第34話 閑話(沢風和也テレビ出演)

 ある日のこと、霧島つくねと、牧野幸子と、君島沙織と、深田夏菜子はテレビの前に座っていた(それぞれの自宅で見ているので一緒に見ているわけではない)。



 誰もが知る人気の音楽番組。


 この日の番組の内容は、いつもの女性リポーターが現地に赴きある男性と会うということで話題に上がっていた。


 男性が初めてテレビ出演する。女性たちの間ではかなり注目され、心待ちにされていた番組でもあった。


 LIVE中〜


「今日は、今テレビでもネットの間でも彼の名を耳にしない日がないくらい超、超、超〜有名になった男性ネッチューバーの沢風和也さんの学校に来ています。

 あ〜いましたよみなさん。沢風さんです。沢風さんが本当にいました。カッコいいですね。

 あ、私番組リポーターのウタコといいます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」


「はい、どうも」


 ここは沢風和也がいつも通う教室。お互いに軽く頭を下げて、リポーターは沢風さんが座っている机の正面の椅子に腰掛ける。


「いやぁうれしいですね。本当に会えましたよ。沢風さんは今人気ですからね。ほんとにうれしいですよ。

 え? もっと先に言うべきことがある? あっ、と失礼しました。

 沢風さん、テレビ初出演おめでとうございます! 男性初の番組出演者となってしまいましたが、もしよろしければ今のお気持ちをお聞きしてもよろしいですか?」


「今の気持ち、ですか。えっと、あははちょっと考えていなかったな〜。んーと、すごくうれしいかな」


「はい。ありがとうございます。私もテレビで共演できてとてもうれしいです。私ですらこうなのですから、沢風さんのファンの皆さまは大変なことになっているでしょうね。きっと」


「あはは、そうですね、みんなありがとう」


 カメラに向かって手を振る沢風さん。しばらく眺めた後リポーターが話を続ける。


「ふふ、それで今日は、なんと驚くことに沢風さんの新曲。うちの番組の方で初披露してくださるとのことですが、本当によろしかったのでしょうか?」


「はい。それはもう。もちろんこの番組の放送終了後には僕の『みんなのカズヤチャンネル』の方でも新曲の動画を配信いたしますので、そちらもご視聴いただけたらうれしいかな」


「は、はい! それはもちろん。スタッフのみんなさんも、お願いしますね」


 スタッフ一同、こくこく頷いたところで沢風さんが笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


「それでは早速、新曲は『君たちを愛してます』ということですが、どういった想いが込められた曲になってますか?」


「うーん、一言で言えば、愛情ですかね。でもまあ、聴いてもらえば分かると思います」


 曲への想いがそれほど感じられなかったため、一瞬、戸惑ってしまったリポーターだが、さすがはベテランすぐに持ち直す。


「そ、そうですよね。それでは早速準備の方に入りたいと思いますが、少し時間がありますので……

 えー、沢風さん、どうやら視聴者の皆さまから沢山のコメントが届いているようですね。おめでとうといった声が多いようですが、いくつか質問なんかもあるようです。

 沢風さん、どうでしょう。いくつか、その質問に答えてもらうことは可能でしょうか?」


 数人のスタッフが教室を離れて準備に取り掛かる。


「それは、はい。僕も生配信ではよくやってるので問題ないですよ」


 ホッとするリポーター。残ったスタッフが視聴者から寄せられたコメントを拾い、カンペに記入してリポーターの方に向ける。


「ありがとうございます……それでは……早速一つ目の質問は……CDはいつ発売されるのですか?」


「それは……もう少ししたらいい報告ができると思うので楽しみに待ってね」


「ありがとうございます。皆さまもう少ししたら沢風さんからいい報告があるようですよ、楽しみですね。

 では時間がないのでどんどんいきますね。えっと……沢風さんには今お付き合いしてる彼女さんはいますか? あ、これは気になりますね。沢風さんどうでしょう?」


「あはは、もちろんいますよ。嫁も5人いますね。僕は僕の手が届く範囲にいるみんなは、僕と幸せになってほしいんだ」


「沢風さんは今16歳で成人されてますものね……そうですか、結婚されてるんですね」


 驚きを隠せないでいるリポーター。つい漏れた呟くような声にもちょっと得意げな顔をしている沢風さんは反応する。


「はい。してますよ。別に無責任なことをしているつもりはありませんよ。僕は男性手当てを頼らなくても、そこそこ大きな収入がありますからね。

 それにまだまだやりたいことも。詳しくは言えませんが、僕の嫁は、そのためのパートナーでもあるんです」


 少し熱が冷めた様子のリポーターは向けられている次のカンペに視線を移す。


「そうですか……では次の質問にいきますね……えー、沢風様がすでにご結婚されているとは思っていませんでしたが、もし、私たちが望んだら私たちも受け入れてもらえるのですか? えっと、これはどうなんですかね? 今でも十分に……」


 変な質問を書いたスタッフを思わず睨むリポーター。


「それは当然受け入れますよ。もちろん一人一人ちゃんと向き合いますからね。だから安心してください」


 そう言って眩しい笑顔を向けてくる沢風さん。リポーターは思わず彼から目を背け、カメラの方を見る。


「これはファンの皆さまにはうれしい情報でしたね。それでは……時間的にあと一つ、いえ二つはどうにかいけそうですね。では次の質問は……剛田くんと色々ありましたけど仲直りはしたんですか? え、ちょっとこれは」


 ここにいない男性の名前が出て思わず焦るリポーター。


「……ん? 剛田くん、剛田くんとは、あはは誰のことかちょっと分からないや。ごめんね」


 彼のことは問題になったから知っていると思っていたリポーターは一瞬呆けて言葉に詰まる。


「え……っと、そ、そうなんですか。いえ、失礼しました。そろそろ準備の方ができますので、次が最後の質問になりますよ。えっと……

 オファーがあればドラマ出演とかされたりするのですか? これは興味ありますね。沢風さんどうですか?」


「そうですね。オファーがあれば出演してみたいですね。皆さまからのオファー待ってまーす」


 手を振り頭を軽く下げる沢風さん。


「それは楽しみですね。では沢風さん準備の方ができたようですので、あちらでスタンバイお願いいたします」


「はい。行ってきます」


 立ち上がり場所を移動する沢風さん。一言二言話してその間の時間を稼いだリポーターは……


「皆さま、大変お待たせいたしました。沢風和也さんで『君たちを愛してます』です。どうぞ」


 それから流れた曲は、恋をするなら俺にしろ、俺しかいない、といった優しさが溢れ出ていた一曲目と違って、とても男らしい曲だった。



 そして、その番組を終始見ていた彼女たち。


 君島「え、剛田くんを知らない」

 深田「あり得ない」

 牧野「知らないはないんじゃない」

 霧島「絶対に剛田くんの名前を知らしめてやるから」


 自分のことのように腹を立ていた。それは沢風和也が罵られた時に僕は気にしてないからみんな大丈夫だよっていうような発言をしていたから。


 それからMINEでやり取りした彼女たちは。体育祭での打ち上げを計画するのであった。


 ちなみに、今回の番組を見ていた女性は彼女たちだけではない。その他大勢の女性が見ていた。

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