第77話 (面堂未留視点)

「さて」


 武人様が着替えのために倉庫に入りましたが……その瞬間から活動をはじめたあの者たちは何者ですかね……


 外に出てコインを二つ地面に落としてその上に両足をそれぞれ乗せると、気配を消してそのコインを念動で動かす(浮き上がらせる)。本来校内での念力の使用は認められていないが、男性の護衛としての立場がある男性保護官はこれに該当しない。


 コインに乗った私は一気に上空に浮き上がる。


 ——……ここの生徒さんでしたか。


 屋上まで一気に浮き上がると屋上には女子生徒が2人いた。外でちょろちょろ嗅ぎ回っている輩と違ってどちらかといえば好意に近い淡い色を纏っていたのでそんなことだろうとは思いましたが……


 ——……ん?


 何をしているのか疑問に思い上空からその女子生徒たちの行動を眺めていれば武人様の居る倉庫に向かってカメラを構えている。鉄格子のついた倉庫の窓に……


 ——……ぁ。


「素晴らしい」


「うわぁ、男性の肉体美ってアニメだけの世界じゃなかったんですね。武人様尊いです」


 その窓は全開でした。そしてその窓の奥に見えるのは上半身裸になっている武人様の姿が……


 ——……。


 どうやら着替えの途中だったようですが、思わず見惚れてしまいました。


 程よく締まった武人様の上半身。そういえば昨日の夜も鍛錬をしていましたね。その賜物ですか……ゲームとは違う本物の男性の肉体。筋肉美とはこのことを言うのだと初めて学んだ気がする。


 比べてはいけないが和也さんは太っていた時はぶよぶよ。痩せたあとは筋肉量が少なくひょろっとしていて貧相。全然違い……


 ——はっ!


 武人様がズボンに手をかけたところで我に帰る、武人様の恥ずかしい写真を撮らせる訳にいけません。そう思い行動を起こそうとしたその時、


「はい。これ以上はダメ。私たちの目的はあくまでも情報収集。男性として益々磨きのかかった武人くんの謎に迫るためのもの。引き上げますよ」


「はいはい、分かってますよ園根田先輩。はあ、でも間違いなさそうっすね。彼の魅力は結婚されたからで間違いなさそうっす……」


「あら、そんなにがっかりすることないわよ。男性は1人目の結婚がよくゴネるらしいのよ。その1人目でゴネると今までよりも女性から距離をとったり強く当たったり、そうなれば次の結婚はとおのく。

 でも武人くんの場合は結婚後も女性を避けることも距離を取ることもなく、当たり散らすこともない。逆に余裕すら見えそれがまた男性として魅力的にも見えた。あの状態ならば2人目のハードルはきっと下がる。1人目の奥様に感謝しないと」


「そんなもんすか……」


「そんなもんよ。私の情報力(掲示板サイト)を舐めないで」


「いや、そこは疑ってませんけど……武人くん……やっぱり素敵っすね……」


「……」


 見れば倉庫の窓は閉まっていた。なかなか念動の資質が高い子のようですけど、校内での念力の使用は禁止されているのでは? まあ、私は風紀委員ではありませんし、引き際はわきまえているようですので見逃しますが、なかなか優秀な子のようですね。


 ——ハードルが下がる……ですか……


 さて、私も戻りますか。


「ミルさん、お待たせしてすみませんでした」


「……いえ」


 ダメです。先ほどの武人様の肉体美がチラついてまともに顔を向けることが……


「ミルさん、顔が赤い気がするのですが風邪じゃないですか? 無理してませんか?」


「いえ。問題ありません」


「それならいいのですが、環境が変わったばかりですから、身体がキツイ時は遠慮せずに言ってください」


「はい」


 武人様に変な気遣いをさせてしまいました。これは反省ですね。


 そう言った後、武人様はみんなが並ぶ列とは違うところに1人りで並ぶようですので、私は体育館の隅に移動しましょう。


 ——ん?


 その移動中、ふと目に入ったのは、武人様に対する女子生徒たちの熱意。体操服姿という普段と違った姿なので、その熱意はかなりのものですが、武人様がその近くを歩くと武人様のリラクセーションの念力がふわっと広がり、その熱意を下げてしまいました。

 今は淡い色、好意の色、憧れの色、他にもありますが、みなさん落ち着かれた様子。


 武人様が意図的に使っている様子は見られなかったので無意識なのでしょう。本能で何かしら察したということなのでしょうか? 不思議なお方です。


 授業はマット運動のようですが……1年生合同での授業のため生徒の数が多いですね。


 しばらく授業の様子を眺めていましたが……武人様の素の身体能力はかなりのもののようです。念体の能力が低い(ほとんどの男性は低い)のを補うくらいに。


 マット運動は前転、後転、側転……と、技はどんどん難易度が上がり、できなかった者はそこまでで座って見学していく中、武人様は最後まで残りやりきりました。思わず拍手してしまいそうになり、自分でも驚いています。


 男性に興味のなかった私なのに……


 しかし、武人様のリラクセーションで落ち着かれたとはいえ、みなさんは……やはりというか体操服姿の武人様に釘付けなんですね。


 次は順番に好きな技を披露するようですが、武人様が技を繰り返す度に黄色い声が上がります。武人様も出来た子、出来ない子、分け隔てなく声をかけて楽しそう。


 私もちょっと混ざりたくなってしまったけど、体育の先生も、


 ——あ。


「武人くん、こんな技もあるのよ」


 先生が側転から捻りを入れてバク転、そしてバク宙で決める。もうそれは床体操です。


「さすが先生」


 武人様にすごいと言われて満足気な先生。それくらい私も出来ると思ったところで、ハッと我に返る。


 私は武人様の保護官です。職務を全うしなければ……


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