第36話
お昼休みになり、20人くらいのクラスメイトと一緒に机を並べてお弁当を食べる。ありがたいね。前回はみんなと食べたのに今回は一人でした、なんてことになってたら地味にショックを受けてたね。みんなありがとう。
一応保険としてこっそりコンビニのパンを買っていたけど、今日のお弁当は早瀬さんが作ってくれたものを受け取った。
早瀬さんはちょっとお化粧が派手だけれど、お弁当はとてもおいしい。ありがとうね早瀬さん。
「そ、そんなことないし」
照れてる早瀬さん見て思い出したよ、そういえば早瀬さんは体育祭でも一着だったよね。
「へへ、私、足には自信あるし、でも剛田くんもうれしいサプライズありがとね」
——サプライズ?
意味が分からず首を捻れば、早瀬さんは高いテンションのまま「あ、これって剛田くん的には言わない方が良かった感じ? 言っちゃてごめんね。うれしかったからつい」とごめんねのポーズ(両手を合わせる)をする。
ハグしたことがそれにあたるらしいけど、えっ、一着の人にハグは俺からのサプライズになってるの?
あの時は確か一走者の組の1着が君島さんで、俺が支えないと危ないくらい足下がふらふらしてたから、違うよね。二走者の組の1着は深田さんで……がっちり、ん?
——深田さん……?
俺が深田さんの方を見ればスーッと目を逸らし……小さく親指を立てた。ほほう。犯人はあなたですね。
「でも今回の体育祭は楽しかったよね〜」と周りに同意を求める早瀬さん。みんなも箸を止めて頷いている。
って、深田さん、俺のお弁当に何入れてるの? え、甘納豆? 深田さんの大好物なの? これはお詫びのつもりかな。深田さんちょっとしょんぼりしているね。
「深田さん、ありがとう」
笑顔でお礼を伝えれば深田さんは元通り。すぐに甘納豆を美味しそうにパクパク食べ始めた。そんなに美味しいんだ。甘納豆。
——甘っ!
————
——
俺は今音楽室にいる。そして俺の周りにはお弁当を一緒に食べたメンバーがそのまま着いてきている。
お弁当を食べてすぐに移動したからこうなってるわけだけど。
きっかけは一人の女の子の「牧野っち〜。さっき剛田くんとバンドを組むような話が聞こえてきたけど」というような一言から。
その瞬間のみんなの食いつきったらすごいね。あ、俺にじゃないよ。君島さん、深田さん、霧島さん、牧野さんに対してだよ。
みんな話すタイミングを探っていたのね。
霧島さんの作った曲を剛田くんが……とか、文化祭で演奏する……とか、剛田くんは曲もう覚えて来た……とか、剛田くんもう完璧に歌えるんだって……とか、ん? と思うようなことも聞こえてきたけど、そんな会話を他人事のように聞いていたら、いつの間にか、俺が音楽室で歌う流れになっていた。
霧島さんがミュージックン用のスピーカーを持ってきていた辺り、初めからそのつもりだったのかも知れないけど。
霧島さんにミュージックンを渡せばスピーカーをセットしてカラオケモードに切り替えて音量をチェックする。
俺としては誤魔化せるから霧島さんが歌っている声に合わせて歌いたかったんだけどね……それじゃダメ? そうだよね。
あ〜なんか緊張してきたな。
「じゃあ、覚えたばかりで自信はないけど、時間がないからとりあえず歌うね」
「やった」
「どんな歌」
「楽しみ」
ざわつき女性陣。その中でちょっと聞こえた言葉に苦笑いを浮かべながら、霧島さんに合図を送る。
霧島さんかコクリと頷くと、ミュージックンに触れて一時停止から再生に切り替える。
♪〜
『・
・
君の声が聞こえたんだ
壁を背に座り込む君の声が
何度も立ち上がろうとしていたその声が
だから頑張れなんて言わないよ
それでも君が不安だというのなら
不安が消えるまで僕が君の側にいるよ
でもね僕は見てみてたい
君がその壁を越えて喜ぶ姿を
笑顔で手を振る君の姿を……
・
・』
「ふぅ……」
間違えることなく歌い終えてホッとしたがみんなからの反応がない。
「えっと……」
パチパチ!
パチパチ!
俺の声を聞いて、慌てたように拍手が。下手ですみません。気を遣わせちゃって申し訳ないね……って、なんでみんな床に座ってるのかな? ペタンと女の子座り。
「よ、良かったよ剛田くん……」
「うん、すごく良かった」
「はあ、はあ……」
みんなは褒めてくれるがあやしい。みんな視線が泳いでてこっちを見てくれないのが気になるんだよね。
「えっと……」
ここは作詞作曲した霧島さんに聞いてみるのが一番かな。あれ、霧島さんは胸に手を当てて座ってるね。
「霧島さん……」
「は、はい!」
「俺の歌どうでした? 自分じゃよくわからなくて……」
「よ、よかったよ」
それだけ、なんでもいいので一言ないですか。息遣いが悪いとか、声を大きくとか、自分のイメージとは違うとか。
キーンコーン
残念ながらここで予鈴が。早く教室に戻らないと次の授業に遅れてしまう。
「ご、剛田くん、先に教室に戻っててくれるかな」
そんな君島さんの声にみんなが激しく頷いている。俺抜きで話しでもしたいのかな。
歌った後のみんなの反応にちょっとショックを受けつつ俺は教室に戻った。
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