第165話
「はーい、次はお待ちかね武装女子のみなさんだよ♡」
「「「やった〜」」」
『きゃー』
「し、か、も〜。今日歌ってもらう歌は新曲なんだって〜」
「「「聞きた〜い」」」
『聞きた〜い』
「そうだよね。わたしも聞きたいよ〜」
マサカ社のアイドルグループジュニアリーのゆうが司会進行を楽しそうに務め、同じグループメンバーのあい、みい、しぃたちが会場を盛り上げている。
今日は『ふぉーいあーず』みなさんの地元で開催されている『桜咲いたら春祭り』の2日目のイベント『歌桜祭(うたおうさい)』に参加している俺たち武装女子。
今はステージに上がり観客に向かって手を振っている。
『きゃー』
『今のわたしに向かって手を振ってくれたよね』
『何言ってるの、わたしよ、わたし』
『わたしだって』
野外ステージだけどすごい人。前の人たち後ろの人たちからぐいぐい押されているみたいけど大丈夫かなって普通に立ってるね。あれは念体(身体強化)を使っているのかな。
『タケトく〜ん! こっち向いて〜』
この『桜咲いたら春祭り』はオオマル市が毎年開催する恒例行事。場所は桜が綺麗だと有名なオオマル文化公園で2日間にわたって開催されているらしい。
そこにマサカ社のアイドルたちは毎年のようにお呼ばれしている。
それは以前よりも知名度が高まり多忙な毎日を送っているらしい『ふぉーいあーず』みなさんも出演する。知名度が低い時からお世話になっていたから少しでも恩返しがしたいんだって。
今日はそこに俺たち武装女子も特別ゲストとしてお呼ばれしている。
正確にはジャニュアリーのゆうたちから声かけられたんだけど……もちろん、運営さんからの許可ももらっている。
なぜの隣の県なのに参加を決めたかというと、実はゆうたち、ウチの高校を受験したかったらしいけど受験者が多すぎて受けることすらできなかったらしいのだ。
それでゆうたちが酷く落ち込んでいたのをMAINのやり取りをして知っていた俺は、このイベントに誘われた時に少しでも元気になってもらえればという思いから参加をすることに決めた。
ちなみにウチの高校、今年は受験者数が多すぎて試験会場を見合いパーティーで使ったどこかの会場に移したらしいのだ。
ただ、去年までの試験期間中は学校が休みだったのに対して、今年は普通に授業があったから残念としか思えなかったんだよね。ここまで大変なことになっていたとは……
他にもちょうど、お邪魔する予定だったネッチューバーの3組『つまみ食いチャンネル』のつみちゃんさん、『食べ盛りチャンネル』のさかたさん、『うまいもんチャンネル』のうーちんさんとの屋台の食べ歩き企画もあったから都合もよかったんだ。
それは昨日(祭りの1日目)、無事に撮り終わったんだけどね。
あ、つみちゃんさんと、さかたさんと、うーちんさんが手を振っている。俺も手を振り返せば……
『きゃー』
黄色い声が上がった。これはやばい。落ち着いてきていた観客のみんなが再び沸いた。
お花見でお酒が入っている人もいるからちょっとしたことで盛り上かってしまうのだろう。司会進行のゆうたちに心の中で謝っていたら、ん? 上着を脱いで振り回していた人を運営さんたちがどこかに連れていったね。酔っ払いは大変だ
。
「はいは〜い。みなさん静かにしてないとせっかくの新曲がちゃんと聞こえないよ〜」
ゆうのその一言で騒ついていた観客たちがすぐ静かになった。やるね。そんな『ふおーいあーず』も新曲を歌っていたんだ。48人で歌って踊るから見ているこっちも楽しかったんだよね。俺たちが盛り下げないようにここは頑張らないとな。
「みなさんありがとうございます。それじゃあ準備もできたようですので早速歌ってもらいましょう〜♪ 武装女子の新曲で『春〜来い濃い恋』。どうぞ!」
新曲の『春〜来い濃い恋』はななこの作った曲だ。
ちょっとおふざけの入った曲名だけど歌詞や曲はとても良く、男性に恋をして春がきた女性をイメージしている、らしい。
聞く人によっては春に男性と出会いそこから恋が始まった女性の曲にも捉えることができる曲でもある。
いつも淡々としていて感情をあまり表に出さないななこにしては意外なほど乙女チックな曲。初めてこの曲を聴いた時には顔だけじゃなく耳や首あたりまで真っ赤になっていて可愛いかったっけ。でも、そんな顔を見られたくなかったのか、顔をうずめるように抱きつかれてしばらく離れてくれなかったけど……
——みんないくよ。
みんなに視線を向けて合図を送るとみんなが少し頷きすぐに演奏が始まった。
♪〜
春のように優しく包み込む曲。この曲は恋する女性の曲だけに、いつも以上に声色を優しく心がけて気持ちを込めて歌うんだ。
「あなたと出会い〜」
♪〜
「ふぅ……」
歌い終わるといつものように静寂に包まれる……これはいつものこと。いつもの……
あれ、失敗した?
