第162話

「ぱぱ、いたっ♪」


 あはは……


 サイキック健康体操の放送を見ながら嬉しそうにひょこひよこ踊る花音ちゃん(ネネさんの子ども)を見て思わず笑みがこぼれる。


 香織とネネさんもそんな可愛らしい花音ちゃんの姿に釘付け……と思ったらテレビの方をちらちら。


「た、タケトくん。そ、その……」

「タケっち……タケっちはスタイルがいいから……あはは……」


 どうも、テレビに映る俺の姿がとても色っぽく見えるらしく、ついつい目がいっちゃうとかなんとか……


 ネネさんはタケトっちとかタケトくんとかタケト〜とか気分で呼び方を変えるけどタケっちは初めて。これは、かなりテンパっているってことだよな。


 はぁ、なんてことだ。Tシャツに短パン、タイツ姿がそんなに色っぽいだなんて、体操をする格好としては普通(前世の感覚)だと思っていたのに……


 さすがにミルさんは撮影現場にもいたし鍛錬の時にも動きやすい格好をしているから……あれ、今ガン見してた? いや気のせいか、曲にあわせて一緒に健康体操をしているだけか……


 あはは……


 でも健康体操をしているはずなのにミルさんの動きが異常なほどキレッキレだから別の体操をしているように見えちゃうよ。


 ん? ちょっとまって。ということは、共演した中央体育大学のお姉さんたちやピアノ演奏さん、それに体操指導者さんやカメラさんにディレクターさんが俺の方を見てうれしそうにしながらも顔を真っ赤にしていたのは、男性に慣れていないからではなく、Tシャツ短パン、タイツ姿が原因だった? 


 で、でも、テレビで見てても自分ではおかしいとは思わないし、俺からすればレオタード姿のお姉さんたちの方が……あ、見ている人は女性の方が多いから? はぁ……まあいいや。

 朝6時からの放送で時間は15分。教育や健康に関する番組が放送されているこのチャンネルは視聴率も低いと聞いている、ってそんな考えではダメだろ俺。少しでもサイキックスポーツに興味を持ってもらわないといけないんだ。


 早速、ツブヤイターで、毎朝6時から放送している『サイキック体操で今日も元気』に出演することになりました。今日からやってます。よかったらみんなも見てね。健康体操で毎日健康だよっと……


 おおっ、朝早いのにみんなの反応が速い。これはうれしいな。


 この投稿がキッカケに朝のサイキック健康体操はネッチューバーたちがやってみた動画をアップし人気の体操となっていくのだがこの時の俺はまだ知らない。


 しかし、あの日も、色々と忙しくなった俺の事を考えて、中山さんが番組収録とスポーツ雑誌のインタビューを同じスタジオ内でできるように調整してくれたんだよね。

 中山さんはお役に立ててうれしいと言ってくれるが、かなり無理をさせてしまったのだと思う。

 まあ年度内に経費を使いたいからって急遽番組の収録をお願いしてきた協会関係者の方が1番悪いんだけど、ちょっとしたことでいっぱいいっぱいになるのはよくない。もう少し考えて行動しないと……


 香織とネネさんからも無理はしないでってかなり心配させてしまったからね……


 この世界の既婚者(女性)の常識では男性の収入を当てにしていないから、香織とネネさんとミルさんもそんな感じだ。


 だから俺が渡す生活費だって受け取りはするものの貯蓄の方に回しているっぽいんだ。

 正直俺が無理をしてまで働かなくてもって思ってたりしているかも……


「パパ、いなくなった」


「終わっちゃたわね」


「タケトっち、健康体操は毎日あるのよね?」


 それでも、香織もネネさんも俺がテレビに映ると喜んでくれるんだけどね。


「日曜日はないですよ。あ、でも今日放送されたのは俺の挨拶があったけど、次回(明日)からはそんな挨拶はないですよ」


「いいのいいの。花音。パパ明日もテレビに出るんだって、よかったね」


「うん♪」


 花音ちゃんの頭を撫でるネネさん。そうそうネネさんが無事に妊娠していることが分かった。すごくよろこんでいたけど、ちょっと不満そうな顔も。安定期に入った香織がうれしそうな顔でネネさんの肩を叩き、ミルさんが後のことはお任せください、というような話をした時点で何の話しているのか察した俺はすぐに逃げた。


「お、俺ランニングしてくる。ミルさん先に行ってますよ」


 ランニングはいつものこと。ミルさんもすぐに追いついてくるから問題な……


「タケト様、本日はどちらのコースで」


 ミルさん速っ!? もう隣を走っていたよ。さて今日はなんとなく人通りの少ない河川敷を走りたい気分。


「河川敷コースかな」


 ミルさんとのランニングははっきり言ってキツイ。というのもミルさんは毎日、ほんの僅かだけどペースを上げていっている。なぜ気づいたかというと、自宅に帰り着く時間が少しずつ速くなっていたから……時間を見たのは偶然だったけど走り始めた当初よりもかなり速くなっている。


 ん? あの人は……スケボー先輩? 手を振られたので俺も振り返す。


「ミルさん、ちょっと寄り道してもいいですか?」


 朝の河川敷で何をしているのか気になった俺はスケボー先輩の方へ寄り道。

 正直、スケボー先輩から好かれているとは思っていなかったから手を振られたことが余計に気になったのだ。


 そう思ってしまったのは先日、先輩たちの卒業式を終えた後のことだ。

 最後だからと在校生代表として俺は先輩たちに小さな花束を手渡し、ひとり1人ハグをして送り出した(ハグは一之宮先輩たちからお願いされた)。


 時間の都合で1人(希望者だけどほぼ全員)2、3秒くらいだったけど、挨拶のハグとしては十分。でも先輩たちは違った。最後だから1人30秒はして欲しかったのだと……


 時間もなかったしその場は、いつでも遊びに来てください、って反射的に言っちゃったんだよね……今さらながら少し不安になっている。


 で、その時スケボー先輩には花束は手渡したけどハグはしていない。挨拶もどちらかというとそっけなかった。そんな経緯でそう思っていたんだ。


「ご、ごめんっ! 君のランニングの邪魔をするつもりはなかったんだ」


 俺がスケボー先輩の方に近づくと驚いた顔をした後にすぐに謝られてしまった。


「えっと、いや、気にしないでください。俺が気になっただけですから」


 スケボー先輩の手にはスケボーがある。もしかしたら何か新しい技に挑戦しているのではないかとも思ったわけだ。


「……えっと、君に手を振ったのはたいした用事じゃなくて、ただ僕は君にお礼を言いたかったというか、なんと言うか……あはは、まさかこっちに来てくれるとは思わなくて、突然こんなこと言われても意味がわからないよね」


 ——俺にお礼? スケボー先輩が?


「そう、ですね」




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