第71話

「初めまして剛田武人です。えっと」


「失礼いたしました。私は面堂未留(めんどう みる)と申します。どうぞミルとお呼びください」


 メガネをかけたメイドのキャラが俺のキャラに向かって頭を下げている。おお。おじぎのエモートを使ったのか。丁寧な方のようだね。俺もおじぎのエモートを使って頭を下げる。


 俺のキャラも特別なキャラで俺に似せて作られたキャラだ。キャラ名もタケト【公式】となってて、ちょっとカッコ良すぎな気もするけど、香織はそんなことない、よく似てるよって感心していた。


 ちなみに朱音さんはぽっちゃり猫獣人キャラだ。自分に似せたらしいけど可愛らしいキャラだ。ちなみに朱音さんとミルさんの使うキャラの名前には【公式】って表示はない。

 俺のは配布してもらったキャラだけど、朱音さんとミルさんはキャラメイクから頑張ったってことかな?


「それじゃあ今日は3人でゴブリンの討伐に行く感じかな? 3人だったらゴブリンの森も楽に行けそうだからゴブリンの森にでも行く?」


 程度なフィールドでゴブリンを狩るよりも、ゴブリンの森(ダンジョン)で狩った方が宝箱もあるし奥にはレアモンスターのボブゴブリンがいる。

 2人はキツイ(朱音さんは余裕そうだけど俺は無理)けど3人なら楽にいけると思ったからだ。


「ん、それでオッケー。でもミルの事が先。ミルは男性保護官」


 いきなりだね。普段は口数が少ない分、本題に入るのが早いんだよね朱音さんは。


「ミルさんは男性保護官ですか」


「そう。最近、色々な業界から注目を集めている武人くんは身の回りの安全に気を配った方がいいと思う」


 猫獣人キャラが俺のキャラに向かってビシッと指を差してくる。しかし、俺が注目されているってもしかしてバンドをはじめたから? いや、それよりも男性保護官だな……


「男性保護官は……今まで利用したことなかったけど……というか俺、男性保護官を利用しようとして一度断られているからなぁ……」


 今さらって気がして必要に思えない……


「……。男性保護官は国から委託された民間の会社が運営しているけど、よほどの事由がない限り男性から依頼があれば駆けつけるもの……」


「そうなの?」


 名乗った瞬間に人格に問題がある人は受け付けていません、ガチャリ、だったもんな。自覚があっただけに心抉られたよ。あ、なぜ気づかなかったんだろう。今思えば、それだとほとんどの男性がそれに該当するんじゃない?


「ん、ちなみにその会社はなんていう会社? 武人くん?」


「え? ああごめん。ちょっと違うこと考えていて、それでえっと……ウチから1番近くにあった会社で、たしか……『お任せ安心安全警備』だったかな? あなたの安心は私たちが守りますって謳ってて、すごく心に響いたんだけど……」


 実際、ここしかないって思ったもんあの時の俺は。で、そこがダメだったからどこも同じ扱いだろうと諦めた。


「やっぱり……安心して、その会社はもうないから。東条グループ関係の会社ならもっとよかったけど……」


 もうないって潰れたのかな……猫獣人キャラは椅子を出してお茶をすすっている。うーん、聞きづらいか。しかし、


「東条グループって何?」


「なんでもない。それよりもミルなら大丈夫。ウチのグループ会社に所属しているから変なことにはならない。だから一度会ってみてほしい」


「朱音さんが言うなら、分からました。ミルさんごめんね。俺一度断られたことがあったから……今さら必要なのかなって気持ちが先にあったから……」


 料金は男性手当てから差し引きになるが、補助とかあって負担はそこまでないんだけどね。


「武人様。一度そのようなことがあれば無理もない話です。私は気にしておりませんので、お気になさらず」


「すみません、そう言ってもらえると助かります。ありがとうございます」


 メイドキャラが握手をしてきた。なんの握手だろう、仲良くしようってことかな? 分からないけどとりあえず握手を返しておく。


「でも男性保護官については真剣に考えてほしい」


 正直どうしようかなって気持ちが強い。今は学校にも週3日は通ってるし、土日は約束しているネッチューバーに会うために外出もしているし、買い物にも普通に行っている。

 握手を求められたり、ざわつかれることはあるけど、特に問題らしき問題も起きてないから大丈夫じゃないかな……


 なんてことを朱音さんに伝えたら、日本だけならまだしも海外の動向が気になっているのだと言う。


 どうも俺たちは海外からも注目を集めているらしいのだ。


 俺たちというのは俺と沢風くんのこと。ただ沢風くんは常に男性保護官を5人も引き連れているらしい。しかもミルさんの元同僚で今はヘッドハンティングされて別の会社に行っているらしいけど、


「沢風くんは5人……ですか」


「はい、5人です」


 なるほど。朱音さんも心配するはずだ。俺には1人も保護官がついてないもんね。

 知らなかったが他の男性も自宅付近に最低1人は男性保護官を待機させているらしい。


「そこは自宅の中じゃないんですね」


「特殊なケースを除き、基本的には自宅付近での待機ですね」


「それだと大変だと思うけど……そういうものなんだね」


「そうですね。ただ沢風様は自宅で一緒に過ごしていますので身の安全を守る側としてありがたいですね」


「沢風くんはさすがだね」


 話が少し脱線しかけていたが、朱音さんが早い方がいいからと明日にでもミルさんが俺のウチに訪ねて来てくれるということで話が纏まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る