第93話 (沢風和也視点)
「おい、デブす。東条はまだ何も言ってこないのか……」
「はい。何も」
「けっ」
ちょっと調べれば分かる(マネージャーに調べさせた)、ハッピーデイの特番『みんなで歌って踊って』は過去最低の視聴率だったと……
あはは、ざまぁねぇな東条さんよ。
まあ、生配信時に回線トラブル(理由が分からないのでそういうことにした。これもマネージャー調べによるもの)が発生した時にはちょっとだけ焦ったが、僕を軽く見るから悪い。くくくっ、謝るなら今のうちだぜ。
僕はスマホを操作してネッチューブのランキングをチェックする。
「ちっ」
ハッピーデイに僕が生配信したものを編集させてからアップした動画は2位のままだ。
1位は『ふおーいあーずチャンネル』という今まで聞いたこともないアイドルチャンネル。チラッとみたがお子ちゃまどもがワイワイ騒いでいるだけのお遊戯動画。これが1位とはこの世界の女どもはバカか……
まあアイドルやら歌手やら女優が、何かしらアップするとたまにあるんだよな。まぐれの一発ってやつが。この手の動画はすぐに落ちていくと分かっているから気にするまでもないが、しかし……
「……小賢しいヤツらだ」
5位以下は昨日続けてアップした僕のダンス動画だからいいが3位と4位は『武装女子』。
ランキング外に落としてやろうと3つも上げたのに……くそっ。
耳障りな歌を歌うだけのクソみたいな動画なのに、ただ男が出ているというだけでしぶとく居座りやがる。
「ちっ」
イライラする。こんな時は女を抱くに限るが……
「呼んでねぇよ。デブすが! こっち見るな」
「失礼しました」
僕に頭を下げるデブマネージャー。お胸は大きいがそれはデブだから。デブすは論外だな。
妻たちの代わりにきた保護官は顔やスタイルはいいが愛想もクソもない。あの冷めた目つきも気に入らねぇ。
学園で増やした彼女(30人)は東条と婚約したあたりから近寄ってこない。ま、ドラマの撮影や取材やらで学園に通う時間が減っていま彼女だって名乗り出てこられても誰が誰だか覚えていないんだが、たぶん東条が何かしたのだろうな。
あの女、とんだ疫病神だな。あーイライラする。こんな時はやっぱり、あそこしかねぇか。
「出てくる」
「へ? まま、待ってください和也様! 今日は『ミクダース』の関係者の方が年末のご挨拶に……」
デブマネージャーが何やら後ろでブヒブヒ言っていたが気にしない。僕は今イラついているんだよ。
僕は少し歩き普通のビルに入った。5人の保護官も黙って付いてくる。
「和也様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「ああ」
ここは妻のりん子が帰省する前に教えてくれた施設『ハッスル』。女を抱ける施設だ。
東条絡みかとちょっと警戒したが、国が管理している施設だと聞き、今では毎日のように通っている。
和也は知らないが、この施設は国や地方公共団体と民間企業とが共同出資して急ぎ設立されたものだった。
他の男性と違い強すぎる沢風和也の性欲を利用するためだけに。もちろん東条グループも絡んでいる。
その本当の目的は、結婚したが行為の回数が少なく子どもがいまだにできない既婚女性や容姿や体型に自信のない、コンプレックスを抱えた女性でも男性に触れる機会と子どもを授かる機会を与えるために新たに設置された救済施設。
女性側には『子生の採りの住まいる』だと案内されており、利用したい女性はその会員となっていた。
ちなみにこの施設『子生の採りの住まいる』は、性欲の強い男性がいると報告を受けた県から優先して設置される計画で、各県の県庁所在地に一施設ずつ設置していく予定となっている。
しかし、そのような報告は未だ上がらず沢風和也の近所に一施設だけしか設置されていない。
「僕は忙しい。早く案内しろ」
「失礼しました。すぐに」
そう言って頭を下げる化粧の濃いババアが奥の部屋へと案内してくれる。
ここは僕が好きな時に好きなだけ女を抱ける場所。無料で利用できるのに責任は僕にない。前世では考えられないような夢のような場所だ。
ただ不満があるとすれば暗い通路を歩くこと。赤い光を見ていれば問題なく奥の部屋へと辿り着けるのだが、照明ぐらいちゃんと付けろ。気分を盛り上げるためだとババアは言うが、全体的に薄暗いから絶対経費節減だよな、そんなに予算がないのか、無いならこの僕が寄付してやるが……
「和也様、お気遣いありがとうございます」
本当に演出だと言うババア。素直に受け取っておけばいいものをプライドの高いババアだ。まあいい。部屋に入ると僕好みのエロい身体の女どもが待っていた。
ほう、今日もなかなかの上玉が5人か……
ここの施設は、ハズレがないのもいい。
この時和也は、念能力のイリュージョンを受け自分好みの女性を見せられているのだが、知らぬが仏である。
『ハッスル』でハッスルした僕は軽い足取りで自宅に戻る。
「和也様!」
戻って早々にデブマネージャーが姿を見せる。まだいたのかよ。僕は息を吐き出し悪態をつく。
「はぁ……なんだ」
「和也様、今日は予定が入っているとあれほど伝えていましたよね」
やれ『ミクダース』の会長が挨拶に来て……やれ年越しライブの最終確認が……やれ雑誌の取材が……などの僕が出て行くといつ帰ってくるか分からない、せめて何処に出かけるのかだけでも教えろと言う。
「うるさい!」
「っ……ではこれだけでも目を通しておいてください」
「なんだそれは」
デブマネージャーが一枚の紙を差し出してくる。
「明日30日の『歌王夜』の出演者が変更になったそうです」
ほう、あの演歌ババアが大ケガね。いいんじゃない。僕、あのババア嫌いだし、で、代わりはどこのどいつが……
「はあ!? なぜ武装女子が出る! おいデブす、説明しろ」
「和也様。私もその送られてきた文章で初めて知りましたので……」
「使えねえデブが!」
くそ、くそ、なぜ。
——『はぁ、せめてあと一年後にデビューしてくれればうちに引き込んだのですが……』
——『何か不満でも?』
——『うーん。無理ね。武装女子の彼の勢いって今すごいのよ。ウチが圧力かけてるけど時間の問題。一年いえ、半年も持たないかもね。それにウチとライバル関係にある西条グループが彼に接触しているって情報もあるの。
ライバルグループに引き込まれるくらいなら計画を前倒しにしても彼らをこちらに引き込もうって話が出てきているほどなのよ』
東条か、東条だな! 東条が番組に手を回したんだな。やってくれるじゃないか東条。
「!?」
あーそうか、そういうことか。婚約の返事を引き伸ばしているのも僕と天秤にかけているからか……あはは、これはとんだ女狐だったか。なめやがって。
謝れば許してやろうと思っていたが、もう許さねぇ。今に見ていろよ東条。
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