第110話

「それじゃ誰から開封しますか?」


 神府の(姉)さんがそう言ってところで「はい!」と元気よく手を上げるのは神府黒(妹)さん。


「私のはこれです!」


 デン! と自信たっぷりにテーブルの上に置いた福入袋はかなり大きめの袋で金色の袋に赤色で福と書いてある。うーん。見るからに怪しい。というかちょっと色褪せてる気が……


「どう、すごいでしょう。これ近所のスーパーの片隅にちょっとだけゲームコーナーのスペースがあるんだけど、そこのクレーンゲームの中に入ってた景品なの。いやぁ、アームが弱っちぃから取るの大変だったのよ。お札が何枚飛んだことか」


「え? あのスーパーって、あのスーパーよね? あのスーパーのゲームコーナーの景品(福入袋)って1年くらい前からずっと入ってたと思うけど……」


「え?」


「え?」


 神府黒(姉)さんの言葉に凍りつく神府黒(妹)さん。心なしか顔色が悪くみえるが、何で言った本人の神府黒(姉)さんまで驚いているのさ。


「えっと、とりあえず開けてみましょう。本当に見たこともないような、すごいモノ(非売品)が入ってるかもしれませんよ」


 誰も何も言わないので俺が代わりに話を進める。みんな(視聴者)見てるからね。


「そ、そうだね。じゃあ伊代、開封お願いしまーす!」


「はーい!」


 どうにか気持ちを持ち直した姉妹。ベリベリと慎重に開封した神府黒(妹)さんが、そっと中を覗き込んだ後に天井を見上げる。

 その様子を見ていたみんなは思ったはず。ハズレだったのだと。俺もそう思ったもん。


 神府黒(妹)さんがなかなか動かないので俺が代わりに中のモノを取り出してみれば、


「こ、これは! ……マネキン猫?」


『ぶっ! マネキン猫』

『マネキン猫だ』

『あはは、マネキン猫だね』

『受けるw』

『ww』


 招き猫じゃなくてマネキン猫の登場です。猫ちゃんの服を展示するマネキン猫。軽いけど普通にデカい。しかもそれが一つしか入ってないのだ。幸いなのが視聴者には大受けだったこと。


「いやぁ……、……生配信にはハプニングがつきものですからね〜さあ、まだ始まったばかり、次に行きますよ♪」


 神府黒(姉)さんもフォローできないと判断したのかサラッと話を進めて次の福入袋の開封に移る。


「次は僕の福入袋だね。僕のは底乃スポーツ店で買った。キャンプ用品が入っているらしい福入袋だよ」


 山野さんが中を開けると、レジャーシートや防寒シート、丈夫なリュックにすごく小さい折り畳みイスに、水筒、木製の食器。あと着火剤などのキャンプ用品。可もなく不可もない。値段の割にはたくさん入っててお得だってことは分かった。底乃スポーツ店のいい宣伝にはなったかも。


「次はわたし。わたしのはこれでーす。個々葉レコード店で買った音楽CDの入った福入袋です。この重量感がたまりません。たっぷり入っていると思いますよ〜」


 にこにこ笑顔の夢見さんが中を開けるとひと昔前の音楽CDがたくさんでてくる。

 あとCDクリーナーにCDカバーに、コンパクトなCDラジカセ。他に少し大きくて型の古いミュージックくん。

 この福入袋もたくさん入ってて音楽好きの人なら普通にお得な福入袋だった。俺でも欲しいと思ったもん。すごいって言うコメントも多く夢見さんは気分良さげだった。


「次は私ですけど、なんか出しづらいですね。私のはこれです。ブックトリードで買った。古本が詰め合わされた福入袋です」


 ごめんなさいね、謝る本田さんが中を開けると予想通りたくさんの本が出てくる。

 ミステリー(推理小説)に、ファンタジー、歴史小説、短編小説、ノンフィクション、エッセイ(随筆)など、あとは万年筆やルーズリーフ、ちょっとした文房具が入っている。

 残念ながらマンガは入ってなかったが、本好きならお得な福入袋だね。


 ただ中身が普通過ぎる(マネキン猫は除く)から視聴者にとっては面白くないんじゃないかと心配にもなるが、同接者数は減ってないので視聴者のみなさんは楽しめているってことかな。


「私のはこれです。男性専門店あゆさんで買った福入袋。おまけとして武装女子さんのサイン入り色紙に店内に貼られているポスターに使った生写真が入っているらしいですよ」


 ぶっ! どこかで見たことある福入袋だと思っていれば鮎川店長のところの福入袋だったとは。俺も少し手伝ったから内容はだいたい把握している。


 あれ?


 ここに来て同接者数が突然増え始める。つまり、男装福入袋はみんなに期待されているってこと? よかったですね鮎川店長。でも俺も欲しかったんだよね。立花さんの購入した福入袋はサイズがSだから趣味の合わない服を一枚売ってもらったとしても俺には着ることができないんだよね。


 立花さんは開封すると、目をキラキラさせながら中に入っている商品に一喜一憂しながら取り出していき、


「最後は生写真なんですけど、残念ながら私の福入袋には生写真は1枚でした。当たりだと3枚入っているそうですよ」


 生写真を丁寧に取り出しそっとその写真を見た立花さんが突然顔を真っ赤にして固まった。

 この生写真は誰にも見せたくないとばかりに自分の胸に押し当てて横から覗き込めないようにしている。


「みーこちゃんどうしたの?」


 立花さんが突然そんな行動をとればみんな気になるよね。神府黒(姉)さんが立花さんに声をかけるが反応は悪い。


「だめ。これはみ、見せられないよ」


「みーこちゃん?」

「みーこさん?」


 写真が気になっているのは神府黒(姉)さんのだけじゃなかったみたいで他の4人も興味津々というか圧がすごい。


「きゃっ……あっ」


 神府黒(姉)さんから脇腹をこちょこちょされて身体をくねらせたところをひょいと神府黒(妹)さんが掴みとる。姉妹の連携プレイに立花さんはあっさりとその写真を取られた。


「みーこちゃん、独り占めはゆるしまへんで〜」


 変な方言を使いおちゃらけながらも手にした写真に目を落とした神府黒(妹)さんだが「わっ」と驚き一瞬で顔を赤くして固まる。


 何、何が起こっている? 悪い予感しかしないんだけど……


 神府黒(姉)さん、山野さん、夢見さんと次々と同じような反応があり、とうとう最後の1人、本田さんが手にして固まった時にようやく覗き込むことができたが、これって。


 俺が上半身裸でモチベートブランドのジャケットを羽織っている写真だった。胸板や腹筋が丸見えだから、これはポスターにもなっていない。


 これはたぶんあれだ。次に着る衣装が整うまでの間、上着を脱いだ後で面倒だったからジャケットだけを羽織って待っていた時のもの。

 鮎川店長というかあそこの撮影スタッフ、いつの間に撮影してたんだよ。


 すぐにリラクセーションを使い、みんなが落ち着けば、ようやく俺の福入袋の番だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る