第123話
「お前今笑っただろ!」
「ふん! 憐れだと思ってさ」
フリートークが始まったが女性が一人も来てきない男とそれを見て鼻で笑ったらしい男が揉め事を起こしている。
遅れて入ってきた時から悪びれる様子は一切なく、逆に不機嫌そうな顔をしながら入って来る男性が多かったから、悪い予感したんだけど……
「あの人、ネネさんと同じテーブルに座っていた人だよね」
「そのようね。でも自業自得じゃない。アイツ、女性を見下していて話すらまともにしていなかったわよ。他に男性がいなければ別だけど、ここには他にも男性がいる。わざわざそんな男のところに行く物好きな女性はいないわ」
そりゃそうか。しかし、ただでさえ進行が遅れているのに揉め事はやめてほしいな。
これで中止にってことにはならないと思うけど、念力が使えない会場内で身体の大きな(太った)男性を止めるのはちょっと骨が折れるんじゃないだろうか……
——あっ!?
「てめぇ!」
しばらく罵り合っていた男たち。次の瞬間、女性が一人もいない男の方が勢いよく立ち上がると、重そうな身体を揺らしながら駆け出した。
「合万(ごうまん)様!」
すぐに彼の保護官が立ち上がり……えっ!? すごい速さで駆け寄り背後からいとも簡単にねじ伏せた。
「いててっ、お前、離せっ!」
「いいえ。問題行動は起こさないとの約束ですので」
「うるせえっ! アイツが俺をってか、お前クビだ、クビっ! 俺に歯向かう保護官なんてクビだって離せコラッ!」
「いいえ……っ」
激しく暴れる男性を平然としていた様子で押さえ込んでい保護官だが、
あれ?
その様子がおかしくなったのはその数10秒ほど経ってから。平然としていた保護官が苦痛で顔を歪めたのだ。息も荒くなりかなり辛そう。
「離せって言ってるだろがっ!」
尚も暴れる男性。押さえつけている保護官の額には大量の脂汗が浮かびはじめていた。
火事場の馬鹿力ってやつだったのか? 保護官の身体能力がすごかったことに驚くが、今にも倒れそうになっている保護官の様子は異常だ。
どういこと?
すぐに警備員(妙年の女性)の方たちが駆けつけ暴れる男性を会場の外に連れ出していったが、保護官はその場で横になっていた。
「あの保護官の人、すごい身体能力でしたけど、大丈夫ですかね」
念力が使えない会場内で人間離れしたあの動きはとても真似できない。純粋にすごいと思っていると、
「保護官は常に念解薬(粒タイプ)を常備しています。その常備薬を飲んだのでしょう」
そう答えてくれたのはミルさん。こういう事にはやっぱり詳しいね。
念解薬とはこのような念力が使えない場所でも一時的(30秒くらい)に念力を使えるようにする薬だが、体内の念力を無理矢理活性化させ念力の使用を可能とするため副作用(丸1日動けなくなるだけでなく、念力も3日は使えなくなるなど)がすごく、気軽に使っていい代物ではないそうだ。
「そんな薬が……ミルさんも持ってるんですか?」
「はい。ただ市販はされていませんよ。使い方によっては命の危険もありますので使用者にも資格がいるのです」
そっか……あの薬は思ってる以上にかなり危険な代物のようだ。今も苦しそうにしているもんな、あの保護官。
不意に保護官とミルさんとが重なる。
「ミルさんは使わないでくださいね」
「……」
ミルさんからの返事はなかった。そりゃそうだ。男性を戒めるのも危険から守るのも身の回りのお世話をするのも保護官の務めだと言っていた。同じような場面ならミルさんも同じような行動をとるだろうな……あと安全を確保するためならば……
もちろん迷惑行為はするつもりはないけど、毎日欠かさずやっていた鍛錬も、もっと頑張ろうと思う。
そんな事を考えている間に横になっていた保護官も担架に乗せられて会場から出て行った。
未だに静まり返っている会場内。とてもお見合いパーティーを続ける雰囲気ではないが、悪態をついていた男性陣も大人しくなっている。
盛り上がりに欠けるがフリートークはスムーズに進んでいった。
