃんをベッドまで連れて行こうかな。あ、ミルさん。ミルさんもついて来てくれるなら助かるよ。
「お、ミカリンが戻ってきた。やっほー」
リビングを出る時にはネネさんのそんな声が聞こえてきたから、すぐに戻ってきたのだろう。
————
——
〈新山先生視点〉
野原先輩はいつも優しくてカッコいい憧れの先輩だ。
その憧れは今でも続いていて、勤め先の学校では野原先輩をイメージして教壇に立っているくらいだ。
うまくやれているのかしばしば不安になることもあるが、そうでない時の私は真面目だけが取り柄の地味な女でしかない。
「今日は無理にお邪魔する形になってすみません……」
最初で最後のチャンスだと思っている私は、正直に自分の気持ちを打ち明けると、
「……ミカはもっと自分に自信を持っていいと思うわ。応援するから頑張りなさい」
そんな優しい言葉をもらった。あーこの感じ。なんだか涙が出そう。
野原先輩はたまに私の心が読めるのかと思うくらい、その時に欲しい言葉をくれる。
「……はい。頑張ります」
反対されることも考えていたから気分がかなり軽くなった。野原先輩が応援してくれるなら百人力です。
なんだか上手く行きそうな気がしてきました。頑張れ私。
「……///」
リビングに戻ろうか、と優しく声をかけてくれた野原先輩のお腹にふいに目がいき、いつか私も……なんて考えてしまうと顔が一瞬で火照る。
これはまずいと思い慌てて両手をバタバタさせて火照った顔を扇ぐ。
「ミカは意外とむっつりさんでしょ」
がーん。いやいやそんなわけないです。ただちょっと私もタケトくんとそんな関係になれたらいいな……なんて考えはしましたけどむっつりさんではないですよ。
「そんなことはないかと思いますよ」
すぐに否定したけど、にこにこ笑顔の野原先輩。これは信じてませんね。
「ミカは意外と顔に出てるから……あ、でもタケトくんには積極的に行った方がいいかもよ。勘違いじゃないです、あなたのことが好きなんですってくらいにね」
それはなんとなく分かります。タケトくん、ぜんぜん気づいてくれてないようですから。
「頑張ります」
そんなアドバイスをもらいながらリビングに戻ると、
「お、ミカリンが戻ってきた。やっほー」
明るく声をかけてきたのは松川先輩。
「ま、松川先輩……お久しぶりです」
今さらながら気づく、松川先輩もいたのだと。松川先輩はちょっと苦手意識があったのですが……お互い学生の頃とは違います。今ならたぶん大丈夫なはずです。
「ミカリンは婚活休暇かな? ミカリンもやるね〜。大丈夫、私は着いて行けないけど、歓迎するからガンガン攻めたらいいと思うよ」
そうでした。松川先輩も野原先輩のように心を読まれているかのように的確な言葉をくれるのでした。
ですが、もう少し周りを気にして発言してほしいのですよ……
「え、あ……はい。ありがとうございます」
「やっぱりそうだったんですね」
「分かってた」
「だね」
「うん。新山先生分かりやすいから」
ネネさんのそんな言葉に、さおり、ななこ、さちこ、つくねが納得したように頷く。
教え子にまで私の気持ちがバレてしまった。しかもその教え子たちはタケトくんの婚約者でもあります。
うまくいけばいいけど、うまくいかなかったときのことを考えれば、知られるには早すぎます。松川先輩のおバカさん……
「え、あ……ま、松川先輩。お腹ちょっと触らせてください」
とは思っても言えないので、誤魔化すように、松川先輩のお腹に触れようとしたら、武装女子のマネージャーをしている中山さんから両手をとられて握手されていました。
「ミカさん、頑張りましょうね」
なぜと思いましたが、すぐに悟りました。彼女も同士なのだと……
————
——
——おや?
俺が花音ちゃんをベッドに寝かせて戻って来た時には中山さんと新山先生が握手している時だった。何があったのだろう?
なぜ握手しているのか分からなかったが2人が仲良くして悪いことはない。さすが新山先生だね。
それからすぐに10人乗りの車で出発したが、お留守番をするネネさんは少し寂しそうだった。
「私も仲間に入れて〜」
「あはは……ネネさん。もうかけてきたよ」
夜になればネネさんの実家から母親が来てくれることになっているらしいけど、車を走らせてすぐにMAINアプリのビデオ無料通話をしてくるなんて、寂しかったのだろうね。
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