第55話
文化祭二日目。
「先生、昨日はサービスできなくてすみません」
「ふふ。そうね、剛田くんが作ったミニパフェ食べてみたかったからすごく残念だったわね」
先生と冗談なのか本気なのか分からない会話をしつつ教室に向かう。とはいえ、今日は文化祭二日目なので出席を確認したらすぐに自由となる。
俺は昨日の件もあって(行った先々で混乱を起こす)すぐに体育館に向かうつもりだ。
そう昨日はあれから(連行されてから)生徒会室で少し時間を潰して他のクラスの出し物を見て回ったんだけど、俺が行く先々で混乱が生じて何度も生徒会室に連行されてしまった。
忙しくて大変なはずなのに一之宮先輩と水間守先輩は嫌な顔一つせずに気にしなくていいと笑顔で言ってくれたけど、どうしても気にしてしまう。
ただ先輩たちは先輩たちで楽しそうに腕を絡めたり密着してきたり恋人繋ぎをしてみたりと連行するときの行動が毎回違うのだ。
理由を聞いたら、先輩たちは高校生活最後の文化祭なのだが自由な時間がほとんどない。
だから役員として活動しながらも楽しめる時は楽しもうと考えていたそうだ。なるほどと思ったね。
教室に向かう途中先生がふいに立ち止まる。
——?
「剛田くんは……今日はたしかバンドフェスティバルに出演するのよね?」
「はい。ただ男の俺がメンバーに入っていることから演奏は1番最後になりました」
「そうだったわね……ふふ。実は先生、剛田くんがバンドをすると聞いてからずっと剛田くんの歌が聞きたかったのよ。だから今日は絶対に応援にいきますからね」
「ありがとうございます。これはなおさら頑張らないとですね」
社交辞令だと分かっていても応援してくれると聞けば嬉しくなる。よし頑張ろう。
————
——
教室で出席確認してから俺は早速体育館に向かう。これは昨日の反省を踏まえてのこと。
体育館で大人しくしていればあまり目立たない。目立たなければ混乱も起きない、そう思ったのだ。
教室から出ようとしたところでつくね(霧島)さんに呼び止められる
「武人くん、ちょっと待って、これ」
それはクラスの女子が今日ために作ってくれた衣装だった。
つくね(霧島)さん、ギリギリまで制服のままするか迷っていたんだよね。
「間に合ったんだ」
「うん」
これは前世でいうところのビジュアル系バンドのファッションに似せた衣装っぽい。ゴージャスな衣装でホストのような雰囲気の細身のスーツにも見える。カッコいいがまだ一度も袖を通してないので俺に似合うか心配だが、身体に当てた感じでは良さげ。みんなもウンウンと満足気に頷いているから大丈夫だと思う。
ちなみにメイクはせずに髪型を整える程度にする予定。
「ありがとう」
他のメンバーも男装スタイルで演奏することにしたので、俺の衣装と色違いの衣装を着るらしい。
——おっと……
体育館にいく途中すれ違う女性がやたらと多いことに気づく。ちょっとぶつかりそうになったので慌ててよける。
二日目だけど、昨日よりも賑やかに感じた。外部からのお客様が多いからかな?
——ん、あれ? 今一瞬……まさかね、
遠くの方に妹に似たような子が見えた気がしたけど気のせいだろう……
「ここにしようかな」
体育館に早目に来たのはこれが目的。どうせなら他のクラスのバンド演奏を楽しみながら時間を潰そうと思ったのだ。
「そうだね」
「よさそう」
「うん」
「いいと思う」
でも後で移動(食事休憩)もしやすいように端の方の席に座ると、左側につくね(霧島)さんとさちこ(牧野)さん右側にさおり(君島)さんとななこ(深田)さんが座った。
「あれ、みんなも来たの?」
「うん」
それから一組目がステージに立つまでみんなで話をしていれば、つくね(霧島)さんが二曲目を作ったと言う。
あれ?
すごいと思ったが疑問も。文化祭は今日で終わりだから、バンド活動も今日までじゃないのかと。
「うん、そうなんだけど……」
つくね(霧島)さんが珍しく歯切れが悪い。何か考えがあってのことみたいなので後で話を聞くことにしよう。
そんなことを話していれば、準備してあった座席は全て埋まっており、文化祭実行委員の人と一組目(一年)のバンド演奏者がステージに立っていた。
一年生だからみたことある子たちだと思うけど、ちょっと派手目な衣装を着てメイクをしているから誰だか見分けがつかないが、スカートが短いけど大丈夫? って男は俺だけだからそんなこと気にしてないのかも。
一年生バンドAが準備している間に、文化祭実行委員の方の挨拶は終わり、すぐにバンドフェスティバル開催を告げる演奏が始まった。
「行くよ!」
ジャーン!
♪〜
プログラムに記載されている通りこれはアニメの曲のカバー。たしか野菜型ロボットに少女たちが乗り込みカビの使いと戦う、アニメの主題歌『残念なもやしの盛り合わせ』かなり盛り上がる曲だ。
いい選曲だと思う。なんてね。たまたま知ってる曲だったからテンションが上がっただけだ。
一曲目が終わると会場に割れんばかりの拍手がある。さすが人気のあったアニメの曲なだけあるね、二曲目に入ると拍手はすぐに止んだ。
三曲目、四曲目と続きトップバッターの一年生バンドAはステージから降りた。
「大丈夫。私たちのバンドの方がイケてる」
「うん。全然負けてない」
隣にいるさちこ(牧野)さんとつくね(霧島)さんの会話が聞こえてる。
二人は小柄で可愛らしいから二人が頷き合った話していると微笑ましく思えるね。
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