俺も西川さんが抜けた場所(椅子)にはすぐに他の女性が座り、それからはメンバーが変わる事はなかった。
ただ、俺が剛田武人だということを悟られない様に気をつけて話すのは骨が折れ、ボロを出さないようなるべく聞き役に回ったが、それはネネさんがいたからできたこと。
ネネさんは俺の代わりに女性陣に話題を振り場を盛り上げてくれたのだ。ホント感謝しかない。
途中、
「きゃー肥田(こえた)様」
「竹人(タケヒト)様」
俺は剛田武人ではないと言いつつも、得意げにステージに上がったオシャレ男子。そのオシャレ男子は司会者からマイクを借りると歌を歌った。
「聞いて驚けよ、俺(肥田竹人)が歌う『微笑みを君に』を」
俺たち武装女子の曲だった。スマホから曲が流れ始めるが、それはたくさんの要望があり年末ギリギリにアップした『君の側で』と『微笑みを君に』のカラオケバージョンで、その『微笑みを君に』の方だ。
その曲に合わせてオシャレ男子がゆらゆらと身体を揺らし歌い出す。
ふんふんふん♪
突然のことに呆気にとられる会場内。所々音を外しているがとても楽しそうに歌う太めのオシャレ男子。
笑みを浮かべたネネさんが肘でつんつんしてくる。俺も気づかないうちに笑み浮かべていた。そうさ、自分たちの曲が楽しそうに歌われていて俺は嬉しかったのだ。
ただその歌声を聞きすぐに肩を落とす女性たちもいたが、カラオケのノリで楽しく手拍子する女性たちもいた。俺も曲に合わせて手拍子した。
意外なのは悔しそうな顔をしながらステージ上を見ている男性たちがいたことだ。なんでだろう、もしかして歌いたかったのか? それはないか。
ただ少しモヤっとしたのはオシャレ男子の写真をネネさんとミルさんが撮っていたこと。
そんなパプニングはあったが、彼は途中で止められることなく最後まで歌い切った。
でもそれは当然かな。彼が楽しそうに歌うから沈んでいた会場内にも活気が戻っているのだ。特に女性陣の顔が明るい。この雰囲気なら運営側も進行しやすくなっただろう。
それからしばらくするとフリートーク終了の時間となり皆にある紙が手渡される。とはいえ女性と男性とでは渡される紙は違うみたい。
ちなみに俺のもらった紙には項目が3つあった。
・婚約したい女性
・気になる女性
・連絡先を教えたい女性
いなければ自分の名前だけ書いて白紙で出せばいいらしいが、どうしよう。今日会ったばかりの女性で婚約したい人はいない。気になる女性も正直……連絡先は別に教えても構わないかな……
なんてことを考えていると。
「うかうかしてるとミルさん彼のところに行っちゃうかもよ……」
突然耳元でそう呟いてきたのはネネさん。写真も何枚か撮っていたようだし、と言われれば、それは俺も見ていたから知っている。っていうかネネさんも写真撮っていたよね。
「私? 私もタケトっちたちの歌を一所懸命歌っている彼の姿は正直ぐっときたね……うまくはなかったけど、性別関係なく一所懸命になれる子、私好きなのよ」
そう言ったネネさんはすぐに俺から離れて自分のスマホに視線を落とす。ミルさんもネネさんと同じく自分のスマホを見ていた。2人とも彼の写真を見ているのか?
何それ、ちょっとモヤっとするっていうか嫌なんだけど……え、嫌? あれ俺、嫌なんだ……
そりゃ、ネネさんにもミルさんにもお世話になりっぱなしだけど……
ネネさんにはスタジオを借りてるし、これからもずっと武装女子の活動を見守ってもらえるものと……
ミルさんは保護官だからずっと俺の側に居てくれるものと……
2人がいることが当たり前だと思っていたがそれは違った。
今回2人が彼を選べば今のこの関係は簡単に終わってしまうのだ。
もちろん違う形で関係を築き上げることはできるかもしれないが、今のような関係とはきっと違う。そう気づいた俺は……
婚約したい女性の欄に2人の名前を書いていた。
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