いつもなら時間差で拍手をもらえるのだが、今日はそれがまだない。
それどころか、その誰もが両手で顔を覆うように押さえながら俯いているから何かあったのではないかと心配になる……
——リラクセーションはいつものように上空に飛ばしたから大丈夫なはずだけど……
『タケトくん』
ん?
聞き取りづらいがたしかに俺の名前が聴こえた。1人じゃなく複数人からだ。不思議に思った次の瞬間、観客が顔を上げて俺の方を見つめてくるが……なぜか上げた人、みんな顔が赤い。
驚くと共に心配になりヒーリングをかけようかと思ったが、次々と顔を上げていく観客たち、みんな顔が赤いではないか。
——こ、これは……
俺の知らない病気を疑う。覚悟を決めた俺は全体的にヒーリングをかけてしまおうとしたところで……
『きゃー』
『タケトくーん♡』
『ツクちゃんかわいい〜』
『きゃー』
『タケトくん好き。カッコいい♡』
『サリちゃんきれい〜』
『タケトくーん大好き。抱いて〜♡』
『きゃー』
『ナコちゃんこっち向いて』
『タケトくんステキー♡』
『きゃー』
『チコちゃんすき〜』
会場から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。ただ、その勢いに前の人たちが後ろの人たちから押されて……大丈夫そうだけどいつか怪我をしそうで怖い。
「わたしもタケトくんに恋してるんだよ〜じゃなくて、みなさんおさないで〜後ろの人押したらダメですよ〜」
ゆうまで変なことを口走っていたことからピンときた。たぶん、ななこの作った曲(歌詞)を聴きながら、みんなが恋する相手を俺に置き換えて聞いてしまった。だから俺に恋をしたと勘違いしたのだ。
それでみんなは照れたように顔を真っ赤にしていたってわけだ。ってこれは初めてライブで歌ったけど、身近に男性のいない女性にとってはちょっと危険な歌になりそう(俺が)。
すぐにリラクセーションをかけて、落ち着かせたからよかったけど、俺に恋したと勘違いさせるのはまずいからあまり歌えないかも。いい曲なんだけどね。チラリとななこを見れば親指立ててるし。どうしよう。ほんとどうしよう。ネネさんの会社でアルバム作ってもらうことになっていたけどやめた方がいいのかな……
2曲目は時間の都合で『ふおーいあーず』やマサカ社のアイドルのみなさんと『マサカのサンバ』を一緒に歌いみんなにハイタッチをしてからステージを降りた。お祭りは大盛り上がりで運営さんからも感謝された。
俺もイベントが終わった後だけど、誰も使っていないステージに上がりサイキックスポーツの宣伝とサイキック健康体操第一をさせてもらえたから感謝しかない。
しかも、マサカ社のアイドルの子やオオマル市のみんなもサイキック健康体操を一緒になってしてくれるし、本当ありがたかったよ。
今回のステージもマサカ社のチャンネルで配信されるらしいことを中山さんから聞いたけど、今回こそ好意で出演した形だから報酬はない……はずだったのに、なぜか結構な報酬が振り込まれたことを後から中山さんから聞いた。
いいのかな。ゆうたちに確認したら、ういんういんだから大丈夫らしいよ、となんか軽い感じ。気になるならまたゲスト出演してと言うのでいいよ(了解)と送っておいたら『ふおーいあーず』のみんなの集合写真つきで待ってますと返事がきた。みんなの衣装が水着だったから夏ってことかな?
お邪魔したネッチューバーさんたちのアップした動画も再生数が伸びてくれて急上昇していたのでひとまず安心かな……
なんだかんだで忙しい毎日を送っていたら春休みはあっという間に終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます